改訂新版 世界大百科事典 「海上交通管制」の意味・わかりやすい解説
海上交通管制 (かいじょうこうつうかんせい)
marine traffic control
航路の効率的運用と安全性を向上させるために,航行船舶の自由な行動を人為的に制限すること。海上交通管理ともいう。海上交通管制は適用水域を定めて,船の交通方法を法令で規定するもので,規制の強さによって,(1)情報サービス,(2)船からの要望による誘導,(3)誘導,(4)能動的管制に分類され,またその内容からは,通路の指定,方向の指定,速力の制限,信号制御,個別管制に分けられる。実施には,法令のみに依存する方法,指示勧告による方式,交通管制方式があり,指示勧告方式と交通管制方式では対象水域内の船舶の行動を統一的に把握し,必要な指示,勧告,または指令を行うために海上交通管制センターを設け,ここで監視用レーダー,VHF無線,信号などを用いて情報の収集,伝達をしている。
海上交通は,大小の船舶が混在することや,立体交差ができないなどの物理的な条件とともに航行の自由という長い伝統のために,道路,鉄道,航空などの輸送機関に比べて,もっとも管制しにくい輸送システムである。1967年のイギリス海峡におけるトリーキャニオン号の乗揚事故を契機に,IMOによって同海峡に往復航路を分離する分離航路が設定されたのが海上交通管制の端緒といえ,アメリカやカナダでもタンカーの衝突,乗揚事故を契機にして,海上交通管理システムが70年代の初めに導入された。日本では,海上交通安全法に基づき,東京湾,伊勢湾,瀬戸内海の3海域の狭水道に11航路が設定され,ここでは特別な交通方法が定められている。とくに巨大船などは航路航行予定時刻をあらかじめ海上保安庁に通報し,同庁は事前に他の巨大船などとの航行時刻を調整し,航路管制信号などによって他の大型船の航行を規制している。このほか,港内の交通管制は港則法に基づき,特定港に航路を設定して航行管制が行われており,港内の航路内では並列航行や追越しが禁止されるなど狭水道よりも規制を強くしている。視覚による海上交通信号は主として白色または赤色の閃光信号が使われるが,73年ころから3~4m角の電光表示板が導入された。
→航路
執筆者:原 潔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報