日本大百科全書(ニッポニカ) 「海外漁業」の意味・わかりやすい解説
海外漁業
かいがいぎょぎょう
海外の漁業基地およびその周辺海域を根拠地として生産をあげる漁業をいう。第二次世界大戦前の露領水域漁業(サケ・マス)、真珠貝漁業(アラフラ海)、南アメリカ水域トロール漁業(メキシコ、アルゼンチン)なども含まれることになるが、戦後の1953年(昭和28)より海外に進出する投資事業が開発され、逐年増大していった。その生産方式は、(1)入漁料方式、(2)開発援助方式、(3)合弁方式、(4)単なる買付け方式などであったが、対象国によって生産方式に違いがあった。1971年ごろより現地法人数は急激に増加し、1980年には対象国52か国、現地法人数215に達した。しかし、この年をピークに減少し、現在では著しく縮小している。1990年代後半におけるおもな地域はアジア、オセアニアであり、北アメリカ、中央・南アメリカ、アフリカでも行われている。2000年代に入ると、延縄(はえなわ)や巻網によるカツオ・マグロ漁業や海外イカ釣り漁業が、オセアニア島嶼(とうしょ)国や南米の排他的経済水域への入域において、入漁料方式や相手国に船籍を移す現地化等を活用し生産を続けている。2013年(平成25)に海外漁業として操業しているのは、漁船数で30隻、関係者1000名程度の規模と推察される。
関連業種は、漁業、養殖業および加工業に3大別される。漁業では底引網漁業(エビトロールを含む)が多く、底延縄(そこはえなわ)、巻網、イカ釣りなどを含むその他の漁業およびカツオ・マグロ漁業がある。養殖業は養鰻(ようまん)、養魚、クルマエビ養殖、真珠貝養殖などがある。加工業はすり身をはじめ、水産缶詰製造、冷蔵・冷凍加工業、フィッシュミール、魚油製造などを行っている。漁業水域200海里の沿岸国における規制が強まり、1982年国連海洋法条約により排他的経済水域が規定され、1996年(平成8)日本も200海里排他的経済水域を設定、実施した。日本の海外漁業にとって、漁場の狭隘(きょうあい)、漁獲制限その他の生産規制が強まる一方、相手国との生産方式に諸種の解決すべき問題が横たわり、安定した生産を維持するうえでの懸念もある。しかし、漁業先進国としての日本への期待は大きく、技術協力や研修の実施、相手国の水産関連分野の経済・社会開発プロジェクトへの資金協力や地域の国際機関への資金拠出等、積極的な国際対応により海外漁場での安定した漁業の継続を図っている。
[三島清吉・高橋豊美・小倉未基]
『高梨正夫著『新海洋法概説』(1985・成山堂書店)』▽『水上千之著『日本と海洋法』(1995・有信堂高文社)』▽『佐竹五六著『国際化時代の日本水産業と海外漁業協力』(1997・成山堂書店)』▽『日本海事センター編、栗林忠男監修『海洋法と船舶の通航』改訂版(2010・成山堂書店)』▽『金田禎之著『新編 漁業法のここが知りたい』改訂版(2010・成山堂書店)』▽『漁協組織研究会編『水協法・漁業法の解説』20訂版(2013・漁協経営センター)』▽『金田禎之著『新編 漁業法詳解』増補4訂版(2013・成山堂書店)』