船舶の国籍のこと。船舶は,法的には擬人的な取扱いを受けており,名称・国籍・船籍港(人の住所に類似する)を有する。船舶の国籍は,国際法,行政法,国際私法のうえで重要な意義をもつ。すなわち,公海上にある船舶には,その属する国(旗国)の法令が適用され,その国の裁判権に服する。戦時には,国籍が捕獲や中立船の取扱いなどの決定標準となる。また,各国の行政法は,不開港場への寄港,沿岸貿易などについて,自国船と外国船につき異なる待遇をしている。そしてまた,国籍は,準拠法の決定に手がかりを与える。船舶の国籍の取得の要件については,各国の立法例によると,国民による所有,国民による製造,国民の乗組みの3要件を種々に組み合わせている。日本は,国民による所有だけを日本国籍所得の要件としている(船舶法1条)。船舶所有者(船主)は,まず,船籍港を定め(4条),船舶登記規則および船舶法5条の定めるところに従い登記をなし(商法686条),ついで,船籍港を管轄する管海官庁に備えた船舶原簿に登録する(5条)。その後,日本の国籍を有することの証明書たる船舶国籍証書の交付を受けることになる(商法686条,船舶法5条2項,船舶法施行細則30条)。なお,総トン数20トン未満の船舶については船籍票の制度がある(〈小型船舶の船籍及び総トン数の測度に関する政令〉1条)。こうして日本の国籍を取得することにより,日本船舶と外国船舶との区別を生ずる。
ところで,リベリア,パナマ,ホンジュラス,コスタリカなどにおいては,船舶の国籍の取得がきわめて容易であり(他国に登録されていないことが唯一の条件),課税上の優遇措置があることや,自国船員の配乗を義務づけていないことから,低賃金国の船員を配乗させ,船員費を節減することができるなどの経営上の利点により,これらの国に,船籍を置く船主が増えている。そのような船舶を便宜置籍船といい,法律的にも,経済的にも,新たな問題を生ぜしめている。
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執筆者:佐藤 幸夫
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人の戸籍に相当する船舶の籍で、人の本籍に相当するのが船籍港である。船舶法の規定により、日本船舶は船舶所有者の住所地に船籍港を置くことになっている。船舶所有者は船舶を建造または取得したときは、船籍港を定め、同港を管轄する管海官庁(地方運輸局およびその支局、出張所)に備置する船舶原簿にその船舶を登録しなければならない。この登録を経て船舶国籍証書の交付を受け、船舶の航行が許可される。船籍港名は船尾の船名の下に表示されることになっている。外航船では、税金対策としてパナマなど税金の安い外国にペーパーカンパニーを設立して船籍を置くケースが多く、これらの船を便宜置籍船という。
[天野和治]
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…不動産的取扱いとは,船舶に登記制度(商法686条,船舶登記規則参照)や登録制度があり(船舶法5条1項),抵当権の設定も認められること(商法848条),また船舶に対する強制執行(民事執行法112条以下)や競売(189,181~187条)は,不動産に類するか,またはこれと同一の方法によっていることなどに現れている。そして船舶は,人と同じように,名称(船舶法7条),国籍(1条)を有し,人の住所に相当する船籍港(4条)をもつ。船舶の名称は,船首両玄の外部および船尾外部の見やすい場所に標示することが義務づけられており,その変更には,管海官庁の許可がいる(8条)。…
※「船籍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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