海岸侵食対策工法(読み)かいがんしんしょくたいさくこうほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「海岸侵食対策工法」の意味・わかりやすい解説

海岸侵食対策工法
かいがんしんしょくたいさくこうほう

海岸の砂浜海底の砂が波や流れの作用によって侵食されるのを防ぐための工法、あるいは後退する海岸線を安定させる工法をいう。海岸侵食の原因にはいくつかあり、(1)河川上流のダム、砂防工事によって河口から海岸に排出される土砂量が減少し、その周辺の沿岸漂砂量に見合う土砂の補給が不足する場合、(2)防波堤や導流堤などの構造物によって上手側の海岸からの漂砂が遮断され、このため下手側の海岸への漂砂量が減少してくる場合、(3)海岸線付近に構造物を設置することによりその周辺の波や流れに変化を与え、このため構造物前面や下手側の海岸に洗掘や侵食をおこす場合、(4)そのほか地形学上の海岸侵食として、海岸地形が岬のように突出していると、作用する波のエネルギーが大きいため侵食を受けるなど、地形の影響から外力が大きくなって侵食が発生する場合がある。また、風によって砂が移動する飛砂現象のために砂浜が減少する場合や、地殻変動もしくは地盤の圧密によって海岸が沈下する場合も広い意味で海岸侵食に含めて取り扱っている。侵食は局所的なものから数キロメートルの範囲にわたって生ずるものもあり、侵食対策もこれに応じてとられるが、この対策工事によって隣接海岸へ及ぼす影響もつねに考慮しておかなければならない。

 侵食対策工法には、移動する漂砂を極力抑止する工法と、侵食量に見合う砂を人為的に補給する工法とがある。前者の工法には、汀線(ていせん)から直角にコンクリート製もしくは消波ブロック製の小形堤を突出させて突堤群を設置するもの、同種の材料で汀線に平行海中で堤体を構築する離岸堤を用いるもの、汀線付近の海浜上でこれに平行に消波ブロックを設置して消波堤とするものなどがある。飛砂に対しては、砂浜上に粗朶(そだ)、竹、よしず、木材などを用いた垣を設け、あるいは砂質に強い草木を植えて砂を動きにくくして飛砂防止工とする。

 突堤群は、突堤と突堤との間隔が突堤の長さの1~2倍程度、突堤の長さは数十メートルから100メートル程度にする。突堤の高さは水面から1メートル程度高くするのが普通である。突堤群は、海岸線に斜めに入射する波により汀線に沿って移動しようとする砂(漂砂)を捕捉(ほそく)し、その移動を止めることで、侵食を防ぐ。したがって海岸線に直角に波が入射する場合には、比較的効果が少なくなる。離岸堤は水深1~4メートル程度の所に海岸線に平行に設置し、1基当りの長さは一般に汀線から離岸堤までの距離の3倍程度になるものが多い。離岸堤の高さは水面から1.5メートルほど高く、これらを数基並べて設置する。離岸堤の設置間隔は50メートル前後である。離岸堤は入射する波の角度にかかわりなく、波のエネルギーを減殺して堤体背後の遮蔽部分に舌状(この地形をトンボロtomboloとよんでいる)に砂を捕捉するので、侵食対策としては効果的であるが、延長が長くなるため工費がかさむ。消波堤は海崖(かいがい)や浜崖(はまがけ)などが波の作用によって侵食されるのを防ぐため、その前面に消波ブロックの堤体を設置するもので、構造は離岸堤に準じている。以上の工法は単独に用いられるだけでなく、複合して用いられることもある。

 もう一つの、人為的に砂を補給して侵食されつつある海岸を復原させる対策工法は養浜工(ようひんこう)とよばれている。1930年代からイギリス、アメリカで進められてきた工法であり、日本では1970年代からようやく用いられるようになった。補給した砂の喪失を防ぐため、前述の突堤群、離岸堤などの構造物を併用することが多い。

[堀口孝男]


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