海水温度差発電(読み)かいすいおんどさはつでん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「海水温度差発電」の意味・わかりやすい解説

海水温度差発電
かいすいおんどさはつでん

海中の鉛直水温分布を利用して、表層の高温水を熱源下層の低温水を冷却水として熱機関を構成させ、発電機を駆動する方法。オテックOTEC(ocean thermal energy conversionの略)ともよばれる。太陽の放射エネルギーは、海の表層部で吸収されて、その部分の水温が下層の水温より高くなっている。この温度差を利用するため、海水温度差発電は太陽エネルギーの利用法としては間接的であるが、直接太陽光を利用するのに比べれば、エネルギー源の時間変動が少ないので、夜間曇天でも利用できる長所がある。一方、温度差を利用してエネルギーを取り出す効率は、温度差の2乗に比例して、高温側の絶対温度に反比例する。表層海水温は、熱帯でもせいぜい30℃であるため、深層水の温度を2℃としても、他の方法に比べて著しく効率が低いのが欠点である。

 海水の温度差を利用してエネルギーを取り出そうという考えは、1881年にフランスの物理学者ダルソンバルJacques Arsène d'Arsonval(1851―1940)により発表されたが、実際に実験に成功したのはフランスの技術者G・クロードで、1930年にはキューバハバナに実験発電所をつくり、22キロワットの発電を行った。その後も計画はされたが、効率が低いのが災いして、あまり華々しい進展はなかった。

 しかし、第二次石油ショック(1979年ごろ)以降、石油にかわるエネルギーの開発が叫ばれ、海水温度差発電もふたたび脚光を浴びた。アメリカではインディペンデンス計画の一部として、日本ではサンシャイン計画ニューサンシャイン計画の一部として、精力的な開発が進められた。効率をよくするため、海水からの水蒸気を直接利用する方式(オープン・サイクル式)をやめ、気化温度の低いアンモニア、プロパン、フレオンなどのガス媒体として、これらのガスを熱交換器を通じて海水で加熱、冷却し、その間にガス・タービンを置いて発電機を回す方式(クローズド・サイクル式)を採用している。

 アメリカでは、1979年に300万ドルをかけて、ハワイ島のケアホーレ岬沖で、排水量243トンの海軍の艀(はしけ)を利用した発電実験(ミニ・オテックとよばれる)が行われた。計画どおりに約50キロワットの出力に成功したが、冷たい海水を700メートルの深さから汲(く)み上げるのに要した電力その他必要電力を差し引くと、正味で得られた出力は約12キロワットであった。この実験をもとに、T-2型タンカーを改装した装置を用いた新たなOTEC-1が1000キロワットの出力を目ざして、1980年4月から1981年11月まで関連する基礎研究と技術開発を洋上で行った。日本は1981年(昭和56)にナウル共和国で100キロワット(最高出力120キロワット)の実験プラントの運転に成功している。1993年から1998年までハワイ自然エネルギー研究所で、210キロワットのオープン・サイクル式発電がテストされたが、オープン・サイクル式では設備が巨大になるため、実際の発電としては主としてクローズド・サイクル式が検討されてきた。日本の佐賀大学の技術支援を受けたインド国立海洋技術研究所が、インドの南端に近いトゥーティコリンの東の沖合いに発電能力1000キロワット規模の発電実証プラントを建設し、その稼動実験が2003年に開始された。

[安井 正・佐伯理郎]

『上原春男著『海洋温度差発電読本』(1982・オーム社)』『清水幸丸編著、加藤征三・吉田孝男・谷辰夫・牛山泉・菊山功嗣・瀬戸口俊明ほか著『自然エネルギー利用学――地球環境の再生をめざして』(1999・パワー社)』『高橋正征著『海にねむる資源・海洋深層水』(2000・あすなろ書房)』『高橋正征監修、吉田秀樹著『よくわかる海洋深層水――注目度抜群!食品開発から水産業、海洋温度差発電まで』(2000・コスモトゥーワン)』


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