消化管の運動機能評価

内科学 第10版 「消化管の運動機能評価」の解説

消化管の運動機能評価(生理機能診断)

(1)消化管の運動機能評価
 消化管疾患器質的疾患と機能性疾患に大別される.器質的疾患は癌や潰瘍炎症など消化管の形態に変化をきたすもので,消化管造影や内視鏡検査,CTなどの現在の進歩した診断方法で比較的容易に診断できる.一方,機能性消化管疾患は,通常の画像検査や血液検査で異常を認めず,慢性・反復性の腹部症状や下痢便秘,体重減少,栄養障害,貧血などをきたす疾患であり日常診療で遭遇する機会は多い.消化管運動機能異常は,多くの消化器関連症状の主要な原因であり,消化器以外にさまざまな症状を呈することもある.消化管運動機能検査は病態解明や治療方針決定のために重要であるが,器質的消化管疾患の診断法のように簡便で普及した検査法は少ない.現在,多くの検査法が開発されている.臨床研究レベルのものが多いが,有用性が確認されて日常臨床に普及しつつある検査法もある.表8-1-3に代表的検査法を示す.
a.食道運動能検査
 ⅰ)食道排泄能検査
 一定間隔を空けた食道造影(timed barium esophagogram:TBE)は,食道造影検査時に,バリウム濃度,撮影体位,撮影時間をあらかじめ設定しておきバリウム柱の高さと幅を測定することにより食道排泄能を測定する方法である.食道アカラシアなど食道運動障害により発症する疾患で診断や重症度判定のために簡便に行える検査である.
ⅱ)食道内圧測定
 健常者では嚥下時には,まず下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES弛緩が起こり,同時に食道上部より蠕動波が出現して下部食道へ向かい移動していく.食道内圧を測定して蠕動波の状態を把握することにより食道運動障害の有無を評価することができる.図8-1-17に飲水による正常な蠕動波の流れを示す.
 ⅲ)24時間食道pH測定
 食道腔内にpHセンサーを留置してpHの変動を測定する方法である.通常,食道内のpHは6前後の中性に近い状態であるが,胃酸逆流が起こるとpHは4未満に低下する.24時間継続的に測定することにより,胃酸逆流の状況を把握できる.おもに24時間中の食道内pH4未満の時間率,胃酸逆流回数,5分以上持続する胃酸逆流で評価する.特に内視鏡的に所見のない胃食道逆流症の診断に有用である.一方,胃酸以外の液体や空気の逆流は評価できない.
 ⅳ)インピーダンス法
 食道腔内のインピーダンス(電気抵抗)の変化を測定して内容物の移動状況を把握する検査法である.空気はインピーダンスが高く,液体はインピーダンスが低いのでインピーダンスによって内容物が判別できる.また,食道内圧測定や24時間食道pH測定と組み合わせることにより,食道運動能や逆流の詳細な診断が可能である.図8-1-18に水嚥下時の食道内圧とインピーダンスの変化を示す.
b.胃運動能検査
 ⅰ)胃排泄能検査
1)アセトアミノフェン法:
アセトアミノフェンが胃では吸収されず,十二指腸以下の小腸で速やかに吸収されることを利用した間接的検査法である.おもに液状食の胃排泄能検査に用いられる.アセトアミノフェン(15 mg/kg)内服後,一定時間ごとに採血をし,血中濃度の推移を知ることによって,胃内容物の排出能を評価する. 血中濃度が45分にピークを形成すれば正常,ピークが早ければ排出能が高く,遅ければ排出能が低い.肝障害などアセトアミノフェン自体の副作用には注意する必要がある.
2)13C呼気試験法:
炭素12C)の安定同位体である13Cで標識した化合物を含む試験食を摂取した後,13C標識化合物の胃からの排出,小腸での吸収,肝臓での代謝を経て呼気中に13CO2が排泄されることを利用した検査法である.さまざまな13C標識化合物を用いられるが,固形試験食用には13C-オクタン酸が,液状試験食には13C-酢酸が用いられることが多い.
3)ラジオアイソトープ法:
99mTc-DTPA(diethylene-triamine-pentaacetic acid)や99mTcスズコロイドなどのRI標識化合物を混じた試験食を摂取した後,胃内の放射線活性を測定することにより直接的かつ定量的に胃排泄能や胃停留能を測定できる.最も正確な方法であるがRI標識化合物の取り扱いが煩雑でガンマカメラが必要である.
4)超音波法:

超音波を用い,試験食摂取後に胃前庭部など一定の部位の面積や体積を測定する方法である.無侵襲でリアルタイムに胃の収縮運動を観察できる.また,運動能だけでなく食物の移動状況や十二指腸からの逆流なども観察できる.
5)X線不透過マーカー法:
X線を透過しない物質を内服した後に経時的にマーカーの位置を確認することで胃や小腸・大腸などの運動能を検査する方法である.代表的なマーカーとして米国Konsyl社のSitzmarksがある.
 ⅱ)ほかの胃運動能検査法
1)バロスタット法
: 食事摂取後には15~20分をピークとする近位側胃の内圧上昇を伴わない胃内容の増加が起きる.この反応は適応性弛緩とよばれ,多くの食事摂取と緩徐な胃排泄に関与するとされている.適応性弛緩を調べる方法として,胃内に留置した定圧バルーンを膨らませるバロスタット法が行われている.適応性弛緩だけでなく,胃内圧や容量増加に対する内臓知覚閾値も調べることができる.
2)ドリンクテスト
: 水または液体栄養剤の負荷による消化器症状の出現を調べる方法である.内臓知覚過敏や適応性弛緩障害などの病態と上腹部症状との関係を調べることができる.おもに機能性胃腸症の診断目的で利用されている.
3)胃電図
胃排泄や胃前庭部運動能評価のために,上腹部体表に装着した電極から胃平滑筋由来の電位を記録する.胃固有運動に由来する徐波と食後の胃運動に由来する棘波を評価する.
c.小腸運動能検査
 ⅰ)ラジオアイソトープ法
 99mTc-DTPAや99m
TcスズコロイドなどのRI標識化合物を混じた試験食を摂取した後,ガンマカメラで放射線活性を撮影することによりすることにより十二指腸から回盲部までの通過時間を測定できる.
 ⅱ)呼気試験
 健常人でも,摂取した炭水化物の一部は小腸で消化されずに大腸に到達する.大腸では,腸内細菌で分解され,短鎖脂肪酸や水素,CO2,メタンなどが産生される.経時的に呼気中のガスを測定し,上昇がみられた時間を口-盲腸通過時間(oro-cecal transit time:OCTT)とする検査法である.比較的簡便な方法であるが,吸収不良や小腸内細菌異常増殖のある症例では評価できない.
d.大腸運動能検査
 ⅰ)
大腸内圧測定
 大腸内圧を測定することにより慢性便秘や下痢など機能性大腸疾患の診断・鑑別や治療効果の判定に関する情報を得ることができる.
 ⅱ)バロスタット法
 直腸など腸管の任意の位置で定圧バルーンを膨らませるバロスタット法では消化管張力の変化が測定できる.張力の変化に対する被験者の感覚や痛覚閾値の測定もできるので過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の知覚閾値も調べることができる.
 ⅲ)排便造影
 肛門から造影剤を混入した擬似便を注入し,簡易便座に腰かけて透視下に排便状態を観察する検査法である.直腸肛門部の排泄機能異常による便秘の診断に利用される. 直腸前壁が腟方向に突出した直腸瘤や直腸重積,直腸脱の診断に有用である.[岩切龍一・藤本一眞]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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