天文測量において自然の天体のかわりとして観測に使うため打ち上げられた人工衛星。初期のものは巨大な中空の球形で、それが太陽光線を反射して光るのを観測した。距離が天体よりはるかに近く、また運行速度も大きいので精密な観測に適していた。1960年代になると自ら電波を発射して地上の各観測点との間の距離を精密に測定できるようになり、測地衛星の利用により地球上の任意の地点、たとえば大洋の真ん中や、大砂漠の中央などでも、その地点の地球上での位置を誤差2~3メートルの精度で決定できるようになった。とくに航海用衛星NNSS(海軍衛星航法システム)という6個一組の測地衛星は、6個のうちのいずれか一つからの電波を地球上のどこででも絶えず受信でき、その位置を正確に求められるシステムであったが、NNSSの後継として開発された全地球測位システム(GPS)の普及により1999年に廃止された。GPSは1990年代以降、航法や測量等に不可欠な衛星測位システムとなっているが、測地衛星ではなく、測位衛星とよばれる。
[尾崎幸男・辻 宏道 2016年11月18日]
測地に利用する目的で打ち上げた人工衛星をいう。最初の測地衛星はアンナ(1962年打上げ)で,離れた地点から同時に光学観測ができるようにせん(閃)光を発する装置が備えられていた。その他測地衛星には,太陽光を明るく反射して観測を容易にしたもの(風船衛星パジオス),積んでいるトランスポンダーを介して地上から衛星までの電波の往復時間を測り距離を求める方式の衛星(シーコール,ビーコンなど),衛星から発射する電波周波数のドップラー偏移を地上で測ることで距離の変化率を求める方式のもの(トランシット),逆反射器を積んでいて地上からのレーザー光線を反射し,その往復時間から距離を求める衛星(ジオス,ディアデム)などがある。一つでいくつもの方式を併用できる衛星も多い。最近はレーザー測距の測定精度が高まったこと,大気抵抗などの外力に影響されることができるだけ少ない衛星を追跡するほうが測地に有利であることから,黄銅を核とする重くて小さいレーザー測距専用の測地衛星ラジオス(1976年打上げ,直径60cm,重量411kg)や,ウランを核とするほぼ同様の目的の衛星スターレット(1975年打上げ)の観測がきわめて重要視されている。なお,初期の衛星エクスプローラー1号やバンガード1号,風船衛星のエコー1,2号などは測地にもかなり利用されたので,広い意味では測地衛星といえる。
→宇宙測地
執筆者:長沢 工
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…農業の作柄,森林の状態などの監視,地質学・水理学・海洋学のデータ収集,地図の作成など幅広い重要な分野にわたって利用されているが,他国の上空から情報を得ることの合法性といった点で問題を残しており,放送衛星の放送対象とともに宇宙法の争点の一つとなっている。
[測地,航行援助]
地上で位置を求めるために,天体の代りに用いられるものが測地衛星である。測地衛星の試みは実用衛星の中では通信衛星とともに古く,1962年にはすでに登場している。…
… (1)人工衛星測量 1957年に人工衛星が初めて打ち上げられてから,これを空中の基準点として数千km離れた基準点間の位置関係を知る道が開けた。その後,測地利用を目的とした人工衛星も打ち上げられ,測地衛星と呼ばれている。初期には写真赤道儀というカメラを用いた三角測量方式が用いられ,後には電波やレーザー測距装置を用いた三辺測量方式(図参照)あるいは海上における双曲線航法と類似の方法が用いられている。…
…軍事目的に開発・使用される人工衛星システムをいう。その主要な用途は,偵察や監視などの軍事情報収集,通信や航法などの軍事行動の統制・支援,敵衛星や弾道ミサイルなどの要撃,および技術開発実験である。その歴史は1957年の世界初の人工衛星スプートニクSputnik打上げ直後に始まり,冷戦期間中はアメリカおよび旧ソ連が打ち上げた衛星総数の75%以上が軍事衛星と推定されている。システムは,衛星本体,打上げ施設,地上局,艦船,航空機などで構成される。…
※「測地衛星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加