改訂新版 世界大百科事典 「宇宙測地」の意味・わかりやすい解説
宇宙測地 (うちゅうそくち)
space geodesy
宇宙技術により地球の形状を測定すること。測地測量によって地球の形状や地殻変動を正しく把握するためには,地上の基準点間の位置関係を精密に測定する必要がある。ところが,地球が丸いため遠く離れた基準点間を結ぶ直線は地中を通り,地上で直接測量することは不可能である。陸上では,三角測量や三辺測量を繰り返すことにより測量が可能であるが,海上では不可能であり,広い海を隔てた地域間の位置関係を精密に測定することは困難であった。この問題を解決したのが宇宙測地であり,代表的な方法に次の三つがある。
(1)人工衛星測量 1957年に人工衛星が初めて打ち上げられてから,これを空中の基準点として数千km離れた基準点間の位置関係を知る道が開けた。その後,測地利用を目的とした人工衛星も打ち上げられ,測地衛星と呼ばれている。初期には写真赤道儀というカメラを用いた三角測量方式が用いられ,後には電波やレーザー測距装置を用いた三辺測量方式(図参照)あるいは海上における双曲線航法と類似の方法が用いられている。(2)月レーザー測距 月面にはアポロ宇宙船によりレーザー反射体が設置されており,人工衛星の場合と同じ原理で地上の観測局の位置を決めることができる(月レーザー測距装置)。(3)超長基線電波干渉法 電波天文学の手段として開発された超長基線電波干渉計の技術もクエーサーや人工衛星が発する電波を用いて地上の基準点間の位置関係を知るために利用されている。電波源としてクエーサーを利用する場合には,電波は十分遠方から飛来するため平行に入射する。この電波を二つのアンテナで受信し,両アンテナへの到達時間差と電波源の方向から両アンテナを結ぶベクトルの方向と長さを求める。電波源として人工衛星を用いる場合は,距離が近いため,幾何学的な補正が必要であるが,電波が強いため受信系の負担は小さくなる。いずれの方法も相関をとって処理するため,時間を十分にかければ高い分解能が得られる。超長基線電波干渉法は,電波を用いるため天候に左右されないという利点がある。
これらの宇宙測地技術によって,汎地球的規模での正確な測量が可能となった。つまり,これまでは各国で独自の測地基準系を用いて行われていた測量の成果を,宇宙測地の技術を用いて統一し,地球の形をより正確に決定することができるようになったのである。また,長距離を高精度で測量できるため,これまで地震や地磁気,重力などのデータにより間接的にその存在が仮定されていたプレートの運動も直接測定できることとなり,各国でプレートテクトニクスの検証を目的とした観測の計画が考えられている。日本の国土は太平洋,ユーラシア,フィリピン海の三つのプレートにまたがっているので,このような観測には最適であり,離島を利用したプレート運動の検出の計画がたてられている。また,従来の地上測量では測量を繰り返していくあいだに測定誤差が累積されたが,この測定誤差の影響をとりのぞくための有力な手段としても宇宙測地技術を利用することができる。
執筆者:海津 優
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報