港湾荷役(読み)こうわんにやく

改訂新版 世界大百科事典 「港湾荷役」の意味・わかりやすい解説

港湾荷役 (こうわんにやく)

港湾内で船と陸との間で行われる貨物の積卸作業全般をいう。船の停泊場所の関係から,船を沖合に停泊させ,はしけやパイプラインを利用して貨物の輸送を行う沖荷役と,船を岸壁などの陸岸に直接横付けして荷役を行う接岸荷役とに分けられ,沖荷役のうちはしけを使用する場合をはしけ荷役ということもある。また上屋(うわや)内,陸岸とはしけの間,陸上の車両,各種積卸場における積卸作業は沿岸荷役と呼ばれ,これには上屋・倉庫間の貨物の輸送,倉庫への搬入作業も含まれる。

 一般に沖荷役は,沿岸部の水深が浅く,また船の接岸ができる桟橋や岸壁がないか,もしくは不足している港で行われるが,海上での荷役は安全・確実性に欠け,高波のときには荷役できない欠点があるほか,船とはしけの間の荷役,はしけと陸岸の間の荷役の2回の荷役作業を行わねばならず,時間と費用とが著しくかかる。したがって近代的港湾では,接岸荷役を主とするよう計画される。もっとも貨物の揚卸個所が河岸に沿って多くある場合,また隣接の港に分散して貨物の集散を行う場合は,はしけによる沖荷役が有利なときもある。

 貨物輸送の責任限界はふつう船の玄側であり,船内での荷役(船内荷役)は船主側が代理業者を用いて行い,また内陸と玄側との間は荷主側が各種の港湾運送業者に行わせる。陸と船内との間の貨物の輸送は,各種の業者によって複雑な経路をたどるので,そのつど,責任を明確にするため検数,鑑定,検量を行う必要が生じ,とくに外国貿易ではこの間,検疫,通関手続に伴った荷役が加わるので,港湾内の荷役のための時間,費用が全輸送系の半分近くを占めることがある。港湾内での貨物の荷役および輸送を円滑に行うためには,諸手続の簡素化はもちろんであるが,荷役回数の減少,荷姿の規準化,機械化などが必要となる。まず,物理的には,油,穀物,セメントなどは容器に入れず,そのままの形でパイプラインやベルトコンベヤで移送する方法をとり,ばら物とならないものについては,極力,貨物の種類別に分けてそれに見合った専用船や木材埠頭(ふとう),鋼材埠頭,自動車埠頭などの専用の係船施設を整備し,また荷姿の不統一のものは,パレットコンテナーを使用して規格された大きさ,重さにして荷役を行うなどの方法がとられている。とくにコンテナーによる荷役の合理化の効果は大きく,20~40tコンテナーと専用クレーンを利用すれば,従来のデリッククレーンによる作業では3~4日を要した1万トン前後の船の荷役も1日で可能である。このような荷姿の規格化は沖荷役でも進められており,貨物を積んだはしけごと積卸可能なラッシュ船も出現している。こうした荷役システムに応ずるよう,埠頭クレーンなどの荷役機械,埠頭構造も改善されてきており,これに伴って従来天候に左右されるため就労が不安定で,かつ重量物を扱うなど過酷な条件下におかれていた港湾労働者の労働条件も向上してきている。
港湾運送業
執筆者:

船に積載可能な貨物量は,容積面では船倉の載貨容積で制限され,また重量面では船体,機関,さらに燃料,食糧,飲料水などの重量との合計が満載排水重量を超えないよう制限されるが,安全性を確保するため,重量による制限が優先される(喫水)。船の船体,機関の重量は軽荷重量,貨物,燃料,食糧,飲料水その他の重量は載貨重量と呼ばれ,これらの合計の最大の許容重量が満載排水重量である。したがって同一の船においてもその就航する航路の長短により燃料,食糧,飲料水などの保持量が増減するため,船舶積載の対象となる貨物のみの純載貨重量も減増する。

 積荷計画にあたっては船,貨物,人命の安全を考慮して,貨物の種類,性質,荷姿,寸法,容積などに対応した船内積付区画の準備,貨物重量に対応した荷役装置の選定,荷役中および航海中の船体の安全をつねに確保できるような貨物の船内重量配分の決定などが行われるが,なかでも船体安全性確保の基本となる貨物の船内重量配分はとくに重視される。船体前後方向の重量分布は縦強度,縦傾斜(トリム),縦揺れ(ピッチング)と密接に関係がある。縦強度の安全確保(船体破損,折損事故の防止)のためには,船体に大きな曲げ応力を及ぼす船体中央部または船首尾端部への集中かつ不連続な積載は避けなければならず,また耐航性能上,極端な船首トリム(船首喫水が深い状態)や船尾トリム(船尾喫水が深い状態)は避け,一般的にはトリムなしかやや船尾トリムの状態にする。船体のピッチングは,重量が船首尾端に集中するとピッチング周期が長くなり,逆に船体中央部に集中すると周期は短くなる。一般的にピッチング周期が長くなると波浪との同調現象が発生してピッチング角が大きくなり,船首部の損傷や貨物への悪影響が生ずるため,船内重量は縦強度とトリムへ悪影響のない範囲で中央部寄りの傾向とするのがよいとされている。これに対し船内重量の上下分布は横揺れ(ローリング)周期と復原性に大きな影響を与える。重量を下部に集中させ重心位置を下げた場合は,復原性は向上するがローリング周期は短くなり,激しい動揺加速度により貨物が移動し船体の傾斜や転覆事故などを発生させる原因となる。また逆に貨物を上部に集中させ重心を高くすると,ローリング周期は長くなり動揺による悪影響はなくなるが復原性の安全が低下する。風浪中での復原性の安全を確保し,かつローリングによる貨物の移動などを防ぐためには,重心とメタセンターの距離は大型船では少なくとも50~100cmを確保するのがよいとされ,長期航海により燃料や清水が消費され重心が徐々に上昇してきた状態においても,なおこの距離が確保できるように貨物の積付けが計画される。船内重量の左右配分は左右均等配分とするのが原則である。

 こうして船内の貨物重量および容積配分の適正状態,積付場所が決められると貨物積付図が作成され,これに従って,作業中の船体姿勢の安定を保つため,一般的には前後,左右が並行もしくは交互に均等な形になるように下層から積付けが進められる。とくに重量物の荷役では,バラストタンクへの注水などによって十分な復原力の確保を必要とする。積み付けられた貨物は移動による事故を防ぐため固縛され,また,ばら積穀類貨物は荷止板などを設置したり,含水微粉精鉱(スラリー)は含水率の程度により移動防止設備のある専用船で荷役するように規制されている。揚荷計画においても荷役量とその順序が決められ,作業中の船体安全確保のため積荷役のときと同じような注意を必要とする。片道航海が積荷のないバラスト航海となるタンカーなどにおいては,積荷役と並行してバラスト排水をしたり,逆に揚荷役と並行してバラストタンクに注水する作業もあり,また荷役中のタンカー船体上の石油ガスの大気拡散濃度を検測して,荷役環境の安全性を確保したり,油漏れによる海洋環境汚染の防止などにも留意しなければならない。船舶荷役作業の実施にあたっては,このような船体の安全と同時に貨物や人命の安全を考慮するとともに,荷役作業の効率を上げることが重要で,これについては各種専用船と専用荷役装置の利用が積極的に進められている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「港湾荷役」の意味・わかりやすい解説

港湾荷役
こうわんにやく

港湾において貨物の輸送および保管に付帯して発生する「積付け・取卸し」「仕分け・荷揃(ぞろ)え」「搬送・移送」の作業をいう。具体的に輸出雑貨貨物に例をとれば、荷主の工場ないし倉庫からトラックまたは貨車で積出し港へ輸送された貨物を、港で取卸し、上屋(うわや)や臨港倉庫に一時保管のため搬入し、通関後に搬出し、船に積み込むといった作業が発生するが、港で取卸し以降の一連の作業が港湾荷役である。

 港湾荷役は、貨物受渡しの境界区分から船内荷役と沿岸荷役に分かれ、本船の係留場所別によって沖荷役と接岸荷役とに分けられる。貨物の種類、性質、数量、大きさ、重さや荷姿によって荷役の方法が変わる。普通の包装貨物などを1個1個扱うことを個品荷役、パレットあるいはコンテナにまとめて扱う方式をユニット・ロード荷役、小麦、鉱石、セメントなどの粉粒体をそのまま扱うことをバラ荷役という。さらに荷役機械の使用の有無・程度によって「在来荷役」(人力荷役)と「革新荷役」(機械荷役)とに分けられる。そして機械荷役は、使用する機械の種類によってコンベヤー荷役、フォークリフト荷役、クレーン荷役などとよばれる。

 海上輸送の技術革新の進展により、港湾荷役の機械化、省力化が著しく進んできた。とりわけ各種大型専用船に対応するため、生産・流通施設の専用埠頭(ふとう)あるいは特定の貨物に対する専門埠頭といった新鋭埠頭の建設が各地で行われた。そこでは真空吸い込み方式を取り入れたサイロ荷役やコンテナ荷役に代表されるような高度に機械化した荷役方式(革新荷役)の整備が図られており、港湾荷役は大きく変質を遂げた。革新荷役全体については港湾運送事業における船舶積み卸し量の約6割を占めると推測されている。

 コンテナ貨物の取扱量は増加し、日本の港湾運送量全体の4割を占めている。地方港湾においても、しだいにコンテナ・ターミナルが整備され、コンテナ化が進展している。外国貿易定期船貨物量のコンテナ化率を取り出すと、2008年(平成20)の統計では輸出が91.2%、輸入が98.4%となっている。コンテナ荷役では、在来船の船内・沿岸荷役労働者にかわって、コンテナ・クレーンの操作やストラドル・キャリアー、トランステナーといったコンテナ荷役用専用運搬機械の運転などができる技能労働者が主役になっている。在来荷役の熟練労働者や日雇労働者だけでなく、輸送革新に対応しえない零細港湾運送業者も新鋭埠頭には進出できなかった。港湾荷役は在来荷役と革新荷役とに大きく二分されたが、在来荷役の分野は荷役量が減少した。

 1990年代以降、日本の港湾はシンガポール、香港(ホンコン)などアジアの主要港に比較して、コンテナ取扱量の伸び率が少なく、国際的地位が相対的に低下していることが指摘されるようになった。これは、日本の港湾が各種の規制を受けており、そのため国際基準と比べてサービスの水準が低いことが一因とみられている。

 全国の港湾では、港湾運送事業者団体と港湾労働者の組合との労使間協定で、日曜荷役を行わないことで推移してきた。しかし荷主や内外の海運業界から物流の効率化を求める強い要請を受け、1998年度から3年間、主要港における日曜荷役実施の協定が結ばれた。2000年に港運業の規制緩和が実施され、2001年には日曜荷役の恒久的実施、祝日の平日並荷役の実施、ゲートオープン時間の延長などが港湾労使間で合意に達し、港湾荷役は、1月1日を除いた1年364日24時間フルオープンとなった。

[土居靖範]

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世界大百科事典(旧版)内の港湾荷役の言及

【港湾労働】より

…この意味では,かなりの部分を日雇労働者が担う港湾労働は前近代的な性格を残しているというよりは,むしろ前近代的な衣をまとった資本の利潤追求の現代的な一形態であるということができる。港湾荷役
[港湾労働法]
 このような港湾労働の状況を打破して,港湾運送に必要な労働力を確保するとともに,港湾労働者の雇用の安定と福祉を増進させるため,港湾労働者の雇用の調整を図ることを目的として,1965年に以下の内容をもつ港湾労働法が制定された。(1)この法律は東京,横浜,名古屋,大阪,神戸,関門の各港に適用される。…

※「港湾荷役」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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