滑る(読み)スベル

デジタル大辞泉 「滑る」の意味・読み・例文・類語

すべ・る【滑る/×辷る】

[動ラ五(四)]
物の表面をなめらかに移動する。「スキー急斜面を―・りおりる」「船が川面を―・るように下っていく」「戸がよく―・る」
表面がなめらかで地面に接するものが安定を失って自然に動いてしまう。スリップする。「凍結して路面が―・る」「足が―・る」「―・って転ぶ」
つかもうとした物が、支えられないで手をすり抜ける。「茶碗が―・って落ちる」
ある地位を保てなくなる。「委員長の座を―・る」
調子に乗ったまま、事が望ましくないところにまで至る。余計なことを言ったり書いたりしてしまう。「口が―・る」「筆が―・る」
試験に失敗する。落第する。不合格になる。「大学を―・る」
俗に、面白いことをしゃべろうとして失敗する。冗談ギャグが受けない状態をいう。「話が―・る」
そっと位置を移動する。ひそかに退席する。
嫻雅しとやかに座を―・った」〈魯庵社会百面相
天皇の)位を譲る。退位する。
「位を―・らせ給ひて、新院とぞ申しける」〈平家・一〉
[補説]「辷」は国字
[可能]すべれる
[類語]滑走横滑りスリップスライドスライディング

ぬめ・る【滑る】

[動ラ五(四)]
ぬるぬるしてすべる。なめらかですべる。「ウナギが―・る」
浮かれ歩く。遊び歩く。
「夢の浮世を―・ろやれ」〈仮・恨の介・上〉
なまめく。粋なふうをする。めかす。
歌草紙などに心を寄せ、ひとぬめり―・りたる手書き女房を」〈仮・可笑記・三〉
ぬらりくらりと言い逃れる。
「何と―・らん詞もなく、口をつむぎて居たりしが」〈浄・義経新含状〉

なめ・る【滑る】

[動ラ四]すべすべしている。ぬるぬるとすべる。ぬめる。
「わづかにかかる石の橋の、苔は―・りて足もたまらず」〈謡・石橋

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「滑る」の意味・読み・例文・類語

すべ・る【滑・辷】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙
    1. 物の上をなめらかに移り動く。物と物との間をするりと通る。物の面に接しつつ抵抗なく移動する。
      1. [初出の実例]「取る手もすべるやうなる筋のうつくしさなど、斎院の御ぐしにいとよう似給へり」(出典:狭衣物語(1069‐77頃か)四)
      2. 「舟は油の如く平なる海を滑って難なく岸に近づいて来る」(出典:幻影の盾(1905)〈夏目漱石〉)
    2. すわったままにじり動く。いざる。また、にじり動いて下座に移る。
      1. [初出の実例]「いそぎ御座をすべらせ給ひて、御手をあはせ」(出典:保元物語(1220頃か)上)
    3. そっと座をはずす。静かに退座する。退出する。
      1. [初出の実例]「御使にかづけたる物を、いと、わびしく、かたはら痛しとおぼして、御気色あしければすべりまかでぬ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)玉鬘)
    4. のがれて移動する。逃げる。
      1. [初出の実例]「後だいごの天王、ほうきへすべらせ給ふ時」(出典:浄瑠璃・出世太平記(1707)四)
    5. 足がなめらかに動いて止まらなくなる。足を空にとられる。足もとがつるつるする。
      1. [初出の実例]「あはてまどひて出づとて、そのくだの小竹にすべりてまろびにけり」(出典:古今著聞集(1254)一六)
      2. 「坂道は凍っていて、長靴の踵がすべり」(出典:エオンタ(1968)〈金井美恵子〉一一)
    6. 位を去る。位をおりる。退位する。
      1. [初出の実例]「花山の法皇の十禅万乗の帝位をすべらせ給ひしは」(出典:平家物語(13C前)三)
    7. ( 「口がすべる」の形で ) 言ってはいけないことを不用意に言ってしまう。思わず口外する。〔日葡辞書(1603‐04)〕
      1. [初出の実例]「此の言葉がうっかり口からすべったら、どんなに其の人はびっくりするだらう」(出典:異端者の悲しみ(1917)〈谷崎潤一郎〉一)
    8. 膳などがとりかたづけられる。さげられる。
      1. [初出の実例]「ゴゼンガ suberu(スベル)〈訳〉食後に食膳を下げる」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    9. 生まれ落ちる。
      1. [初出の実例]「どこの牛の骨やらしれぬ女の腹からすべったがきを」(出典:浮世草子・傾城禁短気(1711)四)
    10. 言いたい放題に言う。言いすぎる。〔新撰大阪詞大全(1841)〕
    11. 入学試験などに落ちることをいう、俗語。
      1. [初出の実例]「高等学校の入学試験にすべり」(出典:六白金星(1946)〈織田作之助〉)
    12. 取引相場で、値が急に上がったり下がったりする。〔取引所用語字彙(1917)〕
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 ラ行四段活用 〙 なめらかに簾(すだれ)や戸を動かす。
    1. [初出の実例]「月いとおもしろきに〈略〉御格子もすべらず、御帳のもとにて御覧ぜさせおはします」(出典:弁内侍日記(1278頃)寛元五年七月一五日)

ぬめ・る【滑】

  1. 〘 自動詞 ラ行四段活用 〙
  2. ぬるぬるとしてすべる。なめらかである。ぬんめる。
    1. [初出の実例]「鳰鳥がやどりせるあまはかもなしらうたくぬれてぬめる今宵か」(出典:順集(983頃))
    2. 「ぬめる物、鰻・糸巻・蛞蝓(なめくじり)・練貫・裸・女房の風呂」(出典:仮名草子・犬枕(1606頃))
  3. 浮かれ歩く。のらりくらりと遊び歩く。遊里をひやかして回る。
    1. [初出の実例]「夢の浮世をぬめろやれ、遊べや狂へ皆人と」(出典:仮名草子・恨の介(1609‐17頃)上)
  4. なまめかしくふるまう。めかす。粋な風をする。
    1. [初出の実例]「余所目はいかにぬめる若僧(にゃくそう)〈知元〉 児達へまいらせぬるはねり木にて〈同〉」(出典:俳諧・鷹筑波(1638)一)
  5. ぬらくらと言いぬける。
    1. [初出の実例]「何とぬめらん詞もなく、口をつむぎて居たりしが」(出典:浄瑠璃・義経新含状(1744)二)
  6. 浄瑠璃作者が、その文章に縁語を多く連ねる。〔随筆・嬉遊笑覧(1830)〕

なめ・る【滑】

  1. 〘 自動詞 ラ行四段活用 〙 なめらかである。ぬるぬるとすべる。
    1. [初出の実例]「滑(ナメリ)(く)ちたるもの酢(す)き子(み)を拾(ひろ)ひて弱き身を助け」(出典:東大寺諷誦文平安初期点(830頃))
    2. 「わづかにかかる石の橋の苔はなめりて足もたまらず」(出典:車屋本謡曲・石橋(1465頃))

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