入学志願者の中から入学を許可すべき者を決定するために実施される試験。普通は,入学志願者の数が収容定員を超過する場合に行われる。〈入学試験〉の語が日本で最初に用いられたのは,1894年のことで,この年尋常中学校規定の中で,志願者が定員を超えた際には,入学試験によって選抜することが定められた。その後,この入学試験の結果を基準として,成績上位者より順に収容定員まで合格者を決定する方式は,さまざまな教育段階での入学者選抜方式として用いられるようになってきている。
しかし収容定員を上回る志願者があった場合,いかなる基準で合格者を決定するかには,さまざまな方式がありうるわけで,入学試験の成績を基準として合格者を選抜する方式は,そのなかの一つである。その他の方式としては,たとえばこれまでの学業成績を基準として合格者を決定する方式がありうる。つまり,高等学校への入学者選抜であれば,中学校での学業成績を基準とし,大学への入学者選抜であれば,高等学校での学業成績を基準として合格者を選抜する方式である。この方式の利点として挙げられる点は,数日間に,しかも短時間に集中的に実施される入学試験で測定される学力よりも,中学校もしくは高等学校での長期間にわたる観察に基づく教師の評価の方が,より信頼性が高いとする点である。しかしながら,この方式にもいくつかの欠点がある。その第1は,中学校,高等学校での学業成績は,それぞれ個々の学校内での相対的な位置を示してはいるものの,学校差がある場合には,その側面が把握できない,第2としては,とくに大学入試のようにいわゆる浪人が受験する場合,浪人期間中の学力の水準向上がとらえられない,などがそのおもな点である。
現在の日本では,高等学校への入学者選抜では,入学試験の成績と中学校での調査書の両者を組み合わせて,総合的に判定する方式が,一般的にはとられている。また大学,短大への入学試験は,第2次大戦後これまでさまざまな変遷をたどってきたが,国公立大学の場合には,1979年より共通第一次試験が導入されるに伴い,全国の国公立大学が協同して実施する共通第一次試験と,各大学,学部が実施する第二次試験の組合せによって,入学者の選抜を行う方式がとられるようになった。その後1990年より,この共通試験には私立大学も参加できることとなり,その名称も〈大学入試センター試験〉となった。大学入試センター試験は,主として受験者の高等学校における一般的,基礎的な学習の到達度を測定することを目標としており,これに対して,第二次試験(個別学力試験)では,それぞれの学部などの専攻の特性を考慮に入れ,これに必要とされる受験生の適性を測定することを目標としている。現在,大学入試センター試験では6教科31科目の試験が行われ,それらのうちどの教科,科目を利用して試験を行うかは,各大学・学部の判断にまかされている。また第二次試験では,学力検査のほか,小論文,面接,実技検査などを用いる大学,学部もみられる。大学入試センター試験を利用する私立大学は,98年度で180大学,397学部,2008年度で466大学,1316学部となっている。
諸外国での実例をみると,とくに初等教育から中等教育への進学の際には,特別の入学試験は実施せず,一定の観察期間を設け,この期間の観察結果に基づいて,適否を判定する方式を採用しているところもみられる(たとえばフランス,西ドイツの一部など)。また,大学などの高等教育機関への入学に際しては,入学試験によらず,高等学校の卒業資格を有する者は,希望者全員を受け入れる〈無試験入学制度〉を採用している国もある。たとえば,アメリカのコミュニティ・カレッジはその例の一つである。またフランス,西ドイツ(現ドイツ)では,日本の高等学校に相当するリセ,ギムナジウムの卒業試験に合格し,バカロレア,アビトゥーアを取得したものは,原則として,無試験で高等教育機関へ進学する方式がとられている。こうした,一定資格を有する者を無試験で入学を認める制度は,いいかえれば,入学定員という枠を定めていない点に,その特徴がある。したがって,いったん特定大学,学部に学生が集中した場合には,教育,指導そのものが困難になったり,施設・設備の遊休化,過密化を招いたりする危険性がある。一般的にいって,こうした〈無試験入学制度〉は,無試験入学の資格を有する者が比較的少数の場合には実行可能であるが,その数が増加するに伴って,運用の困難度を増してきている。
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執筆者:潮木 守一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…現代社会では,資格試験の多くは学校の卒業資格,すなわち学歴を受験資格としたり,さらには試験免除の条件としており,これによって二つの試験制度は有機的に統合され,教育的選抜と社会的(職業的)選抜とが,一つの連続的な過程を構成することになる。現代社会の試験制度をめぐる病理や弊害の多くは,この点とかかわっており,日本の入学試験を中心とした激しい受験競争は,その際だった例として知られている。 試験はそれ自体,人間の能力を評価する一方法にすぎないが,技術のつねとして,多様な目的を達成するうえで,手段としての利用可能性をもっている。…
…中学校の卒業生数は,1903年になって年1万人の水準を超したが,受験参考書の出版点数はこのころから急に増大する。高等・専門学校への入学希望者が増大したのに上級学校の定員枠がそれに応じて増大しなかったから,入学試験が競争試験の性格を強くもつようになったのである。こうして,受験参考書がその形をととのえたのは1910年前後のこととみてよい。…
…高等教育と研究のための機関。国によって年限,形態,理念などは異なるが,ほぼ18歳以上の青年男女を受け入れ,学校体系の最上部分を占める機関である点は共通している。日本の現行制度では,高等学校の上に位置し,修業年限4ヵ年の大学(ただし医学および歯学の学部は6年以上)と,2~3ヵ年の短期大学とがある。また設置者による区別として国立,公立(都道府県立または市立)および私立(学校法人の経営するもの)の3種類がある。…
※「入学試験」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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