改訂新版 世界大百科事典 「漁業災害補償制度」の意味・わかりやすい解説
漁業災害補償制度 (ぎょぎょうさいがいほしょうせいど)
中小漁業者が一定の共済掛金を支払い,異常の事象や不慮の事故により,その営んでいる漁業や養殖業に損害が生じた場合に,漁業共済組合から損害の程度に応じ共済金の支払を受ける共済制度(〈共済事業〉の項参照)。1957年から6年余政府が民間団体に委託して行った試験実施を経たのち,64年に根拠法として漁業災害補償法が制定され,この制度は発足した。漁業共済組合は,漁獲共済,養殖共済および漁具共済という3種の漁業共済事業を実施している。(1)漁獲共済 共済契約ごとに,その漁業の漁獲金額が過去一定年間の実績を基準として算定された金額(共済限度額)に達しない場合に,その減収の度合に応じ共済金が支払われるもので,いわゆる収穫保険方式による共済事業。(2)養殖共済 ノリ,カキ,真珠,ハマチ,タイなどの養殖業を対象とし,養殖中の水産動植物および使用中の養殖施設に死亡,流失,損壊などの損害が発生した場合に共済金が支払われるもので,いわゆる物的保険方式による共済事業。なお74年以降は,ノリ養殖業を対象に収穫保険方式による給付を行う〈特定養殖共済事業〉が試験的に実施されている。(3)漁具共済 定置網,巻網,流し網について,これを使用する漁業の操業中に損壊,流失などの損害が発生した場合に共済金が支払われるもので,物的保険方式による共済事業。
漁業災害補償制度は,沿海都道府県に区域内の漁業協同組合および同連合会の出資により各1,全国で39設立されている漁業共済組合がそれぞれ元受共済者として行う漁業共済事業,全国段階の漁業共済組合連合会が漁業共済組合に対して行う漁業再共済事業,および政府が漁業共済組合連合会に対して行う漁業共済保険事業(漁獲共済,養殖共済の両事業について実施)という3段階(漁具共済事業にあっては2段階)の事業によって仕組まれている。また制度の円滑な運営のため,別に漁業共済基金(漁業災害補償法に基づく特殊法人)を設置し,漁業共済団体が支払う共済金や再共済金が不足する場合,これに対する融資を行っていたが,同基金は82年10月政府の認可法人である中央漁業信用基金に吸収合併され,事業も引き継がれた。なお政府は,漁業者の支払う共済掛金の一部および漁業共済団体事務費の一部について補助するほか,中央漁業信用基金に対し出資を行っている。
→農業災害補償制度
執筆者:橋本 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報