改訂新版 世界大百科事典 「農業災害補償制度」の意味・わかりやすい解説
農業災害補償制度 (のうぎょうさいがいほしょうせいど)
農業生産は天候その他自然条件の影響を大きく受け,豊凶の変動が大きいので,経営と生産の安定のためには凶作に備える補償制度が必要である。またその性質上民間の保険に任せることも困難であるため,国の財政補助によって農業災害補償制度が成立している。この制度は古くは江戸時代の社倉などにもつながっており,明治維新後は,1880年に備荒儲蓄(ちよちく)法が制定されている。現在の制度の直接の発端は1929年公布の家畜保険法であり,これはとくに有畜農業の振興を目的としていた。その後38年には農業保険法が公布されたが,第2次大戦を経てのち,これらを統合しかつ強化して農業災害補償法が設けられ(1947公布),さまざまな改正を経ながら現在に至っている。
農業災害補償制度は,農家が共済掛金を出し合って積み立て,災害をこうむったときは被災農家が共済金を受け取るというものである。基本的には保険の一種であるが,一般の保険とは異なったいくつかの特色を有している。第1に,民間の保険としては経営的に成立が困難であるため,国が制度の実施主体である農業共済組合の事務費の大半を負担し,また共済掛金の約半分を負担している。第2に,いくつかの部門については共済への加入が強制されている。第3に,共済組合自体が,大きな災害による共済金の支払困難をさけるために国に再保険をしている,などである。この制度に基づく事業の内容,対象となる作物(共済目的),対象となる災害(共済事故)などは,すべて農業災害補償法によって特定されており,現在の事業は,米麦を対象とする農作物共済をはじめ,蚕繭共済,家畜共済,果樹共済,畑作物共済,園芸施設共済および農機具・建物に関する任意共済の7種に分かれている。このうち,農作物共済,蚕繭共済,家畜共済は共済組合に実施が義務づけられている必須事業であり,他は任意事業である。また一定規模以上の米麦を栽培している者および養蚕を行っている者は,自動的に共済に加入することになっている(当然加入)。
この制度は,ほぼ市町村単位につくられる農業共済組合,都道府県単位の農業共済組合連合会,および国の農業共済再保険特別会計の3段階制で運用されているが,農業共済組合は市町村によって代行されることもある。農業共済組合は農家から共済掛金を徴収し,被災農家に共済金を支払うのであるが,この支払の責任(共済責任)を確実に果たすため,共済責任の一定割合について農業共済組合連合会に保険をかけ,さらに連合会は,国に再保険をかけるという仕組みになっている。風水害,冷害,病虫害などによって被災した農家は,共済組合に損害通知をする。共済組合は,検見または実測によって損害評価を行い,かつ学識経験者からなる損害評価会の意見を求めて,減収量を認定し共済金を支払うことになる。
執筆者:荏開津 典生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報