漢鏡(読み)カンキョウ

デジタル大辞泉 「漢鏡」の意味・読み・例文・類語

かん‐きょう〔‐キヤウ〕【漢鏡】

中国漢代の銅鏡円形で、時に白銅質のものがあり、清白鏡・内行花文鏡・四神鏡・方格規矩ほうかくきく鏡・神獣鏡などが代表的。前漢鏡王莽おうもう鏡・後漢鏡の別がある。→漢式鏡

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精選版 日本国語大辞典 「漢鏡」の意味・読み・例文・類語

かん‐きょう ‥キャウ【漢鏡】

〘名〙 中国で発達した金属鏡のうち、漢代のものの総称六朝時代の鏡を含めていうこともある。すべて白銅製で、背面に、神人異獣を鋳だした円鏡

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改訂新版 世界大百科事典 「漢鏡」の意味・わかりやすい解説

漢鏡 (かんきょう)

中国では漢代に銅鏡が一般に普及し,これを漢鏡と呼んでいる。漢鏡はスズを含み,銅質も良好であることが多い。

前漢の前半ではまだ戦国式の鏡の伝統をひいている。しかし縁が厚くなり,地文が消えて主文だけとなり,前漢式のスタイルが完成する。螭竜文(ちりゆうもん)鏡はその例である。前漢も盛期を過ぎると,草葉文鏡,星雲文鏡が用いられるようになる。星雲文鏡は百乳文鏡とも呼ぶ。草葉文鏡はまわりに16個の連弧文をめぐらしている。河北省満城県の中山王劉勝の墓出土の草葉文鏡(径21cm)には〈長貴富楽,毌事日有,熹常得意,喜宜酒食〉の銘がある。前漢式鏡の中では,銘帯を主文様とする鏡が多く,銘の一部をとって〈清白鏡〉〈昭明鏡〉〈明光鏡〉〈日光鏡〉などと呼ばれている。内区に単圏か重圏の銘帯があり,連弧文銘帯をもつものもある。銘帯には〈見日之光天下大明……〉〈絜清(精)白而事君……〉〈内清質以昭明光輝象夫日月〉などの銘がある。前漢末には,竜文より便化したとみられる逆S字形の主文をもつ虺竜文(きりゆうもん)鏡がある。また前漢末には居摂元年(後6)銘の連弧文鏡があり,初めて紀年銘鏡が現れる。

前漢から後漢の間にあった王莽時代は一つの時代の転換期で,鏡式も新しいものが登場する。これらは後漢代を通じて行われた。方格規矩鏡は,いわゆる方格と規矩文によって分割され,四神の霊獣を配することが多く,四神鏡ともいわれている。方格は12の小乳と十二支の銘を配し,青竜,朱雀,白虎,玄武の四神をおいている。また外区には流雲文,鋸歯文などをいれる。銘帯には〈漢有善銅〉や〈新有善銅〉などの銘文をいれている。内行花文鏡は,連弧文鏡ともいい,漢鏡の大部分を占める普及した鏡式である。連弧文鏡はすでに戦国時代にあり,前漢鏡にも現れているが,後漢代には銘帯がなく,1字ずつの吉祥銘を配している。たとえば〈長宜子孫〉〈寿如金石佳且好〉などの銘をもつものがある。内行花文鏡の中には,三国・六朝代にまで下るもののあることは否定できない。内区に獣帯をおいたものに獣帯鏡がある。細線式と半肉刻式があり,細線式のものには四神鏡と同じ銘文のあるものがある。また両型式とも鈕座として盤竜座をもつものがある。画像鏡には東王父,西王母の神人や,車馬,騎馬などの画像が描かれ,後漢の画像石に似ているので画像鏡と呼ばれている。三角縁と平縁のものがある。後漢末より三国(呉)時代に盛行したものと想定されている。虁鳳(きほう)鏡は外縁に16個の連弧文があり,四葉文の間に相対する双鳥を四つ配しており,〈位至三公〉〈君宜高官〉〈長宜子孫〉などの銘がある。後漢の後半に出現して三国・六朝代に盛行したと考えられる。獣首鏡虁鳳鏡とよく似た鏡で,内区に大きな糸巻形図文がある。後漢後半より魏・晋代に四川省で製作されている。盤竜鏡は内区にわだかまっている竜形を描いたもので,単獣式,両頭式,三頭式,四頭式のものがある。位至三公鏡は主文が竜鳳双頭文系統で鈕の上下に〈位至〉〈三公〉,ときには〈君宜〉〈高官〉の銘文をいれたもので,後漢末より六朝前半に,中国北部で使用された。神獣鏡は後漢の中ごろに出現し,三国・西晋時代に流行し,南北朝までつづいた鏡で,当時民間に流行した神仙思想を背景としている。これには環状乳神獣鏡,重列神獣鏡,対置式神獣鏡および同向式神獣鏡などがある。環状乳神獣鏡は画文帯式のものに優れたものが多く,中国のみならず日本の古墳からもかなり発見されている。重列神獣鏡は,内区全体に神仙像を1列に配置したもので,後漢末期から呉・西晋時代に行われた。

 漢代の鏡には〈尚方作竟〉とあり,尚方で鏡を鋳造していたことがわかるが,《漢書》百官表によれば,尚方は少府に属し,すぐれた器物をつくっていたことが明らかである。後漢の半ばをすぎると,〈広漢造作〉とあり,現在の四川省広漢県で製作したものがあることが知られる。また魏の黄初2年(221)画文帯神獣鏡には〈武昌元作明意〉とあり,黄初4年画文帯神獣鏡には〈会稽師〉とあって呉の地名が現れていることが注目される。長安,洛陽のほか各地に鏡の製作の中心が移ったものであろう。

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百科事典マイペディア 「漢鏡」の意味・わかりやすい解説

漢鏡【かんきょう】

中国,漢代の鏡。前漢鏡,王莽(おうもう)鏡,後漢鏡に大別。前漢鏡は先秦鏡の発展したもので,内行花文鏡,重圏精白鏡,四孔星雲鏡など。王莽鏡は四神鏡が代表的。後漢鏡には【き】鳳(きほう)鏡,獣首鏡,浮彫を施した神獣鏡画像鏡などがあり,神獣鏡は三国以後にも多い。これらのうち紀年銘のあるものを紀年鏡といい,前漢居摂元年(後6年)の内行花文鏡が最古。→
→関連項目オケオ唐鏡

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「漢鏡」の意味・わかりやすい解説

漢鏡
かんきょう
Han-jing

中国,漢代の鏡。精良な白銅鏡が大部分で,鏡面に少しそりがあり,鏡背は鈕を中心に同心円状に数区に分れ,文様を表わしている。技術上の精巧さでは他の金属器の追随を許さない。鏡に銘文をもつものが多く,官設工場で製作されたと推定される。通常は前漢鏡,王莽鏡,後漢鏡に分類される。鏡背文様は前漢鏡では四乳葉文鏡,重圏文精白鏡,内行花文鏡。王莽鏡では方格規矩四神鏡。後漢鏡では夔鳳鏡 (きほうきょう) ,獣首鏡,画像鏡,盤竜鏡,神獣鏡などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の漢鏡の言及

【鏡】より

…それは,主として中国以外の人たち,ことに日本の学者の研究によるところが大きい。これは考古学の発達に伴う実物の観察に加えて,新たに確実な遺品が掘り出されたからで,ことに1920年代になって,それまで最も古いとされていた漢鏡よりも古い鏡がおびただしく見いだされたからである。中国の金属鏡は,現在までに発見されたところでは,前6~前5世紀のものが古い。…

※「漢鏡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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