(読み)ようやく

精選版 日本国語大辞典 「漸」の意味・読み・例文・類語

ようやく やうやく【漸】

〘副〙 (「ややく(稍)」に「う」の音の加わってできた語か。他に、「やくやく(漸漸)」の変化した語、「やをやく」の変化した語などとする説がある。漢文訓読では「に」を伴って用いることが多い)
① 次第に。だんだん。少しずつ。ようやっと。ようよう。ようようく。
古今(905‐914)恋五・七九〇・詞書「あひしれりける人のやうやくかれがたになりける」
※文鏡秘府論保延四年点(1138)地「花桃微(ヤウヤクニ)紅を散らす」
※趣味の遺伝(1906)〈夏目漱石〉一「人々は漸くに列を乱して」
② そろそろと。ゆっくり。徐々に。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)三「有る人弓を張り箭を捻(と)りて徐(ヤウヤク)行きて視覘ひ来りて」
※世俗諺文鎌倉期点(1250頃)「徐々(ヤウヤクニ)樹より下りて、還りて仏の所(みもと)に詣うづ」
③ かろうじて。やっとのことで。どうにかして。ようやっと。
※遊楽習道風見(1423‐28頃)「次第々々本付時分に、草を取り、水を入て、雨を待て、やうやく稲葉になる比は、ひだつ時也」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一「是が人間の飲む烟草といふものである事は、漸く此頃知った」
④ もはや。すでに。
サントスの御作業(1591)二「コノ トモガラ ヲ メシ ヨセ タマエバ、yǒyacu(ヤウヤク) ジコク チカヅク コト ヲ ミシリ タマイテ」
[補注]古くは漢文訓読特有語で、仮名文学、和文脈の「ようよう(漸)」に対して用いられた。

ようよう やうやう【漸】

〘副〙 (「ようやく(漸)」の変化した語。「と」「に」を伴って用いることもある)
① 時が経つにつれて。次第を追って。だんだん。次第に。おいおい
書紀(720)推古一四年九月(岩崎本平安中期訓)「季秋、薄(ヤウヤウ)に冷し」
※仮名草子・仁勢物語(1639‐40頃)上「やうやう夜も明行に見れば、生みし女も子も無し」
② そろそろと。おもむろに。徐々に。
※書紀(720)天武元年六月(北野本訓)「磐鍬独り山中に兵有らむことを疑ひて、後れて緩(ヤウヤウ)に行く」
源氏(1001‐14頃)若紫「御心につく事どもをし給ふ。やうやう起きゐて見給」
③ 何らかの制約や困難があったために成立しにくかった行為・状態がどうにか成り立つさまを表わす語。かろうじて。やっと。どうにかして。
※宇治拾遺(1221頃)一三「身の太くなりて、せばくおぼえて、やうやうとして穴の口までは出でたれども」
※ひとりの武将(1956)〈松本清張〉一二「高虎が、ようよう読み終って」
④ 時が経って、ある事態がまさに成立するさまを表わす語。まさしく。もはや。すでに。
平家(13C前)五「すは平家の代はやうやう末になりぬるは。〈略〉八幡大菩薩のせつとを頼朝にたばうど仰られけるはことはり也」
[補注]古くは漢文訓読用語であった「ようやく(漸)」に対して、主として仮名文学、和文脈で用いられた。

ぜん【漸】

〘名〙
① だんだんに進むこと。度合がしだいに加わって進むこと。
※正法眼蔵(1231‐53)出家功徳「頓にあらず漸にあらず、常にあらず無常にあらず」 〔易経‐漸卦〕
② きざし。いとぐち。端緒兆候
※童子問(1707)上「今子欲語孟、而径詣至道。此乃陥于邪僻之漸、其後不復可一レ救」 〔春秋公羊伝注‐隠公元年〕
③ 仏語。漸教のことで、程度の低い教えから程度の高い教えへと漸次に導いていくもの。
※日蓮遺文‐立正観抄(1274)「止観云、漸与不定置而不論。今依経更明円頓
※細流抄(1525‐34)一「化儀の四教と云は頓、漸、不定、秘密の四教也」
④ 易の六十四卦の一つ、。上卦は巽(そん)(=風)、下卦は艮(ごん)(=山)。風山漸ともいう。巽は木で、木が山の上に生えて次第に生長するさま。

ようよう‐く やうやう‥【漸】

〘副〙 (「ややく(稍)」の変化した語か。「く」は副詞語尾。「に」を伴って用いることもある) =ようやく(漸)
※大唐西域記巻十二平安中期点(950頃)「歳月浸(ヤウヤウ)く遠くして龍鼓久しく旧く懸(かか)る処に無し」
※建立曼荼羅護摩儀軌永承二年点(1047)「数畢なば、安(ヤウヤウクに)眠て」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「漸」の意味・読み・例文・類語

ぜん【漸】[漢字項目]

常用漢字] [音]ゼン(呉) [訓]ようやく
しだいに。だんだん。「漸減漸次漸進漸漸漸増
少しずつ進む。「西漸東漸
[名のり]すすむ・つぐ

ぜん【漸】

物事が少しずつ進むこと。「を追って改善する」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【天台宗】より

… 智顗の仕事は,《法華経》を軸とする教相判釈(きようそうはんじやく)と,止観の体系を完成させたことにある。教相判釈とは,大小乗の経論の相違を,仏陀一代の説法の時期によるものとし,そこに華厳,阿含(あごん),方等(ほうどう),般若,法華(涅槃(ねはん))という,五時の別を主張するもので(五時八教),さらに弟子たちの能力の向上に応ずる教化の形式という頓・漸・秘密・不定(ふじよう)の化義と,その内容に当たる蔵・通・別・円の化法を分け,諸宗の教学を総合することで,そこに《法華経》に説く一切皆成の真実と方便を,あますことなく発揮することとなる。頓は華厳であり,円は法華である。…

※「漸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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