日本大百科全書(ニッポニカ) 「災害被災者支援法」の意味・わかりやすい解説
災害被災者支援法
さいがいひさいしゃしえんほう
1995年(平成7)に発生した阪神・淡路大震災のような大規模自然災害の被災者へ、公的な支援金を給付することを目的とした法律。1998年5月、第142通常国会で成立。正式名称は被災者生活再建支援法。平成10年法律第66号。おもな内容は、被災世帯に対し、居住する住宅が受けた被害に応じた基礎支援金と住宅の再建方法に応じた加算支援金が支払われる(最高300万円)というものである。支援金は都道府県が拠出する「被災者生活再建支援基金」(600億円)の運用益から給付し、国は給付金の半額を補助する。
本法律成立前、政府は、
(1)天災による被害は誰のせいでもなく国に個人補償の責任はない、
(2)被災者についてはすでに災害救助法などの物的な支援制度が存在する、
(3)生活困窮者には生活保護制度を通じた資金援助が可能である、
(4)国の財政が逼迫(ひっぱく)しており新たな制度を創設する余裕がない、
などを理由に公的な資金給付には消極的であった。
しかし、約2500万人もの被災者の公的支援を求める署名が集まり、政府の防災問題懇談会や全国知事会が独自に「災害相互支援基金」の創設を打ち出す動きなどもあり、ようやく法律の成立にこぎつけた。この法律の原案は、被災地の市民団体などが起草し、これに賛同する超党派の国会議員によって、議員立法として第140通常国会に提出されたもの。この原案では、大規模自然災害の被災者を対象に、家屋の全壊世帯に最高500万円、半壊世帯に250万円を市町村が「生活基盤回復支援金」として支給するものとされていた。自らも大震災の被災者であり、市民運動の先頭にたった小田実(おだまこと)は、個人では対応不可能な事態に対応し、個人の生活を守ることこそ国の責任、としている。国民の多くが多額の住宅ローンを抱えている現実を考えると、法律に規定された支給額で生活を再建することは困難という感をぬぐいきれない。しかし、こうした法律が市民のイニシアティブで成立にこぎつけたことは、日本の政治行政構造を市民の立場から組替える試みとしては高く評価できるであろう。
[大六野耕作]