縦3×横2の計6点の組み合わせでさまざまな文字や記号などを表す。フランス人のルイ・ブライユが19世紀に考案、世界に広まった。横書きで、指で読み、点字器で書ける。情報技術を使った一般の文字や音声との変換も容易だ。点字投票が認められ、点字受験も導入されている。しかし日本では使用者は視覚障害者全体の1割程度とされる。高齢化などで中途視覚障害者が増える一方、年を取ってからの取得は難しいことも背景だ。
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点字は、触覚によって読むことが可能となるよう、凸点を組み合わせて文字体系とした、視覚障害者(とくに盲人)用の文字である。縦3点×横2点の6点の各点の組み合わせによってできる63種類を基本に点字組織を形成している。視覚障害関係者の間では、この点字に対して一般の文字のことを墨字(すみじ)ということが多い。
[瀬尾政雄]
6点方式の点字は、1829年フランスの盲人ルイ・ブライユLouis Braille(1809―52)によって公表され、54年に政府によって公認された(点字を表すフランス語および英語はbrailleである)。彼の点字は、同国砲兵士官シャルル・バルビエCharles Barbierが軍事用に開発した11点の点字方式を改良して6点式とし、盲人が触読しやすいものとした。それまでは、墨字を模した線文字による凸字方式が用いられていたが、読みや書きの効率性、紙面の節約などの面から、一般の文字とは異なった点字が盲人用文字としてその座を占めるようになり、現在に至っている。
日本における点字は、1890年(明治23)、当時の東京盲唖(もうあ)学校の点字撰定(せんてい)会において、同校教員石川倉次の案が採用され、1901年(明治34)には『官報』に「日本訓盲点字」として掲載された。また点字の法制上の公認は、1925年(大正14)および翌年の衆議院選挙法および同法施行令の公布によって実現した。
[瀬尾政雄]
アルファベットを基本とする外国の点字に対し、日本の点字は、仮名に対応する表音文字を基本とし、点字の構成は母音と子音の要素を加味して五十音を表している。点字の大きさは、点字用具の種類によって多少異なるが、縦6ミリメートル、横3ミリメートルの長方形の中に、直径1.2ミリメートル、高さ0.4~0.6ミリメートルの点が6個並んでいる。この6個の点にはそれぞれ番号が付されている。読む場合(凸点)、左列の上から1の点、2の点、3の点といい、右列の上から4の点、5の点、6の点という。書く場合(凹点)には、これが反対となり、右列が1、2、3となり、左列が4、5、6の点となる。このように点字を打つ(凹点)と、凸点は紙の裏側に左右が反対になって表れてくるわけである。点字を書く用具は、点字板、携帯用点字器、点字タイプライターの3種に大別される。印刷方法には、亜鉛板に挟んでローラーにかけて紙に凹凸をつくる伝統的な方法のほかに、発泡インキで凹凸をつくる方式や塩化ビニルによる固型点字、真空熱処理形成のサーモフォームなどがあるが、将来はコンピュータ導入による点字教材作成装置の普及が望まれている。
点字の読みは、左右の人差し指を使って読むが、一般的には、左手の人差し指を使って読むほうが学習効率から望ましいとされている。
点字の表記法の原則は、(1)仮名遣い(語の書き表し方)、(2)分かち書き、(3)句読法に大別できる。仮名遣いは、現代かなづかいに対応しているが、ウ列・オ列の長音、助詞の「は」「へ」の表記が異なるほか、拗音(ようおん)、促音(そくおん)、特殊音のような小文字の表記は、点字に対応させることが困難であるため、独自の表記法を用いている。
分かち書きは、点字が仮名文字方式のため、分かち書きをしなければ読解が困難である。そのため、いわゆる文節分かち書きを行う。文節内の長い複合語についても分かち書きを行うことがある。
句読法は原則として、一般に用いられている用法と同じである。句点、疑問符、括弧(かっこ)類、矢印類などの諸記号が同様に使用されるが、読点、中点の使用については限定的な使用が多いため、とくに注意が必要である。このほか、点字の数学記号、理化学記号、音楽記号などが定められている。このような点字表記法は、盲人福祉関係者、盲学校関係者、学識経験者などによって構成されている民間の「日本点字委員会」が中心となって、点字表記に関する統一、改善、普及が行われている。国際的には、世界盲人福祉協議会World Council for the Welfare of the Blind(WCWB)内の一委員会である世界点字協議会World Blaille Council(WBC)が設置され、点字記号の世界的統一への努力が行われている。
[瀬尾政雄]
英語の点字表記の特徴は略字表記を使用する点にある。略字の使用程度によってその段階が定められている。グレードⅠは、普通の文字や符号と1対1の対応によるフルスペルの表記方式である。グレードⅡは、グレードⅠを前提にして、180種以上の短縮や省略による略字システムで表記する。新聞、雑誌、教科書などに採用され、英語点字出版物の標準的な表記となっている。グレードⅢは、グレードⅡを前提に、さらに多くの点字略字が加えられ、その種類も500種以上といわれ、個人用として用いられる。
[瀬尾政雄]
点字に関する問題点は多くあるが、点字の触読の速度はどのように訓練しても、一般の人たちが目で読むのに比較して3倍から4倍の時間を要するという研究結果がある。このため、大学入学試験や司法試験などのような公的な試験の点字受験者には、規定時間の1.5倍の時間延長が認められている。
一般の文字形態とは異なる点字を使用していることは、一般社会とのコミュニケーションや語彙(ごい)の理解力などにおいて必然的な不利を伴う。このため、8点の点字構成にして漢字が表記できる「漢点字」の試みや、視覚的信号を触覚的な信号に変換して盲人が一般の文字を触読できる「オプタコン」の導入とその活用、または、コンピュータの導入による点字と墨字との相互変換装置や、一般の活字の印刷物を自動的に読み取り、音声化する読書機Kurzweil Reading Machineなどの研究開発が行われてきた。さらにこれらの研究開発以降のコンピュータによる点字情報処理技術は、点字出入力システムの開発、音声出力システムの開発など、目覚ましい進展を遂げている。とくに点字と普通文字との相互交換の高精度化は、視覚障害者の長年の夢の実現を間近なものとしている。
[瀬尾政雄]
『大川原欽吾著『点字発達史』(1937・培風館)』▽『宇山安夫他編『世界盲人百科事典』(1972・日本ライトハウス)』▽『小林一弘他編『標準点字表記辞典』(1981・日本盲人福祉研究会)』▽『木塚泰弘編著『点字研究の軌跡――退官記念論文集』(1999・東京カラー印刷)』▽『本間一夫著『指と耳で読む――日本点字図書館と私』(岩波新書)』
盲人が指先で読む記号文字で,紙面に凸起した点の組合せで構成される。現在世界的に通用している点字はフランスの盲人ブライユLouis Braille(1809-52)が1829年に考案したもので,これにより盲人ははじめて自由に読み書きができるようになり,教育方法に画期的進歩がもたらされた。ブライユの点字は縦3点横2列の6点を単位とし,その配列方法によりアルファベットを表す。日本では1890年(明治23)に東京盲啞学校教諭石川倉次(1859-1944)がブライユ点字の6点を用いて五十音を表記する日本点字を完成,その方式が現在に至るまでそのまま使用されている。その構成は上部三つの点(1,2,4の点)の組合せを母音アイウエオにあて,この母音点字を基本として,これにその他の点を組み合わせ,たとえばカ行には6の点,サ行には5,6の点を加えて子音点字とする。現在は点字による数学,化学,楽譜など特殊記号も用いられている。点字を書くには点字器(点筆,定規,点字板からなる)や点字タイプライターを用いる。点字印刷は亜鉛板に点字を製版し,これを紙面に圧印する方法が最も古く,かつ一般的である。近年欧米ではコンピューターによる普通文字の点字変換が印刷に導入され,また点字情報をカセットテープに記録して,随時必要個所をプラスチックの点字で表示するペーパレスブレールも開発されている。普通文字と点字相互間の自動翻訳により,健常者が点字を,盲人が普通文字を自由に読み書きできる日は近いであろう。点字出版は教科書その他の単行本や《点字毎日》(1922年毎日新聞社より創刊)など各種雑誌の発行が年々増加しているが,一般出版界に比すれば微々たるものである。さらに近年は磁気テープによる録音図書の普及がいちじるしく,点字図書の地位は相対的に低下している。とはいえ,点字は盲人の教育・職業・生活において不可欠のものであり,公職選挙の点字投票をはじめ,いまや大学入試,公務員試験,司法試験でも公認される方向にあり,一般社会において市民権を獲得しつつある。
→点字図書館
執筆者:加藤 康昭
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