煩・五月蠅(読み)うるさい

精選版 日本国語大辞典 「煩・五月蠅」の意味・読み・例文・類語

うるさ・い【煩・五月蠅】

〘形口〙 うるさ・し 〘形ク〙
① いきとどいて完全であるさまをいう。また、その度が過ぎて、反発されたり敬遠されたりするさまをいう。平安時代の例では多くその両面をもった表現になる。
(イ) いやになるほどすぐれている。多くすぐれた人物にいう。
※宇津保(970‐999頃)沖つ白浪「上も、とおもほして、御心とどめて物宣ふにこそあめれ。うるさき人の幸ひなりや」
(ロ) いやになるほどこまごまとしたところまでゆきとどいている。煩わしいほどよく気がまわる。現代語では、よく知っている、精通している、などというときに多く使う。「ワインにうるさい」
伊勢物語(10C前)一三「武蔵鐙(あぶみ)さすがにかけて頼むにはとはぬもつらしとふもうるさし」
(ハ) こまごまゆきとどきすぎていて煩わしい。気がまわりすぎて感じが悪い。
落窪(10C後)三「『あやしう昔心地して、あはれなる御声どもかな』とて、いひゐたる事どもは書かじ、うるさし」
技芸がすぐれていて、嫌味なほどである。巧者だ。うるせし。
源氏(1001‐14頃)帚木「立田姫といはむにも、つきなからず、たなばたの手にも劣るまじく、その方も具して、うるさくなん侍し」
③ いかにもわざとらしくていやみだ。
篁物語(12C後か)「出でてまかりしを、引きとどめて、今日までさぶらはせ給ふ。うるさしかし」
④ ものが多くつきまといすぎて煩わしい。うっとうしい。やかましい。
(イ) 虫とか煙、匂い、髪の毛などまつわりつくものについていう。
※堀河百首(1105‐06頃)夏「柴の家のはひりの庭に置く蚊火の煙うるさき夏の夕暮藤原顕仲〉」
(ロ) 音についていう。
※説経節・説経苅萱(1631)中「よなきするたにうるさいに、なかなきをはしむるか」
(ハ) 話、しゃべり方、あるいは容貌、態度についていう。
※本福寺跡書(1560頃)「五度も十度も、その機合の人をもて和を入て、教訓正路にあるべし。片屓贔うるさきものなり」
(ニ) 手続きとか、手順についていう。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一七「あひのおさへのといふ蒼蠅い事の無代り」
⑤ (多く「…するとうるさい」の形で) めんどうだ。煩わしいことになる。
※或る死、或る生(1939)〈保高徳蔵〉一「火元だといふと、調べは相当うるさいかも知れない」
⑥ きたない。また、いやな感じ、よくない感じである。〔匠材集(1597)〕
※仮名草子・尤草紙(1632)上「うるさき物のしなじな〈略〉てんかん、くつち、くさり物のにほひ、ふるきさかなのれうり」
[語誌](1)ウルは「うら(心)」、サシは「狭し」か。平安時代では①のように相手のすきがない行為や状態に接して心に圧迫を感じて一目置くものの、一方で敬遠したくなる感情をいう。そこから、平安末頃から④のような煙や音声に対して感覚的に煩わしい、うっとうしいと思う意が生じ、近代には「…するとうるさい」の形で面倒だ、厄介だの意でも用いられるようになった。
(2)②の意は「うるさし」の「さ」と「うるせし」の「せ」の字体が混用されたもの。
(3)中世に多く「右流左死」の表記があり、そのあて字の意について「江談抄‐三」に次の記事がある。「世以英雄之人右流左死。其詞有由緒。昔菅家為右府。時平為左府。共人望也。其後右府有事被流。左府薨逝。故時人称人望之者右流左死云々」
うるさ‐が・る
〘他ラ五(四)〙
うるさ‐げ
〘形動〙
うるさ‐さ
〘名〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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