物語。《篁日記》《小野篁集》ともいう。成立時期については平安前期・中期・末期,鎌倉初期など諸説があって一定しない。前半と後半がそれぞれ成立時期を異にするとの説もある。前半は,小野篁が大学寮の学生のころ異母妹に漢籍を教授するうちに相思の仲となるが,女は親に反対されて閉じこめられたため食を絶って悶死し,やがて亡霊となって篁のもとに現れるという悲恋物語であり,後半は,篁が右大臣の三の君と結婚したため亡霊に怨まれるものの,後には宰相となって栄達するという成功物語である。物語内容がどこまで実在の篁の事跡に即しているかは不明であり,またそこには史書に伝えられるごとき篁の剛直不羇の風貌は見られない。《古今和歌集》に篁の妹への哀傷歌が収められ,また《本朝文粋》には右大臣に奉る書状が篁の作成と伝えられて収められる。それらに取材し,かつ稀有の才幹であった篁に関する伝承にもとづいて,後の文人により創作された物語でもあろうか。
執筆者:秋山 虔
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『小野篁集』とも。古くは『篁日記』『小野篁記(おののたかむらのき)』などともよばれた。平安時代の物語。作者・成立は未詳。平安中期成立とする説、平安末期成立とする説が並存する。平安初期に歌人・文人として才名が高かった小野篁を主人公とする物語で、歌物語性の濃厚な第一部と、説話文学的な傾きがある第二部との二つの部分よりなるが、後人が篁に仮託したもので、作品中の和歌も篁の詠作とはいいがたい。だが、書名からもうかがわれるように、篁の私家集としても意識されており、『新古今集』以下四つの勅撰(ちょくせん)集に九首の歌が入集している。第一部は篁の異母妹との恋が語られ、篁の子を身ごもった妹が母親に仲を裂かれて悶死(もんし)し、亡霊となって現れるというもの。第二部は右大臣の娘に求婚した篁が、大君(おおいぎみ)や中の君には断られたが、三の君と結婚して栄達したというもの。前者は『古今集』の「妹(いもうと)の身まかりにける時詠みける」、後者は『本朝文粋(もんずい)』巻七の「右大臣に奉る」書状などが素材的に関連深いといわれる。怪奇性や浪漫(ろうまん)性に富み、亡霊譚や求婚譚など多様な話型を踏まえた、異色の作品である。
[小町谷照彦]
『石原昭平・根本敬三・津本信博著『篁物語新講』(1977・武蔵野書院)』
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…和歌は《古今集》に6首入集。なお《新古今集》以下の6首は後人の作たる《篁物語》よりの撰入ゆえ篁の実作とは考えがたい。篁は多情多感な博識の英才で自恃(じじ)するところ高く,直情径行,世俗に妥協せぬ反骨の士であり,野狂の異名がある。…
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