日本大百科全書(ニッポニカ) 「物質と記憶」の意味・わかりやすい解説
物質と記憶
ぶっしつときおく
Matière et mémoire
ベルクソンの第二主要著作。1896年刊。デカルト以来の精神‐物質二元論を継承し、両者の関係を独自の時間的視角から解明した書。心的実在には持続の緊張‐弛緩(しかん)によって「質的に異なるもろもろの層」があり、「純粋記憶」が外的事象にかかわらぬ純粋に心的な「時間的総合(サンテーズ)」であるとすれば、「純粋知覚」においてわれわれは物質の「記憶なき」現在反復のリズムと合体する。が、この二つは「観念的極限」にすぎず、いわゆる「生きる」とは知覚に応じて諸層の記憶を組織化しつつ、物質リズムに心的リズムをねじ込んで前者を後者に同化し方向づけることにあり、心身関係なるものも、脳なる「身」がその物質としての運動性によって、「思考のうちイマージュすなわち運動になりうる部分」を「行動へと外化する」作業とされる。
[中田光雄]
『田島節夫訳『物質と記憶』(『ベルグソン全集 第二巻』1965・白水社)』