中国、三国時代の魏(ぎ)の学者。字(あざな)は輔嗣(ほし)。山陽(河南省焦作(しょうさく)市)の人。何晏(かあん)とともに魏晋(ぎしん)の玄学(げんがく)の創始者である。著作に『老子道徳経注(ろうしどうとくきょうちゅう)』『老子指略』『周易(しゅうえき)注』『周易略例』『論語釈疑』などがある。彼の注釈における特色は、漢代の訓詁(くんこ)学のように字義に拘泥することなく、思想の根本趣旨を把握することに意を注ぐ点である。その思想は、「無を以(もっ)て本(もと)と為(な)す」(老子道徳経注)や「万物万形、其(そ)れ一に帰す。何に由(よ)りて一を致す。無に由(よ)るなり」(老子道徳経注)や「本を挙(あ)げて末を統(す)べる」(論語釈疑)に示されているように、すべての現象の根本にあって、現象を統御している一なる無を尊重するところにある。この考えは、南朝の宋(そう)の竺道生(じくどうしょう)(?―434)の般若(はんにゃ)解釈などにも影響を及ぼしている。
[小林正美 2016年1月19日]
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…後漢の荀爽(じゆんそう)や三国呉の虞翻(ぐはん)になると,卦爻(かこう)にさまざまな操作を施して卦と経文の関係を合理化しようとした。このような呪術的,技術的な漢易に対し,《易》を哲学の書,智慧の書としてとらえなおしたのが魏の王弼(おうひつ)である。彼の易注は《老子》臭があるとして後の儒者から非難されたが,《易》を煩瑣な魔術から解放し,国家の命運から個人の生き方の側に奪い返したところに,彼の仕事の画期的な意味がある。…
…これらの書物は〈三玄〉とよばれた。前漢末の揚雄や後漢末の荆州の群雄である劉表(りゆうひよう)のもとにさかえた学団にその起源はもとめられるが,確立者は魏の何晏(かあん)や王弼(おうひつ)たちである。何晏は《論語》の注釈を,王弼は《老子》および《周易》の注釈を著し,天地万物の本体を〈無〉にもとめる形而上学の立場から,漢代の儒学にかわる哲学を樹立した。…
※「王弼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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