珍海(読み)ちんかい

改訂新版 世界大百科事典 「珍海」の意味・わかりやすい解説

珍海 (ちんかい)
生没年:1091-1152(寛治5-仁平2)

南都東大寺碩学(せきがく)で作画に長じた画僧。藤原基光の子で,父子ともに画技をよくした。東大寺覚樹の下で三論・俱舎・法相などを学び,已講(いこう)となる。のち高野山の覚鑁(かくばん)や定智の師でもあった醍醐寺定海,さらに勧修寺寛信にも学び,密教図像に精通した。確証ある作品は現存せず,白描図像の中で《聖天図》(東寺)は古来珍海の筆になるとされてきたが断定できない。珍海の図像を転写したとされるものがあり,中では《仁王経五方諸尊図》(東寺)の南方幅などが知られている。しかしそれらから珍海の筆様・作風をうかがうことは困難である。1148年(久安4)には,当時東大寺別当であった寛信の命を受けて《法華堂根本曼荼羅(霊鷲山釈迦説法図)》(ボストン美術館)の修補を行っている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「珍海」の意味・わかりやすい解説

珍海
ちんかい
(1091―1152)

平安後期の三論の学匠、画僧。絵師春日基光(かすがのもとみつ)の子。東大寺東南院覚樹(かくじゅ)の弟子となり、のち醍醐寺(だいごじ)三宝院(さんぼういん)定海(じょうかい)や勧修寺(かじゅうじ)寛信(かんしん)から密教を受法した。東大寺では三会(さんね)の講師(こうじ)を務め、已講(いこう)となった。『決定往生集(けつじょうおうじょうしゅう)』始め三論・密教・浄土関連の著述も多い。その出自から画技に秀(すぐ)れ、醍醐寺や東寺に白描図像を多く残す。とくに東寺の「天下第一絵師」と傍書のある白描「双身歓喜天(そうしんかんぎてん)」、白描「仁王経五方諸尊図(にんのうきょうごほうしょそんず)」の南方幅(国指定重要文化財)は有名である。

[田村隆照]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「珍海」の意味・わかりやすい解説

珍海
ちんかい

[生]寛治5(1091)
[没]仁平2(1152).11.23. /永万1(1165)
平安時代後期の画僧。東大寺三論宗の碩学で,已講 (いこう) となるなど当代一流の学僧でもあった。藤原基光の子として生まれ画技に秀で,また醍醐寺三宝院定海に学んで密教図像に詳しく,「天下第一の絵師」と称された。『聖天図像』や『仁王経五方諸尊図像』中の南方幅 (教王護国寺) ,『騎獅文殊像』 (プリンストン大学) などの白描図像がその筆様を伝える。もと東大寺法華堂にあった『釈迦霊鷲山 (りょうじゅせん) 説法図』 (ボストン美術館) を久安4 (1148) 年に補修した。

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朝日日本歴史人物事典 「珍海」の解説

珍海

没年:仁平2.11.23(1152.12.20)
生年:寛治5(1091)
平安後期の三論宗の僧。宮廷画家藤原基光の子。東大寺の覚樹のもとで三論のほか華厳・倶舎・法相などを学び,三会の講師を勤めて已講となった。さらに醍醐寺の定海や勧修寺の寛信について密教を学んだほか,浄土思想にも精通して『決定往生集』を著すなど,碩学として知られる。画僧としても名高く,確証ある作品こそ伝わらないが,数点の密教白描図像にその名が残る。特に東寺伝来の「聖天図」には「珍海已講筆 天下第一絵師」と記されており,その盛名がうかがわれる。久安4(1148)年には「釈迦霊鷲山説法図」(米・ボストン美術館蔵)の補修も行っている。

(矢島新)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「珍海」の解説

珍海 ちんかい

1091-1152 平安時代後期の僧。
寛治(かんじ)5年生まれ。藤原基光(もとみつ)の子。東大寺東南院の覚樹に三論を,醍醐寺(だいごじ)三宝院の定海(じょうかい)らに真言をまなぶ。興福寺維摩会(ゆいまえ)など三会の講師(こうじ)をつとめる。浄土教に関心をもち「決定(けつじょう)往生集」をあらわす。絵にもすぐれ天下第一絵師とよばれ,おおくの密教図像や仏画をえがいた。仁平(にんびょう)2年11月23日死去。62歳。号は理法房。

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世界大百科事典(旧版)内の珍海の言及

【決定往生集】より

…平安末期の仏書。東大寺三論宗の僧珍海の撰。1142年(康治1)完成。…

※「珍海」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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