環境心理学(読み)かんきょうしんりがく(英語表記)environmental psychology

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

環境心理学
かんきょうしんりがく
environmental psychology

心理学では古くから心理、行動を規定する要因として、環境の重要性に言及していたのであるが、実際にはもっぱら人間の反応を直接引き起こす環境の部分ないし断片が、刺激として取り上げられるにとどまっていた。これに対して、1960年代のなかばごろから、社会文化的には科学技術の高度の発達による環境破壊や汚染の問題、さらには月旅行をはじめとする宇宙飛行の成功による環境空間の拡大などを背景として、また学問的には生物科学における生活体と生息環境とのかかわりを一つの系としてとらえようとする生態学的考察の台頭などに刺激され、心理学においても、人と環境の全体関連的なアプローチの必要性が、いくつかの視点から注目されてきた。環境心理学も、その一つである。
 環境心理学を提唱する人々は、物的環境、とくに人工的な物的環境条件(建造物、建物内部の施設、備品の配置、都市計画など)が人に及ぼす効果とその改善方法を心理学的に解明しようとする観点から出発した。その研究領域を自然的・地理的環境、さらには人間的・社会的環境にまで拡充して考えようとする人々もいる。ごく一般的には、(1)人間の行動特性に基づいた建築空間の評価と助言、(2)施設と利用人口の適正規模の検討、(3)環境の心理的・生理的側面の評価、(4)環境の空間構造と社会行動との関係の分析などが、その主要な研究内容である。[辻 正三]

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最新 心理学事典の解説

かんきょうしんりがく
環境心理学
environmental psychology

環境心理学とは環境が人間の心理に与える影響を研究する学問であり,人間の生活環境を向上させることを目標とする応用心理学の一領域である。古くはレビンLewin,K.の場の理論に始まるとされるが,環境心理学という名前で独立した研究領域と認められるようになったのは1960年代の終わりから1970年代の初めである。地理的環境,物理的環境,居住環境から家庭環境や対人環境,心理的環境まで広い意味での環境が含まれるが,家庭環境はすでに発達心理学の主要テーマであり,対人環境は社会心理学の主要テーマであったため,環境心理学の主要テーマとしては,都市化,人口の密集化,大気汚染,騒音など地理的・社会的・居住的環境をテーマにした研究が多い。1973年に初めて環境心理学というタイトルの論文が『Annual Review of Psychology』に発表され,環境心理学は主流の心理学に受け入れられることとなった。

 クレイクCraik,K.H.によると環境心理学の具体的な研究テーマとしては,環境の評定,環境認知,都市のイメージ,環境とパーソナリティ,環境と意思決定,環境への態度,環境の質,空間行動などがある。つまり,照明や窓の位置に始まり公園までの距離といった物理的環境から,環境の認知やさまざまな環境への反応や態度といった心理的環境まで幅広いテーマの研究が環境心理学として位置づけられることとなった。

 5年後の1978年には,環境心理学というタイトルの論文が再び『Annual Review of Psychology』に発表され,この5年間に環境心理学が急速に発展したことが示されている。ストーコルスStokols,D.によると,アメリカでは1973年からの5年間で環境心理学の教科書が10冊も出版され,環境心理学は一躍心理学の表舞台に登った。そこには,カーソンCarson,R.L.の『沈黙の春』が1962年に出版され環境破壊への危機感を募らせたこと,また1970年代のオイルショックを経て環境保護が大問題となったという社会的背景がある。1970年代には環境心理学は環境問題への解決の糸口を与えてくれる重要な学問として注目されていた。

 環境心理学の一つの特徴は,1970年代当初から心理学を超えた学際的風潮が強いことである。アメリカ環境心理学会の創立以来,会員には建築学,都市計画,人間工学,建築デザインの専門家が多い。生活環境の向上という目的を果たすためには,心理学だけではなくさまざまな専門をもつ学際的アプローチが不可欠であることが当初から認識されていた。しかしながら,その学際性がゆえに環境心理学は臨床心理学や社会心理学といった他の心理学の領域ほど心理学界の主流として定着しなかった。1970~80年代には,心理学の未来とも称されたが,アメリカでは環境心理学の博士課程が設立された大学がほとんど存在しなかったこともあり,1980年代をピークに環境心理学の人気は下降線をたどった。そこには1990年代と2000年代のアメリカ社会の環境問題への無関心さが反映されているようにも思われる。しかしながら,地球の温暖化や石油価格の急騰もあり,環境心理学への関心は近年再び高まりつつある。省エネやリサイクルの促進,犯罪防止につながるような安全な空間の設計などは新たな環境心理学の研究テーマである。2009年にはストーコルスが『American Psychologist』で「生態系の危機に瀕した今,心理学に何ができるのか」というテーマの論文を発表し,ネットを含め急激に変化する環境に生きる現代人の日常環境を緻密に評定・分析し,現代人が直面するさまざまな社会問題をいかに解決していくかが心理学の課題であり,環境心理学のアプローチがそこには不可欠であると論じている。
〔大石 繁宏〕

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