最新 心理学事典 「環境心理学」の解説
かんきょうしんりがく
環境心理学
environmental psychology
クレイクCraik,K.H.によると環境心理学の具体的な研究テーマとしては,環境の評定,環境認知,都市のイメージ,環境とパーソナリティ,環境と意思決定,環境への態度,環境の質,空間行動などがある。つまり,照明や窓の位置に始まり公園までの距離といった物理的環境から,環境の認知やさまざまな環境への反応や態度といった心理的環境まで幅広いテーマの研究が環境心理学として位置づけられることとなった。
5年後の1978年には,環境心理学というタイトルの論文が再び『Annual Review of Psychology』に発表され,この5年間に環境心理学が急速に発展したことが示されている。ストーコルスStokols,D.によると,アメリカでは1973年からの5年間で環境心理学の教科書が10冊も出版され,環境心理学は一躍心理学の表舞台に登った。そこには,カーソンCarson,R.L.の『沈黙の春』が1962年に出版され環境破壊への危機感を募らせたこと,また1970年代のオイルショックを経て環境保護が大問題となったという社会的背景がある。1970年代には環境心理学は環境問題への解決の糸口を与えてくれる重要な学問として注目されていた。
環境心理学の一つの特徴は,1970年代当初から心理学を超えた学際的風潮が強いことである。アメリカ環境心理学会の創立以来,会員には建築学,都市計画,人間工学,建築デザインの専門家が多い。生活環境の向上という目的を果たすためには,心理学だけではなくさまざまな専門をもつ学際的アプローチが不可欠であることが当初から認識されていた。しかしながら,その学際性がゆえに環境心理学は臨床心理学や社会心理学といった他の心理学の領域ほど心理学界の主流として定着しなかった。1970~80年代には,心理学の未来とも称されたが,アメリカでは環境心理学の博士課程が設立された大学がほとんど存在しなかったこともあり,1980年代をピークに環境心理学の人気は下降線をたどった。そこには1990年代と2000年代のアメリカ社会の環境問題への無関心さが反映されているようにも思われる。しかしながら,地球の温暖化や石油価格の急騰もあり,環境心理学への関心は近年再び高まりつつある。省エネやリサイクルの促進,犯罪防止につながるような安全な空間の設計などは新たな環境心理学の研究テーマである。2009年にはストーコルスが『American Psychologist』で「生態系の危機に瀕した今,心理学に何ができるのか」というテーマの論文を発表し,ネットを含め急激に変化する環境に生きる現代人の日常環境を緻密に評定・分析し,現代人が直面するさまざまな社会問題をいかに解決していくかが心理学の課題であり,環境心理学のアプローチがそこには不可欠であると論じている。
〔大石 繁宏〕
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報