生体学(読み)せいたいがく(英語表記)somatology

翻訳|somatology

改訂新版 世界大百科事典 「生体学」の意味・わかりやすい解説

生体学 (せいたいがく)
somatology

本来は身体に関する(somato-)学問(-logy)のことで,解剖学・生理学を含む身体全般を取り扱う科学のことであるが,今日ではやや狭く,生きている人体解剖することなく体表面から視察・触察して,生体の体表や内部の形と構造,および器官の機能を理解しようとする学問のことをいうことが多い。体表解剖学surface anatomyあるいは生体観察somatoscopyの同義語として用いられることもあるが,広義には生体の体表の形や大きさを数量的に示す生体計測somatometryを含んでいる。

 生体を対象とする調査の利点は,身体を傷つけることのない点がまずあげられるが,皮膚や虹彩の色の変化や,筋肉および各器官の硬直化などの死後変化のない自然の状態が観察できることにある。さらに表情筋の動きや関節運動による骨格骨格筋の動き,脈拍触察による血管走行や血管壁の弾力性の観察など,生理的機能を併せた解剖学的観察は,生体でなくては行うことのできないものである。

 生体観察の対象となるものとしては,体表の区分,体表の骨格,筋肉,血管などの浮彫像(レリーフ)と,それらと内部器官との関係,皮膚とその付属器(指紋などの皮膚紋理,毛,乳房など)の色や形態顔面の各部(眼・耳・鼻・口など)の色や形態,および全身の骨格系,筋肉系,循環器系などがあげられる。最近では体表の形や大きさの観察の一方法として体表の等高線写真(モアレ縞写真)などが用いられることもある。

 今日いわれている生体学は,ルネサンス中期に始まった,もともとは美術家を対象とする,体表の浮彫像や体部比例の描写のための研究を体系づけた美術解剖学art anatomyや,人種分類指標の一つとして人類学で用いられてきた体表観察や計測法が集大成され発展したものということができる。現在では体表解剖学ともいわれるように,解剖学の一分野を占めるにとどまらず,さらに広く臨床医学,看護学,体育学,芸術学などにも応用され利用されている。
人体計測法
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「生体学」の意味・わかりやすい解説

生体学
せいたいがく
somatology

人類学および解剖学の一分野で,生体 (ときには死体) について,解剖をせずに研究できる範囲の身体を対象とする学問。生体学は,その方法上,生体観察学と生体計測学の2つの分野に分けることができる。生体観察学は,皮膚の色や体毛の多少,目,鼻,口などの形態,指紋など体表上の諸特徴を観察によって研究する学問であり,定性的,段階的に資料を得るものである。生体計測学では,体表上に多数の計測点を設け,これらの間の距離を測定することによって,全身ならびに身体の各部分の大きさや角度を記録し,示数などを計算して比較検討する。生体を対象とした場合は,同一人物の発育成長の変化を補足することができ,さらに被験者に関する各種情報を得ることができ,多数例についての調査が可能である。もちろん,被験者が生きた人間であるために,これに伴う欠点も多いが,前述の利点のために,広く研究され,特に人種の研究や成長の調査のためには不可欠なものとされた。本来は,レオナルド・ダ・ビンチを中心とする科学的態度を保持する美術家によって始められたものであるが,人類学,解剖学で取上げられるとともに,医学教育のうえでも重視されている。

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