コトバンクはYahoo!辞書と技術提携しています。

生物発生原則 せいぶつはっせいげんそくbiogenetic law; recapitulation theory

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

生物発生原則
せいぶつはっせいげんそく
biogenetic law; recapitulation theory

反復説ともいう。ドイツの生物学者 E.ヘッケルが唱えた生物の発生に関する原則で,「個体発生系統発生が短縮され,かつ急速に反復されるものであり,またこの反復は遺伝と適応の生理的機能によって規制される」というもの。しばしば簡略に「個体発生は系統発生を繰返す」と表現されるが,この表現には問題があるとして批判も多い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディアの解説

生物発生原則【せいぶつはっせいげんそく】

反復説とも。ヘッケルが1868年提唱。個体発生は系統発生の短縮した繰り返しであるという説。個体発生の研究で生物の系統をつかめるという観点から,19世紀後期の発生学,特に無脊椎動物の比較発生学の研究を刺激したが,その後,ド・ビーアらの批判を受け,現在では,本来の意味でのこの説は否定されている。
→関連項目系統発生ヘッケル

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典 第2版の解説

せいぶつはっせいげんそく【生物発生原則 biogenetic law】

反復説recapitulation theoryともいう。ドイツの動物学者E.ヘッケルが,著書《有機体の一般形態学》(1866)の中で主張した〈個体発生は系統発生の短いくり返しである〉という学説のこと。C.ダーウィンが主著《種の起原》(1859)で〈自然淘汰説〉とよばれる生物進化の理論を提唱したのち,ヘッケルはこの説に全面的に賛同し,それにのっとってすべての生物の形態とその成立ちを,自称〈一元論〉的に説明するものとして《一般形態学》を書いた。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

生物発生原則
せいぶつはっせいげんそく

生物の個体発生と系統発生の関係についてヘッケルE. Haeckelが1866年に提唱した学説。生物発生の法則ともいう。それは「個体発生は系統発生の短縮された急速な反復である」というもので、一般に反復説とよばれる。個体発生とは生物が卵から成体になる過程であるが、それがどのような経過をたどるかは、それぞれの生物のそれまでの歴史(系統発生)によって規定される。すなわち、祖先生物のたどった形態変化が個体発生の過程に再現されているという考えである。この原則が成立するならば、個体発生の研究から逆に系統発生を探ることができるわけで、実際に動物の系統樹を類推することもヘッケルは行っている。しかし、系統発生が個体発生の原因なのではなく、個体発生中に生じた変化の結果として系統発生が変化するわけであるから、ヘッケルの考えは完全に逆立ちしたものである。また、個体発生のいろいろな段階で変化が生じうるので、両者の関係はヘッケルがいうほど単純なものではない。ド・ビアG. R. de Beerは八型式を区別している。そのうち、図Aに示したような場合に、ヘッケルのいう反復が生じる。つまり、新たな変化が個体発生の先へ先へと付け加わっていく形で進化がおこる場合である。ヘッケルによれば、哺乳(ほにゅう)類の個体発生初期に鰓裂(さいれつ)が生じることや、甲殻類などいろいろな動物群で、成体の著しい相違にかかわらず幼生形が類似することを反復の例としてあげているが、これらは単に個体発生の後期に変化が生じたものと今日ではみられている(図B)。すなわち、ヘッケルが反復とみた幼生形の類似は、発生過程を共有することの類似にほかならず、そこにはヘッケルのいう意味での祖先形の急速かつ要約された反復はないとされている。ヘッケルは、たとえば哺乳類の胚(はい)の鰓裂を魚類の成体の特徴とみることで誤ったのだといえる。個体発生と系統発生の関係でむしろ注目されるのは、個体発生の途中で成熟して成体になり、その先の過程が発現しないネオテニー的進化の可能性であろう(図C)。ヒトの特徴が類人猿やサルの成体よりも幼児あるいは胎児に類似することから提唱されたヒトの胎児化説や、六肢の幼生形をもつ多足類から昆虫が生じたとする説も、ネオテニー的進化を想定したものである。幼生は一般に、成体ほど特殊化しておらず、特殊化で袋小路に陥った生物進化に新しい展開をもたらすものとして、ネオテニー的進化が注目されている。[上田哲行]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典内の生物発生原則の言及

【系統発生】より

…近年は分岐論とよばれる分類学の新しい方法によって系統推定を行うことも盛んになっている。 系統発生ということばはヘッケルの〈個体発生は系統発生の短い反復である〉といういわゆる生物発生原則(反復説)と結びついて有名になった。この学説は19世紀後期以降,進化的な形態学や系統発生論を刺激し,その分野の研究を大きく前進させる効果をもった。…

【ヘッケル】より

…この点で経験的実証科学者よりもむしろJ.B.deラマルク,F.W.シェリングに近い。生物の自然発生を初原物質としてモネラmoneraを想定し,また個体発生と系統発生を重ね合わせた生物発生原則を提起した。さらに意識を細胞に帰属させることによって一元論が完成された。…

※「生物発生原則」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

生物発生原則の関連キーワードバルフォア(Francis Maitland Balfour)ヘッケル(Ernst Heinrich Haeckel)ミュラー(ドイツの動物学者 Fritz Müller)ハイアット(Alpheus Hyatt)ド・ベーアド・ビーアミュラーボルクベーア

今日のキーワード

悪魔の証明

証明が非常に困難なものごとを表す比喩表現。古代ローマ法において所有権の帰属証明が極めて困難であったことから、この言葉が初めて用いられたとされている。現代においては、権利関係や消極的事実の証明に関する法...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android