生産者余剰(読み)せいさんしゃよじょう(その他表記)producer's surplus

日本大百科全書(ニッポニカ) 「生産者余剰」の意味・わかりやすい解説

生産者余剰
せいさんしゃよじょう
producer's surplus

ある商品一単位について、生産者が実際に販売する価格(市場価格)から、その製品一単位を生産するに必要な費用限界費用)を差し引いたのちに残る金額のこと。たとえば、テレビの販売価格が20万円であるとする。最初の一台目の生産費用が15万円であると、そのときの生産者余剰は5万円となる。二台目のテレビを生産すると追加的に18万円の費用がかかるとする。限界費用は15万円から18万円へと増加する。通常はテレビの生産台数が増えるとその限界費用もまた増大すると考えてよく、これを限界費用逓増(ていぞう)の法則とよぶ。二台目のテレビの生産者余剰は2万円である。企業は生産者余剰がマイナスでない限りテレビを生産する。したがって、ちょうど生産者余剰がゼロとなる三台目までテレビを生産する。生産者余剰の総額は5万円+2万円+0万円=7万円となる。生産者余剰は固定費用利潤との合計に等しい。このことをみてみよう。利潤は定義により、販売収入から固定費用と可変費用との合計を差し引いたものである。したがって利潤プラス固定費用は販売収入マイナス可変費用に等しい。可変費用は各テレビの限界費用の総計に等しいので、先の命題が成立する。

 企業の目的は利潤の最大化である。テレビの台数にかかわらず企業はつねに固定費用を負担しなければならない。したがって企業は生産者余剰が最大になるように、つまり価格イコール限界費用が成立する台数までテレビを生産するのである。

 生産者余剰の概念は、消費者余剰とともに、A・マーシャルやJ・R・ヒックスによって示されたもので、生産技術の差異立地条件、販売条件などの差異に基づく利潤格差の説明に用いられた。しかしながらこれらの議論では、産業間の依存関係を見落としており、経済体系全体を考慮した場合には、消費者余剰や生産者余剰の測定は一般に著しく困難になる。

[内島敏之]

『J・R・ヒックス著、早坂忠・村上泰亮訳『需要理論』(1958・岩波書店)』『A・マーシャル著、馬場啓之助訳『経済学原理』全四巻(1965~67・東洋経済新報社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「生産者余剰」の意味・わかりやすい解説

生産者余剰 (せいさんしゃよじょう)
producer's surplus

生産者全体がその生産物から得る収入と,彼らがそれだけの量の生産を自発的に行うために最低限必要とする対価との差額。経済学者A.マーシャルによって示された概念。それは短期には利潤と固定費用の和,つまり地代および準地代の総額となり,長期には利潤額となる。生産者余剰,消費者余剰およびその産業からの政府への純歳入の総和は,この産業の総余剰と呼ばれ,部分均衡分析において重要な役割を果たす。

 図のように,いまある産業で,ある物がOqの量だけ生産され,それらが1単位当りOpの均衡価格で販売されているとする。このとき生産者の収入はOp×Oq,または四角形OpEqの面積である。ところでこの産業が生産した最初の1単位ODは,価格Op1であっても生産され市場に供給されるであろう。つまり最初の1単位ODについての生産者余剰は四角形p1pICの面積である。また次の1単位DFOp2という価格でも生産・供給された。したがって2単位めの生産者余剰は四角形GIJHの面積である。これらの各単位ごとの生産者余剰と,小さな三角形Ap1CCGHなどの面積をも余剰に含めると,総生産者余剰は三角形ApEの面積であることがわかる。いいかえれば,四角形OAEqの面積は,Oqの量の生産を生産者が自発的に行うために最低限必要とする対価である。またこの面積はOqの生産に必要な可変費用総額にも等しい。したがって,生産者余剰は収入と総可変費用の差額,すなわち利潤と固定費用との和となる。
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百科事典マイペディア 「生産者余剰」の意味・わかりやすい解説

生産者余剰【せいさんしゃよじょう】

A.マーシャルによる概念で,生産者全体がその生産物から得る収入と,彼らがそれだけの量の生産を行うために最低限必要とする対価との差額をいう。利潤と固定費用の和に等しい。曲線の下方に生産量,上方に市場価格を示す供給曲線のグラフを用いれば,生産者余剰の数値は,ある生産量のときの市場価格を示す水平線と,供給曲線および縦軸で囲まれた三角形の面積で示される。均衡理論,とくに部分均衡理論において,生産者余剰は消費者余剰とともに経済厚生,つまり経済的観点からみた人間の幸福の程度を測定するために,重要な概念とされる。

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