養豚(読み)ヨウトン

デジタル大辞泉 「養豚」の意味・読み・例文・類語

よう‐とん〔ヤウ‐〕【養豚】

肉などを得るために、豚を飼育すること。「養豚業」
[類語]養殖養魚養蚕養蜂養鶏養虎養鶉ようじゅん養鱒養鰻養鯉

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精選版 日本国語大辞典 「養豚」の意味・読み・例文・類語

よう‐とんヤウ‥【養豚】

  1. 〘 名詞 〙 肉や皮・毛などを得て売ることを目的に、豚を飼育すること。
    1. [初出の実例]「蚕生糸や紅茶の製法、石油炭壙養豚牧牛」(出典:明治の光(1875)〈石井富太郎編〉一)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「養豚」の意味・わかりやすい解説

養豚
ようとん

ブタを飼育して、食肉その他を生産することをいう。その内容によって種豚(しゅとん)経営、繁殖豚経営、肥育豚経営の3種に分類される。

 (1)種豚経営は、豚の遺伝的改良を目ざし、育種・増殖の基礎となる原種豚を生産する、いわゆるブリーダー(種畜生産家)である。血統登録された純粋種を飼育し、後代検定や産子検定などの能力検定の成績を参考にして選抜を行って遺伝的改良を図る。大規模な養豚経営では、雑種強勢ヘテローシス)を有効に利用するため近交度の高い系統豚が要求されており、高度の技術と多額の資本を必要とする経営形態である。

 (2)繁殖豚経営は子取りともいい、肥育用の素豚(もとぶた)生産を目的としたものである。飼養する個体はかならずしも純粋種である必要はなく、むしろ繁殖能力の優れた一代雑種の雌豚を用いて、三元雑種や四元雑種の子ブタを生産する養豚家が増えてきている。子ブタは体重20キログラムぐらいで肥育用素豚として売却される。子ブタをたくさん育てるためには繁殖効率を高める必要があり、交配適期の認定、分娩(ぶんべん)時の事故防止、早期離乳による回転促進などの技術が要求される。

 (3)肥育豚経営は、体重20キログラムの子ブタを購入し、5か月ほど肥育して体重90~100キログラムに肥育し、と畜場へ出荷する経営形態で、前二者よりも管理に人手を要さず多頭飼育が容易であるため、大規模なものが多い。肥育豚経営においては素豚の入手が不安定であるため、繁殖と肥育を通して行う一貫経営が大多数を占めてきている。一貫経営は繁殖と肥育という質の異なる技術を兼ね備えなければならないという困難性はあるが、一方、素豚を自家生産するため子ブタ価格の変動から逃れられ、子ブタの計画生産により合理的な経営戦略をたてやすい、子ブタの導入がないため防疫上の不安がない、肥育豚の成績をみて繁殖豚の選抜淘汰(とうた)が可能であるなどの有利な点も多い。

[正田陽一]

世界の養豚

世界に飼育されているブタは約9億頭で、とくに飼育の盛んな地域は、中国を中心とした東アジアと、デンマークオランダ・ベルギー・ドイツといったヨーロッパの一部、アメリカの五大湖の南に広がるコーンベルトで、これを世界三大養豚地帯とよんでいる。

 ブタという家畜は、先祖のイノシシから受け継いだ広食性(なんでも食べる雑食性)をもつため、飼育法にもこれを生かして、人間の利用できない飼料資源を有効に活用する飼い方と、栄養価の高い濃厚飼料を購入して給与し、短期間に効率よく食肉生産を行う加工業的な飼い方の双方が行われる。スペイン南部のコルクガシ林のどんぐりを餌(えさ)として利用する放牧養豚(モンタネラ)や、中国南部のクリークの水草を飼料とする養豚は前者の例で、デンマークや日本で行われている養豚業は後者の形態である。

[正田陽一]

日本の養豚

わが国でも縄文・弥生(やよい)時代にすでにイノシシを飼育していたと思われる遺物が遺跡から発見されている。記録のうえに明らかに記されているのは奈良時代に入ってからで、猪甘部(いかいべ)(猪養部)という職が設けられ、宮廷へイノシシの肉が献じられた。仏教の伝来とともに肉食が禁止され、養豚はとだえたが、中国文化の影響の強い沖縄や九州の一部では例外的に飼育が続けられた。明治時代に入って欧米先進国の農業が日本に紹介され、養豚がふたたび行われるようになったものの、1887年(明治20)にはわずか4万頭ほどにすぎなかった。その後しだいに飼養頭数は増加し、1938年(昭和13)には第二次世界大戦前としては最高の約114万頭に達した。そのころの日本の養豚は、農家の軒先に差しかけた小さな屋根の下で1、2頭を副業的に飼育する零細なものが主流で、餌(えさ)も残飯や農業副産物が利用されており、軒先養豚とか庇(ひさし)養豚とよばれていた。カンショづるやデンプンかすが飼料源として重要であったため、カンショ作の盛んな九州南部や関東地方でブタ飼育が盛んであった。第二次世界大戦とその後の食糧難時代にはブタの飼料事情も最悪となり、46年(昭和21)には飼養頭数も8万8000頭ほどに減少し、壊滅的打撃を受けた。しかし昭和30年代に入って飼料事情が好転すると食肉に対する需要増と相まって飼養頭数は急増し、86年には1106万頭に達したが、その後豚肉消費が頭打ちとなり、飼養頭数もやや減少し、99年(平成11)には987万頭が飼われている。一方、飼養頭数の増加に反して、養豚農家戸数は62年をピークに減少を続け、86年には最高時の10分の1の10万戸、99年には1万2500戸へと減少している。1戸当りの飼育頭数は790頭となり、専業化が目だっている。経営規模拡大に伴って施設や飼育技術の進歩も目覚ましく、また飼育品種の変化も顕著である。第二次世界大戦の前まで日本のブタの95%を占めていた中ヨークシャーは姿を消し、純粋種としてはランドレース、大ヨークシャー、デュロック、ハンプシャーがこれにかわり、肥育豚としては雑種強勢(ヘテローシス)を利用するためのこれらの品種間の三元交雑種や四元交雑種の利用が盛んになっている。

 飼料は、輸入穀物を原料とした濃厚飼料が主体となり、かつての副産物利用はわずかに都市近郊の残飯養豚に残るにすぎない。そのため生産費中に占める飼料費の割合は高くなり、国際的な穀物市況によって養豚の景気が左右されるようになった。また経営規模の拡大は伝染病対策の重要性を増す結果を招き、ウイルス性の伝染病であるオーエスキー病や伝染性呼吸器病の予防が大きな課題となっているほか、糞尿(ふんにょう)や汚水の処理が環境汚染との関連で問題となっている。

[正田陽一]

『笹崎龍雄著『養豚大成』(1988・養賢堂)』

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改訂新版 世界大百科事典 「養豚」の意味・わかりやすい解説

養豚 (ようとん)

ブタを飼育し,食肉その他を生産すること。養豚はその内容によって種豚(しゆとん)経営,繁殖豚経営,肥育豚経営の3種に分けられる。種豚経営は登録協会に登録された純粋種を飼って種畜生産を行ういわゆるブリーダーで,改良増殖の基礎となる原種豚生産を目的とした経営である。高度の技術と多額の資本を要する形態であり,経営者能力の優れた者でなければ経営を維持することは難しい。繁殖豚経営は子取りともいい,肥育素豚(もとぶた)の生産を目的としたものである。飼養する繁殖豚は必ずしも厳選された純粋種とは限らない。むしろ最近ではヘテローシス(雑種強勢)を利用するために一代雑種の雌豚を用いて,三元雑種または四元雑種の子豚を生産する養豚家が増えてきている。子豚は離乳後肥育用の素豚として売却される。肥育豚経営は体重20kgぐらいの子豚を購入し6ヵ月ほど肥育して体重100kg前後で屠場(とじよう)へ出荷する経営形態で,前2者よりは多頭飼育が容易であるため,大規模なものが多い。肥育豚経営では素豚の入手が不安定であるので,この不利を避けるため素豚から肥育までを行う一貫経営も増加してきている。素豚を自家生産する一貫経営は,子豚価格の変動から逃れられ,防疫上も不安がなく,子豚を計画生産することにより経営計画がたてやすく,そのうえ,子豚の資質を見て繁殖豚の淘汰ができるなど有利な点が多いが,一方,固定資本が多くかかり,資本の回転がおそく,かつ集約的な管理を要する繁殖豚の多頭飼育の技術的困難さなど,不利益な面もないわけではない。

 世界に飼育されているブタは約9億頭で,とくに飼育の盛んな地域は中国を中心としたアジアと,デンマークからドイツにかけてのヨーロッパと,アメリカの五大湖の南に広がるトウモロコシ栽培地帯で,これを世界の三大養豚地帯と呼ぶ。国別に飼養頭数の多い国をあげれば,中国(約4億頭),アメリカ(約6000万頭),ブラジル(約3500万頭)であるが,日本も約1000万頭を飼育している。
執筆者:

日本では,農耕や軍事に利用された牛馬にくらべ,食肉以外に用途のなかった豚は,仏教的戒律や肉食禁忌によって国民食糧として定着することもなく,江戸時代末期までわずかに九州や,中国の影響のもとに豚肉食が盛んであった沖縄で飼育されてきたにすぎない。産業として発展する展望が開けたのは,食肉消費が公然化した明治以降であった。豚の飼養頭数が初めて統計に現れたのは1887年で,全国でわずか4万1904頭であった。その後漸増して1938年に99万9000頭となり,第2次大戦前の最高となった。戦前の養豚は,都市周辺の残飯養豚と農村における零細副業飼育で,農家では1~2頭飼育が主流であった。飼料は農場副産物が主体で,後にカンショ(甘藷)やそのデンプンかすも重要な飼料源となり,そのためカンショ作の盛んな関東や南九州が養豚産地として登場した。産地では子豚の斡旋や肉豚の売買を行う家畜商(豚商)が活躍し,技術指導,種付業務などを通して養豚農家を支配した。

 戦時下,壊滅的打撃を受けた養豚は,戦後急速に立ち直り,飼育頭数は1956年に戦前最高水準を回復,81年には1000万頭を突破した(96年には990万頭)。飼養戸数は最多時の102万5000戸(1962)から1万6000戸(1996)へと激減する一方,1戸当り飼養頭数は619頭となり,養豚を主業とする専業経営が中心となりつつあると同時に,農家以外の商社直営養豚場などがしだいにその比重を高めつつある。施設や飼育技術の進歩は目覚ましいが,とくに品種と飼料の変化が著しい。戦前の副業時代に副産物の利用性が高かった中ヨークシャー種,バークシャー種は一掃され,ランドレース種をはじめとする大型外国種とその雑種の飼養が一般化している。飼料はトウモロコシやマイロなどの輸入穀物を主原料とする配合飼料が主体となり,残渣(ざんさ)物利用はわずかに都市周辺の残飯養豚として残っているにすぎない。いも類その他の自然飼料も微々たるもので,生産費中に占める購入飼料費の割合は一貫経営では60%以上を占め,世界的な穀物市況によって養豚の景気が大きく左右される原因となっている。豚肉価格にはピッグ・サイクルといわれる3~4年周期の規則的な価格変動があったが,近年,多頭飼育と一貫経営が一般化するにつれ,顕著な周期性がみられなくなっている。

 日本の1人当り豚肉消費量(1990)はアメリカの28.8kg,フランスの36.1kgなどに比べて15.2kgと少ないが,最近は消費が停滞し,飼養頭数の伸び率も鈍化している。このほかに,養豚経営をめぐる問題点として,豚糞尿(ふんによう)の公害問題化,海外からの伝染病の侵入,輸入豚肉との価格競争などがある。
畜産
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百科事典マイペディア 「養豚」の意味・わかりやすい解説

養豚【ようとん】

ブタの飼養が産業として日本で発展したのは明治以後で,第2次大戦中は一時衰えたが,戦後再び増加。しかしピッグ・サイクルが示すように豚肉価格は変動が大きく,安定した産業といえるに至っていない。飼養目的により,種ブタを生産する養豚,繁殖ブタを飼養して肉豚用子ブタを生産する養豚,肉豚の肥育を行う養豚に大別される。肥育豚経営は体重20kgぐらいの子ブタを購入し5ヵ月ほど肥育し体重90〜100kgで屠場へ出荷するが,素豚(もとぶた)から肥育まで一貫して行う経営も増えている。専業化が目だっているが,協業経営による養豚もある。経営規模の拡大に伴って施設や飼育技術の進歩もめざましく,とくに品種と飼料の変化が著しい。戦前まで圧倒的に多かった中ヨークシャー種(ヨークシャー種)とバークシャー種は姿を消し,ベーコンタイプのランドレース種をはじめとする大型外国種とその雑種の飼養が一般化している。飼料は輸入穀物を主原料とする濃厚飼料が主体となっている。
→関連項目畜産ブタ(豚)

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