痛・傷・悼(読み)いたむ

精選版 日本国語大辞典 「痛・傷・悼」の意味・読み・例文・類語

いた・む【痛・傷・悼】

[1] 〘自マ五(四)〙
① 傷や病気などのために、からだに苦しみを感じる。助詞「を」によって痛む箇所を示す用法もある。
書紀(720)神武即位前戊午年五月(北野本訓)「五瀬の命の矢瘡(いたやくしのきず)(イタミますこと)(はなはだ)し」
今昔(1120頃か)二「途中にして腹を痛むで産せり」
② 心に強い悲しみを感じる。心痛する。→いたましむ
※書紀(720)神代上(水戸本訓)「脱免(まぬかるる)に由無し。故以(このゆゑに)哀傷(イタムと申)
③ いやだ、不快だと強く感じる。苦痛に思う。
※保元(1220頃か)上「いたみ存ずる子細おほく侍り」
徒然草(1331頃)一七五「いたういたむ人の、しひられて少し飲みたるもいとよし」
④ 物質的な損害をこうむる。損をする。
太閤記(1625)一「百姓等不痛やうに価を遣すべき旨」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「正金で七両二分といたんだは」
⑤ (器物、建造物、衣類、書籍、植物などに)きずがつく。そこなわれる。破損する。また、機能や材質などが悪くなる。
平家(13C前)二「其根必ずいたむとみえて候」
⑥ (果物、魚、酒など)飲食物が悪くなる。腐る。
日葡辞書(1603‐04)「コノ サケガ itǒda(イタウダ)
⑦ 病気をする。煩う。
※筑紫方言(1830頃)「病む 江戸にて煩ふと云を いたむ、やみ臥て居るをいたんで居ゆと云」
[2] 〘他マ五(四)〙
① ある事を、苦痛だと強く思う。
※平家(13C前)一一「海底に沈まん事をいたまずして」
※徒然草(1331頃)一八八「一事を必ずなさんと思はば、他の事の破るるをもいたむべからず」
② からだに苦痛を感じさせる。傷つける。
※御伽草子・天稚彦物語(室町時代物語集所収)(室町末)「いかなることのはんべるとも身のいたみたまふなといさめおきて」
③ (悼) 人の死を嘆き悲しむ。
※古活字本毛詩抄(17C前)七「いたむ時は胸中が震動するやうなぞ」
※俳諧・曠野(1689)七「李下が妻のみまかりしをいたみて ねられずやかたへひえゆく北おろし〈去来〉」
[3] 〘他マ下二〙 ⇒いためる(痛)
[語誌]上代に確例はないが、「西大寺本金光明最勝王経平安初期点」や「書紀」の古訓に複数例存するところから、成立は上代にさかのぼる可能性もある。

いたみ【痛・傷・悼】

〘名〙 (動詞「いたむ(痛)」の連用形の名詞化)
① 傷や病気などのために、からだに苦しみを感じること。苦痛。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)序「死生の巨なる痛(イタミ)有り」
※平家(13C前)三「を蒙りしかども、そのいたみなし」
② 心に強い悲しみを感じること。心痛。いたましさ。
※書紀(720)顕宗元年二月(図書寮本訓)「古より以来(このかた)、如斯(かか)る酷(イタミ)莫し」
③ さしつかえること。具合の悪くなること。多く、反語的な表現を伴って用いる。
太平記(14C後)一六「軍勢を渡しはてて、義貞後に渡るとも何の痛(イタミ)かあるべき」
④ 物質的な損害をこうむること。損失。損耗疲弊
※黄表紙・心学早染草(1790)下「三百や四百の金つかふたとて、さのみいたみにもならぬ事」
⑤ (器物、建造物、衣類、書籍、植物などに)きずがついたり、機能や材質などが悪くなったりすること。破損。また、食物、特にくだものや野菜、魚などのなまものが腐敗すること。くされ。
※談義本・風流志道軒伝(1763)五「風雨の中にても、船は少(すこし)もいたみもなく」
⑥ 他からの好意に対し、恐縮すること。申しわけなく、もったいなく思うこと。いたみいること。
※経覚私要鈔‐文安四年(1447)閏二月一三日「以木阿懇申給。還為痛之由仰了」
⑦ (悼) 人の死を嘆き悲しむこと。哀悼(あいとう)
※中華若木詩抄(1520頃)上「これは、悼(イタミ)の詩也」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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