日本大百科全書(ニッポニカ) 「百合若」の意味・わかりやすい解説
百合若
ゆりわか
伝説および語物の主人公。幸若(こうわか)や説経の「百合若大臣」の英雄として活躍し、のちには歌舞伎(かぶき)、浄瑠璃(じょうるり)から地方の踊り歌にまで脚色されている。嵯峨(さが)天皇のときに長谷(はせ)観音の申し子として生まれた百合若は、蒙古(もうこ)襲来に出陣し大勝した。帰途に玄海の孤島で一休みする間に、家臣の別府兄弟の悪計で置き去りにされる。兄弟は帰国後に百合若の死を告げ、九州の国司となる。しかし、百合若の形見に残した緑丸という鷹(たか)が孤島にきて、妻との連絡もつき、孤島に漂着した釣り人の舟で帰国できる。そして九州支配の別府兄弟を成敗し、宇佐八幡(はちまん)宮を修営して日本国の将軍となる。この伝説は、本来山口県以南に分布していて、九州を本貫とする説話が、諸芸能によって全国に分布するようになった、と思われる。伝説には諸種あって、たとえば百合若の足跡石という巨石を伝えたり、別称ダイダラボウシの名をもって祀(まつ)られた百合若塚などもある。いずれも巨人伝説を踏襲するものである。そのほか、緑丸の遺跡という鷹に関したものも多く、鷹を神使とする民俗の参与が考えられる。また、壱岐(いき)島にはイチジョーという巫女(みこ)が、天台やボサの祭りの毎月28日に神楽(かぐら)として語る「百合若説経」と称するものがある。50センチメートルほどの竹2本を、黒塗りの弓とユリという曲物を置いてたたきながら行う。病人祈祷(きとう)にも同じことをする。百合若以外も語ったらしいが、いまはほかに残っていない。筋(すじ)も他の百合若伝説とほぼ同様で、桃の中から生まれたり、壱岐島の鬼を退治したり、桃太郎の話との混交はあるが、宇佐八幡と柞原(ゆすはら)八幡の本地(ほんじ)物になっている。百合若説話の成立には、宇佐の海人(あま)部の伝承と八幡信仰が注目される。
[渡邊昭五]