歌舞伎狂言。世話物。7幕。通称《加賀鳶》。河竹黙阿弥作。1886年3月東京千歳座初演。配役は梅吉・道玄・死神を5世尾上菊五郎,松蔵を3世市川九蔵(のちの7世団蔵),おすがを岩井松之助,五郎次・お兼を4世尾上松助,巳之吉を坂東家橘,お民を尾上菊之助ほか。享和・文化(1801-18)のころ前田侯お抱えの加賀鳶と町火消が2度も喧嘩した事件があったのと,盲人たちが住む長屋の小悪党按摩(あんま)の道玄の筋を取り合わせ,3世菊五郎が工夫をして好評であったという〈死神〉のくだりを加えた,作者晩年の当り狂言。加賀鳶の巳之吉が湯島で十人火消のならず者をこらしめたのが喧嘩の発端で,加賀鳶は町木戸に勢揃いして押し出そうとするのを頭の梅吉が止める。梅吉女房おすがは子分五郎次が言い寄るのをはねつけたため,たまたま雷鳴で巳之吉と同じ蚊帳に入ったのを密通と焚きつけられ離縁される。やがて五郎次は死神に誘われて入水するが助かってすべてを自白,おすがは復縁する。一方,道玄はお茶の水で人を殺し金を奪うが,加賀鳶松蔵に落とした煙草入れを拾われる。道玄はさらに姪おあさが奉公先の主人に金を恵まれたのをタネに情婦お兼と質店にゆすりに行く。しかし来合わせた松蔵に,あのときの殺しはてめえの仕業と図星をさされ,やがて血のついた布子からアシがつき逃げ出すが,ついに加賀侯表門前で召し捕られる。脚本としては加賀鳶と道玄の筋が緊密に統一されていない難もあって,現今では筋を切りつめ鳶の勢揃いと道玄のくだりだけ上演することが多い。加賀鳶勢揃いの意気のよさ,お茶の水のサラリとした殺し場,質店から召捕りまでの軽味など,各場に洗練された風俗描写があり,作者独特の名調子に下座音楽が渾然として江戸気分を盛り上げている。昭和になってからは6世菊五郎が質店と捕物によき演出をみせ,音羽屋系の演目として受け継がれている。
執筆者:青木 繁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。七幕。河竹黙阿弥(もくあみ)作。通称「加賀鳶」。1886年(明治19)3月、東京・千歳(ちとせ)座で5世尾上(おのえ)菊五郎らにより初演。享和(きょうわ)年間(1801~04)にあった本郷の加賀前田侯お抱えの大名火消加賀鳶と浅草下谷(したや)の町火消の喧嘩(けんか)を題材にして、按摩道玄(あんまどうげん)の悪事を織り交ぜたもの。加賀鳶の頭分(かしらぶん)梅吉の女房おすがは、子分巳之助(みのすけ)との仲を同じく子分の五郎次から密通と言い立てられ、兄貴分松蔵のもとに預けられるが、死神に脅かされた五郎次の改心により、身が晴れる。盲長屋に住む按摩道玄は、情婦お兼と共謀して、姪(めい)のお朝が奉公する質店伊勢(いせ)屋へ難癖をつけて強請(ゆすり)に行くが、かつてお茶の水で人を殺して金を奪った現場に落とした煙草(たばこ)入れをきあわせた松蔵に突きつけられて退散し、のち悪事露顕して赤門前で捕らえられる。初演の5世菊五郎は梅吉・道玄・死神の三役を勤めて好評だったが、その後6世菊五郎はとくに道玄の役に絶妙な生世話(きぜわ)芸を示したので、道玄の筋(すじ)だけが独立して演じられることが多くなった。ただし、加賀鳶連中が町火消と喧嘩を始めようとして梅吉に制せられる「木戸前勢揃(せいぞろ)い」の場は、鳶の風俗が珍しくて壮観なので、たいてい道玄の筋に付け加えて上演される。近年では2世尾上松緑、17世中村勘三郎が得意とした。
[松井俊諭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新