相続契約(読み)そうぞくけいやく(その他表記)Erbvertrag[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「相続契約」の意味・わかりやすい解説

相続契約 (そうぞくけいやく)
Erbvertrag[ドイツ]

ドイツ民法上,被相続人を一方の当事者として締結される,相続人指定,遺産贈与Vermächtnis,負担を内容とする契約(1941条,2274~2302条)。遺言と並ぶ死因処分死後処分ともいう。行為者の死亡によって効力を生ずる法律行為)の一種。ヨーロッパ大陸法中ではスイス法に類似の制度があるほか,フランス法圏諸国およびオーストリアが夫婦間にのみこれを認めている。沿革的にはゲルマン法上の相続慣行に由来するもので,遺言自由の原則が支配するローマ法的遺言制度体系の下では異質の制度である。そもそも古代ローマ法はかかる契約を認めない。それゆえドイツ民法典の制定過程においても,それの導入に対する反対論もあったが,当時のドイツでは多くの地方において,相続慣行ないし実定相続法として,この制度が広く行われており,その実際的有用性も広く存在するとして採用されたものである。すなわち,(1)夫婦ないし婚約者相互間の相続的諸利益確保(しばしば夫婦財産契約と組み合わされて夫婦間の財産的権利関係の調整・確保が図られる),(2)養親子間の扶養等の給付と引換えになされる相続的利益の確保,(3)一般私人ないし各種施設による扶養と引換えになされる相続的利益の確保,(4)再婚夫婦間の相続契約による,その前夫(婦)との出生子への相続権の確保,(5)農業経営における後継者の確保,農地共同相続による分割の防止,農家経営の一体的承継保持(ただしこの最後の目的のためにはドイツでも多くの国家法上の諸制度・諸施策が講ぜられてきており,それらの中で相続契約がいかなる機能を果たしているかは必ずしも明らかではない)などのための手段としての有用性が指摘されている。

 いずれにせよこのような目的ないし機能からも明らかなように,相続契約上での相続人指定等の形での被相続人側の出捐(しゆつえん)は,少なくともその経済的実質においては,彼がすでに受けたまたは将来にわたって受けるであろうなんらかの反対利益(扶養など)の給付と相互に対価的意義をもったものとしてなされることが少なくない。したがって,まず被相続人側としては,相手方反対給付不履行の場合における相続契約の解消その他の契約責任上の保護のみならず,相続契約締結時からその効力発生時(被相続人の死亡)までは相当長期間にわたることも少なくないゆえ,とくに契約締結後の事情の変更に対応する法的保護の可能性が留保されることが望ましい。他方,反対当事者としては,彼のなすべき上記のようなもろもろの反対給付は通常は先給付義務を負っているものと考えられる。したがって,またその先給付にみあうだけの相続契約上の期待的利益の確保・実現,逆にいえば,被相続人に対する相続契約上のなんらかの拘束力が,その法的保護として与えられるべきであるということになるはずである。しかしドイツ民法典の規定は全体としては,前者の利益の保護に傾きすぎる結果となっており,判例・学説は上記のような機能ないし経済的実質をふまえて,より公平な解決を導く理論構成に努めているが,なお十分とはいえない。
相続
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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