まゆの形を整えたり,好みの形や色に仕上げる化粧品。《古事記》に眉画(まよがき),眉引(まよびき)などと見られるように,まゆの化粧は古くから行われていた。《和名抄》に見える〈黛(まゆずみ)〉は,まゆを抜いて額の上方にまゆを描くためのもので,公家階級は男女とも点眉した。材料は油煙,麻幹(おがら)の黒焼,麦の黒穂などで,形のうえでは粉状の掃墨(はいずみ)やゴマの油で練った捏墨(こねずみ)があった。水嶋流の礼法書《化粧眉作口伝》(1762)によると,捏墨のなかには紅や金箔,露草の花などを入れたものもあった。そのほかまゆの剃りあとを青く美しくみせるまゆ墨として青黛(せいたい)があった。これは藍染の際にできる藍花を干して固めた藍蠟(あいろう)から作られたものである。古代エジプトでは硫化アンチモンや硫化鉛などを原料とした黒い粉でまゆやアイラインを描いていた。これはコールkholと呼ばれた。しかし,ヨーロッパにおけるまゆ墨の歴史は,わずかに藍を煮出したもので描いたとあるくらいで,あまり記録されていない。19世紀に出版された美容書では,鉛筆でまゆを描いたり色をつけたりすることに批判的であった。おそらく眼窩(がんか)の形態から考えても,あまり重要な化粧ではなかったのであろう。それでも19世紀中ごろにはクリームや軟膏にランプのすすを混ぜ合わせたまゆ墨が使われるようになった。第1次大戦のとき,ドイツの野戦病院で多くの傷病兵を手術する際,目印を描くために芯の柔らかい鉛筆を開発したが,戦後になってこれをまゆ墨に応用したのがアイブロー・ペンシルeyebrow pencilだといわれている。さらに近年は削らなくともすむようにシャープペンシル・タイプも出されている。現在のまゆ墨はカルナウバロウ,木蠟,マイクロクリスタリンワックス,エステル類などを主原料とし,これに黒色や褐色の顔料を加えて作る。
執筆者:高橋 雅夫
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眉の化粧法、およびその化粧品。黛とも書く。眉毛を取り払って、人工的に眉墨を使って眉を描き、眉毛を整えることが古代より行われ、『日本書紀』や『万葉集』では「まよひき」としている。黒灰、油煙などを用いて眉墨としたのである。中国の唐玄宗皇帝は「十眉図」という、いろいろの形の眉を描かせており、正倉院宝物『鳥毛立女屏風(とりげりつじょのびょうぶ)』や、奈良薬師寺蔵『吉祥天像』にそれぞれ異なった姿がみられる。
中世文学をみると、わが国では階級を表現するために眉毛を抜いて、捏墨(こねずみ)(油煙に油を混ぜてつくった)で描いた。この風俗は女性ばかりでなく、男の世界でも行われ、多くは鑷子(けぬき)(毛抜き)を用いて毛を抜き、そのあとに捏墨で描いたのである。鑷子が櫛筥(くしげ)という手箱に収められ、その古い遺物が、厳島(いつくしま)神社(広島県)、熊野速玉(はやたま)大社(和歌山県)の御神宝として保存されている。江戸時代も中期以降になると、かみそりを使っての化粧法が女の元服の作法となり、『都風俗化粧伝』(1813版)をみると、「捏墨」は「露草(つゆくさ)、紅、油煙を等分にし、これにごま油を加えて練って」つくったとあり、または「金箔(ぱく)三匁(もんめ)、油煙四匁をごま油で練って」つくったともある。
欧米文化に接してからは、アイブロー・ペンシルがつくられたが、これは第一次世界大戦のおりに、ドイツの陸軍病院で開発したダーマート・ペンシルをさらに改良したものであるといわれる。近代女性の化粧は、ポイントを目におくところから、眉墨は黒ばかりでなく、緑、紫、茶などのものも使用されている。
[遠藤 武]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…生食するほか,ジュースやジャムの原料にも使われる。また果実,葉,根は民間薬として使われ,昔は材のタールで歯を黒く染める御歯黒や眉墨を作った。繁殖は実生または挿木による。…
… どの民族にもみられるように,日本でも古くから眉を染める風習があった。《古事記》応神天皇の話のくだりにあるごとく,赤みがかった土を焼いて作った眉墨で彩ったようである。1世紀初頭中国で起こった農民反乱は,参加者が当時尊ばれていた朱で眉を染めていたので〈赤眉の乱〉と呼ばれるが,赤黒い色を良しとする風習は中国渡来のものだったのだろうか。…
※「眉墨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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