石神(読み)イシガミ

デジタル大辞泉 「石神」の意味・読み・例文・類語

いし‐がみ【石神】

奇石・霊石などを神体または神の依代よりしろとして祭った民間信仰の神。しゃくじん。しゃくじ
[補説]狂言の曲名別項。→石神

いしがみ【石神】[狂言]

狂言。妻に離縁されそうになった男が、仲人入れ知恵石神に化けて妻にくじを引かせ、いったん別れることをあきらめさせるが、結局は見破られる。

しゃく‐じん【石神】

いしがみ」に同じ。

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精選版 日本国語大辞典 「石神」の意味・読み・例文・類語

いし‐がみ【石神】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 神霊が石にこもり、また、石に寄りついて顕現するという信仰にもとづき、その依代(よりしろ)をまつった神。しゃくじん。しゃぐじ。さぐじ。
    1. [初出の実例]「神嶋と称ふ所以は、此の島の西の辺に石神在す」(出典:播磨風土記(715頃)揖保)
  2. [ 2 ] 狂言。各流。妻に離縁話を持ち出された夫が、妻の祈誓する石神になりすまして自分に都合のよい託宣を下す筋立て。

しゃく‐じん【石神】

  1. 〘 名詞 〙 奇石、石棒、石剣などを神体としてまつった神。安産、良縁、治療、子育てなどの霊験があるという。いしがみ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「石神」の意味・わかりやすい解説

石神
いしがみ

ある種の自然石や人工を加えた石棒・玉石(たまいし)などに宿る神霊に対する信仰。石神(しゃくじん)ともいう。原始土俗宗教の一種であり、世界各地にみられる。

 石を神として尊信するわが国古来の風習は、その一部を海・水の霊威に託し、波濤(はとう)の底から浜辺に打ち寄せる奇石を、威霊の呪力(じゅりょく)によると考えた。沖縄県では、大昔、大空を飛来し(多良間(たらま)神に祀(まつ)る)、風に乗って常世国(とこよのくに)から漂着した神の石(仙神という)や、土中・砂中から現れ出た石(安里(あり)神に祀る)などを、それぞれ護国・厄除(やくよ)け・授福の神として、その霊力・呪力を信じ、祀り仕えている。また、馬・海鳥などの石になった神体も多い。井戸べりに祀られる石神はつねに異形の鍾乳石(しょうにゅうせき)であり、家の神でもある火・雷の神は3個の石で象徴され、一列の状態か鼎(かなえ)足形に据えられている。

[石上 堅]

石神の霊力

『出雲国風土記(いずものくにふどき)』楯縫(たてぬい)郡神名樋(かんなび)山の条には、この山の西に石神と小石神が100余もあり、古老の伝えに「天御梶日女命(あめのみかじひめのみこと)、多久(たく)の村に来まして、多伎都比古(たきつひこ)命を産み給(たま)ひき。その時、教(さと)し詔(みことの)り給はく、汝(な)が命の御社の向位(むき)は此処(ここ)に坐(まさ)むと欲(おぼ)すぞ宜(え)き、と詔り給ひき。いはゆる石神はこれ多伎都比古の御魂(みたま)なり。旱(ひでり)に当りて雨を乞(こ)ふ時は、かならず零(ふ)らしめ給ふ」とある。『日本書紀』垂仁(すいにん)紀にも、任那(みまな)の村で祀る神は白石(『古事記』では赤玉)で、美しい童女となり、うまい食事をつくる。日本に渡来して比売語曽(ひめこそ)社の祭神になったと伝える。

 神あってこの世に降(くだ)る縁(えにし)の石を、足跡石、休み石、降臨石、神向(こうご)石、神像(かみがた)石などとよび崇(あが)める。古歌に類歌の多い「渚(なぎさ)に拾ふ玉」も、常世魂の成長につれて体内に宿り込む魂の象徴である小石・貝などをいう。正月などの若水汲(く)みの際に、黒石・白石を川・海・井戸などから手桶(ておけ)の底に沈め迎えて、歳神(としがみ)の神体(歳玉石)とし、これを出産時にウブタテ飯(めし)の頂や膳(ぜん)の上に迎える習俗がある。これは、産石(うぶいし)、すなわち一つ一つの石に対する石生誕系統の信仰で、このほか各地に石成長・石分身系統の信仰も生じ、熊野・伊勢(いせ)の信仰者が盛んに喧伝(けんでん)した。人々は個々の形・色・紋様などから神秘を感得し、石を通して神をみ、石の中に霊力が宿ると信じた。

 石の上に立って足踏みをし、「魂よばい」をする魂覓(たまま)ぎ・魂招(たまお)ぎの呪術女神が玉依姫(たまよりひめ)であるが、『出石(いずし)物語』では、御祖(みおや)神が、玉依姫の資格に取り扱われている。御祖神(母神)が伊豆志(いずし)河の石を塩で和(あ)えて、竹皮に包んで呪(のろ)うのは、霊魂とみなした石に呪いをかけると、目的の霊魂・肉体がその影響を受けると信じたのである。

 たとえば、家の礎石をフセ石、ジブク石とよび、土台の下になるものを敷石、柱の下になるものを築石(つくいし)というが、これらに青石を用いないのは、青石には神秘力が期待されないせいである。また、屋根の重しにのせる石をオセイシ、ヤオモなどといい、神石の扱いをし、この石が落ちると不吉の兆しとするのは火事を忌むことに発し、その場合にはすぐに水をかけるか、女の腰巻にくるんで持って上がれば火の祟(たた)りがないという。この石の支えの横木が石持(いしもち)・ヤアラなどである。

 長寿・豊饒(ほうじょう)・情愛の常世国からの霊魂の象徴とする白石を、オシロイ石・米石(こめいし)などと名づけて忌む。白石を屋根石に用いると子が夜泣きすると伝え、赤石(カジ石)を拾って戻ると火事・雷・赤鬼・天狗(てんぐ)などの災いにあい、母親の乳が腫(は)れる(高知県)と戒める。こうした石は、通例、神の石であり、その清浄なるがゆえに忌まれた。白石は白馬、白竜、白蛇、白鳥の変身とも説かれ、あるいは白旗、白米を取り合わせて、その白さが印象づけられる。

[石上 堅]

石神の祭祀

トラ、トウロトラニ、トオル、サヤ、サヨ、小町、式部などと名づけられた石神奉仕役の比丘尼(びくに)・巫女(みこ)が石になると、イタコ石・守り石・ミコ石・姥(うば)石、または化粧(けわい)石・鉄漿付(かねつけ)石・紅付(べにつけ)石とよばれる。トラなどの名称は道・仏両教に属さぬ一派の巫女・行者を意味した呼称で、記紀の息長帯比売(おきながたらしひめ)(神功(じんぐう)皇后)の名にもあるタラシ、タルの変化したものである。これらの石が祭壇であることは、石の上に物を置くと失(う)せるという伝承が如実に示している。

 いわゆる口承文芸の「カチカチ山型譚(たん)」では、石に餅(もち)・糊(のり)などを塗り付けて、悪口を浴びせる猿・狸(たぬき)・狼(おおかみ)をとらえているが、これは、人々の生活を損なう害獣を防ぐために、田畑の平石(ひらいし)の上で祭祀(さいし)を行ったものと推測される。さらに、水霊・火霊の宿る石の物語・信仰を、鍛冶(かじ)・鋳物師(いもじ)らいわゆる職人が継承し、それらの石は神社・祠(ほこら)の神体とされ、石そのものの霊威も説かれ、信じられた。

 神体が石であるので「石神」と書き、シャクジン・シャモジ・シャグジ・ゾウズなどとよぶ。これらの神を総括し、「社宮司」と書いて、新来(今来(いまき))の神を奉ずるような行為には、その土地の先住神―代表神信仰のおもかげも残る。また、物をつぶし、突く用途に用いた石棒・飯杓子(めしじゃくし)信仰と習合して、石神は子供の咳(せき)患い、女の縁結び、子孕(こはらみ)祈願の対象ともなった。

 天石戸別神(あまのいわとわけのかみ)である門神(豊石窓(とよいわまど)神・櫛(くし)石窓神)が、その土地の精霊神として祠に祀られている例もある。『延喜式(えんぎしき)』神名帳では石神社をイワガミシャ、イシガミシャ、または佐久(さく)神ともいうが、これが道祖神・竈(かまど)神・姥(うば)神・子(ね)の神・荒神(庚申(こうしん))、山神(手向(たむけ)・峠・道・氏の神―祖神)に転じ、のちに中山神(天一神)などになる。しかし石神は、塞神(さえのかみ)(『延喜式』にいう、障神(しょうじ)・スクジ・ソコジ―守公神)であり、いわゆる境界の神でもある。『出雲国風土記』加賀神崎の条に、ミサキの神とサダ神(開拓神、栄田の義)生誕の説話がある。枳佐加比売(きさかひめ)は、水に流れてくるもの(矢)を選び、埼(みさき)の神に矢を捧(ささ)げ、矢を体にあてがい、体内の汚穢(おえ)を去らしめたのちに、足踏みをして地霊を圧し鎮め、願いを叫び上げた。やがて祈りがかない、比売は窟(いわや)の中で男神を生んだ。そのため、この埼・窟のあたりを舟行するときには、神に祈念せねば強風が吹き募り、かならず舟は沈むと伝える。つまり地境の神である。それがさまざまによばれ、地鎮・地主・防圧(災厄を防ぎ止める)の神となり、杜(もり)・ムロ・フロとよぶ盛り土・樹木群、あるいは神向石(カワゴ・ゴーリン石)の孤石や群落する小石の密集地域を、石神として尊崇するに至る。神の世と人の世との境目の、一時的な神の宿り所が天(あめ)の磐座(いわくら)であるが、これは石・岩群・樹群でもあり、石神でもあった。

 俗にいう道祖神は、記紀によると、伊弉諾(いざなぎ)・伊弉冉(いざなみ)の二神が夫婦別れをする際、両者の間に置いた杖(つえ)―岐神(くなどのかみ)であるという。クナが諾冉(だくぜん)両神に和合法を教えた鶺鴒(せきれい)(ニワクナブリ)のクナ(男根)であり、このクナなる石神(その象徴的石像、また男女神が肩を組み、あいた手に徳利・杯などを持ついわゆるウナガケル神)に、主として農耕にかかわる生産力・労働力の向上を念じた。また死の国から追いかけてくる伊弉冉や女軍を防ぎ止めるために、伊弉諾は道いっぱいに千引石(ちびきいし)を据えたが、これは道ふさぎの神であって、石神ながら境神とは別神とすべきである。

[石上 堅]

外国の石神

ニューギニアでは、石に宿る霊力をウァロポとよび、石が年を経るにしたがい、超人間的呪力をもつと信じられている。それに物質としての呪力ソイミが加わると、集団の平和・食糧・成功・健康などを自由になしうるとする。村の首長が石を守り、儀礼を行い、香を捧げ、祓(はらえ)をする。この石によって雨と子孫に恵まれ、動植物の繁殖がもたらされる。また、中央オーストラリア北部では、祖先は、砂地から現れる大小の青石であると信じられている。

[石上 堅]

『石上堅著『新古代研究』全3巻(1978・雪華社)』『石上堅著『生と死の民俗』(1981・桜楓社)』『石上堅著『日本民俗語大辞典』(1984・桜楓社)』


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日本歴史地名大系 「石神」の解説

石神
いしがみ

[現在地名]上田市大字古安曾 石神

西松本にしまつもと村のうち、鈴子の西の集落。「長野県町村誌」は寛永二年(一六二五)に西松本村から分れたという。宝永三年(一七〇六)上田藩村明細帳の西松本村の中に「石神村」があり、百姓総家数六四軒、人数二四三人と記す。また諏訪大明神(文政四年に「安曾神社」と改称)には神楽殿・拝殿・子安明神・石神明神があるとみえるが、この石神明神(しゃくじ神)が村名の起りであろう。

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改訂新版 世界大百科事典 「石神」の意味・わかりやすい解説

石神 (いしがみ)

狂言の曲名。女狂言。家を顧みず遊んでいる夫に愛想をつかして妻は離婚を申し出る。夫は仲人のところへ行き,妻が来たら仲裁してくれとたのむ。仲人は,やがて訪ねてきた妻に,出雲路の夜叉神(やしやじん)(石神)に伺いを立ててみよと勧めておき,夫には夜叉神の扮装をさせて行かせる。妻は夜叉神に,離別の祈誓を立てに参詣するが,夜叉神に化けている夫は巧みに妻をだまし,離縁を思いとどまらせる。しかたなく夫に添い続けることに決めた妻が,神への礼に神楽を舞いはじめると,夫はつい浮かれて舞い出してしまい,見破られて追い込まれる。登場人物は夫,妻,仲人の3人で,シテは夫。石神とは,奇石や怪石を神体とし,安産・良縁などに霊験があるとされた民間信仰の神。出雲路の夜叉神は,京都御所の北東にある幸神社(さちのかみのやしろ)のことらしく,今も境内に石神がまつられている。夫婦間の感情の機微を描くとともに,神楽に夫が引きこまれてゆく過程が見どころ。
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百科事典マイペディア 「石神」の意味・わかりやすい解説

石神【いしがみ】

神霊が降臨する石(磐座・磐境(いわくら・いわさか))や,超自然力をもつという石の信仰は古く,自然石を神体とする神社は多い。また陽物に類する石を〈しゃくじん〉〈さごし〉などと呼び,安産,性病の治癒,雨乞(あまごい)などを祈願する例も各地にみられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「石神」の意味・わかりやすい解説

石神
いしがみ

「しゃくじん」ともいう。奇石,霊石を神体とする神。古くはチカエシノオオカミ,クナドノカミなどがあり,また民間信仰に多くみられ,病気治療や安産に霊験があるとされる。

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普及版 字通 「石神」の読み・字形・画数・意味

【石神】せきしん

鍼治療の秘術。

字通「石」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の石神の言及

【石棒】より

…中期の大型石棒は住居の内部に立ててあることが多く,呪術的な意味をもっていたようである。後世,これを石神(いしがみ)として祭るのは,性器を連想してのことであるが,縄文時代にも類似の観念があったかもしれない。後期の石棒は手にもてる大きさに縮小しているから,儀礼的なものであろう。…

※「石神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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