(読み)セキ

デジタル大辞泉 「石」の意味・読み・例文・類語

せき【石】[漢字項目]

[音]セキ(漢) シャク(慣) コク(慣) [訓]いし いわ
学習漢字]1年
〈セキ〉
いし。「石器石材石炭石碑隕石いんせき化石岩石巨石結石鉱石泉石礎石投石宝石落石
医療用の石針。「薬石
碁石ごいし。「定石じょうせき布石
堅固なもの、無価値なものなどのたとえ。「玉石鉄石木石
石見いわみ国。「石州
〈シャク〉いし。「温石おんじゃく磁石磐石ばんじゃく
〈コク〉体積・容積などの単位。「石高千石船
〈いし〉「石頭石工いしく石畳軽石庭石
[名のり]あつ・いそ・かた・し
[難読]石蓴あおさ明石あかし石投いしなぎ石首魚いしもち石女うまずめ重石おもし石榴ざくろ流石さすが石楠花しゃくなげ石蕗つわぶき

いし【石】

岩石の小片。岩よりも小さく、砂よりも大きなもの。
広く、岩石・鉱石のこと。「の置物」「の橋」
土木工事や建築などに使う石材。「山からを切り出す」
宝石や、時計の部品に用いる鉱石、ライターの発火合金などの俗な言い方。
碁石。「を打つ」
胆石結石
すずり
墓石
じゃんけんで、握りこぶしで示す形。ぐう。→じゃんけん
10 紋所の名。四つ石、丸に一つ石、石畳車いしだたみぐるまなどがある。
11 かたい、冷たい、無情なもののたとえ。「のように黙りこむ」「のように動かない」
12 劣ったもののたとえ。「数が多ければ玉もあるしもある」
13 石だたみ敷石
「ひとりなるわが身の影をあゆまする―のうえ」〈達治・甃のうへ〉
14 石御器いしごきのこと。茶碗。
「此の―できゅっとやらんせ」〈浄・妹背山
[類語](1石ころ石くれ小石れき石礫せきれき礫石れきせき石塊せっかい転石てんせき砂利じゃり砕石ごろた石つぶて玉石割り栗石さざれ石火打ち石

こく【石/×斛】

尺貫法で、体積の単位。主に穀物を量るのに用いる。1石は10斗で、180.39リットル。さか
和船の積載量の単位。1石は10立方尺。
木材の容積量の単位。1石は10立方尺で、約0.278立方メートル。
大名武家知行高を表す語。玄米で量り、1石の内容は1に同じ。

しゃく【石/赤/昔/迹/惜/責】[漢字項目]

〈石〉⇒せき
〈赤〉⇒せき
〈昔〉⇒せき
〈迹〉⇒せき
〈惜〉⇒せき
〈責〉⇒せき

せき【石】

[接尾]助数詞。
腕時計などの軸受けにする宝石を数えるのに用いる。「二七の時計」
電気製品でトランジスターダイオードなどを数えるのに用いる。

こく【石】[漢字項目]

せき

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精選版 日本国語大辞典 「石」の意味・読み・例文・類語

いし【石】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 鉱物質のかけら、かたまり。普通、岩より小さくて、砂より大きいものをいう。広くは、岩石、鉱物を総称する。装飾的な庭石、置き石などにもいう。
    1. [初出の実例]「帯日売(たらしひめ)神のみことの魚(な)釣らすとみ立たしせりし伊志(イシ)を誰見き」(出典:万葉集(8C後)五・八六九)
    2. [その他の文献]〔十巻本和名抄(934頃)〕
  3. ( の一般的性質、状態から ) 堅いもの、冷たいもの、無情なもの、つまらないもの、困難なこと、堅固なことなどのたとえに用いる。
    1. [初出の実例]「黄金白玉をば瓦(かはら)(イシ)と同じくせり 青(あをき)珠、赤(あかたま)をば沙(いさご)(つち)と斉しくせり」(出典:東大寺諷誦文平安初期点(830頃))
    2. 「別れし人の為に、永く一代身を石にするがってん」(出典:浮世草子・立身大福帳(1703)四)
  4. 建造物の石材、または土台などの石。〔日本国考略(1523)〕
  5. のうち、特定のものをさす。
    1. (イ) めずらしい石。宝石。
      1. [初出の実例]「未(ま)だ革もつけでいしにて侍り」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開中)
      2. 「指輪もよそいきの石の入ったのを一つ」(出典:兵隊の宿(1915)〈上司小剣〉六)
    2. (ロ) 時計の歯車の軸に用いる宝石。
    3. (ハ) 火打ち石。
      1. [初出の実例]「いしをうつ光のうちによそふなるこの身の程をなに歎くらむ」(出典:長秋詠藻(1178)上)
    4. (ニ) ライターの発火用の合金。ライターいし。
  6. 胆汁(たんじゅう)の成分などからできる、かたい物質。たん石。結石(けっせき)。〔医語類聚(1872)〕
  7. 囲碁や昔の双六(すごろく)などに用いた白と黒の石。碁石。
    1. [初出の実例]「継子立(ままこだて)といふものを双六(すごろく)の石にて作りて」(出典:徒然草(1331頃)一三七)
  8. 墓石(はかいし)、石碑(いしぶみ)のこと。
    1. [初出の実例]「まことの姿はかげろふの、石に残す形だに、それとも見えぬ蔦葛」(出典:謡曲・定家(1470頃))
  9. 石炭、泥炭などのこと。
    1. [初出の実例]「石(イシ)を薪にする在所、蛇を餠にする国もあり」(出典:浮世草子・好色万金丹(1694)五)
  10. じゃんけん(石拳(いしけん))の手の一つ。ぐう。にぎりこぶしであらわす。
    1. [初出の実例]「鋏や石や風呂敷(東京の児童のいふ紙)の形を出して決める」(出典:明治大正見聞史(1926)〈生方敏郎〉憲法発布と日清戦争)
  11. 石御器(いしごき)のこと。茶わん。まれに杯のこと。
    1. [初出の実例]「これからは嘉例の騒ぎぢゃ、調子が合はいで面白ない。この石(イシ)できゅうっとやらんせ」(出典:浄瑠璃・妹背山婦女庭訓(1771)四)
  12. 道しるべのために置く石。道石(みちいし)
    1. [初出の実例]「不案内石に聞いてはまがって行」(出典:雑俳・柳多留‐九八(1828))
  13. 石だたみ、石がわらのこと。
    1. [初出の実例]「舗石(イシ)の上に曇影(くもり)ふみつつたまたまに己(おの)が足(あ)の音(と)にさめ返るかな」(出典:馬鈴薯の花(1913)〈中村憲吉〉大正元年)
  14. 陰毛を切るために、湯屋(ゆや)の流し場などにある石。湯屋の石。毛切り石。
    1. [初出の実例]「石で切るのをあぶながる女の気」(出典:雑俳・柳多留‐七(1772))
  15. 能楽で用いる舞台道具の一つ。の形に作り中央から二つに割れるもの。「殺生石」「一角仙人」などに用いる。
  16. 「石(こく)」を訓よみにしたもの。米一石(こく)
    1. [初出の実例]「教月坊、例の狂歌を持たせ定家のもとへ、『教月がしはすのはてのそら印地(いんじ)としうち越さん石一つたべ』よねを五斗参らせられし」(出典:咄本・醒睡笑(1628)五)
  17. 紋所(もんどころ)の名。石畳車、丸に一つ石、三つ石、四つ石などがある。
    1. 三つ石@四つ石
      三つ石@四つ石

こく【石・斛】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 尺貫法で、容積の単位。わが国の場合、斗の十倍。升の百倍。曲尺(かねじゃく)の六・四八二七立方尺で、約一八〇リットルにあたる。〔続日本紀‐和銅七年(714)〕
    1. [初出の実例]「十斗を、一石と、いふなり」(出典:小学教授書(1873)〈文部省〉)
    2. [その他の文献]〔漢書‐食貨志・上〕
  3. 和船の積載量を示す語で、一〇立方尺をいう。約〇・二七八立方メートルにあたる。
    1. [初出の実例]「日本形船の積量は十立方尺を以て一石とす」(出典:船舶積量測度規則(明治一七年)(1884)三条)
  4. 材木などの容積量で、一〇立方尺を一石とする。〔合類定記(江戸か)〕
  5. 大名、武家の知行高(所領高)を表わす語。玄米一石の内容はに準ずる。
    1. [初出の実例]「一知行割之節、関東米方・永方割合之儀、大概高百石に付、米方拾六七石より弐拾石位迠割合相渡候分は永方相渡候事」(出典:勘定所条例‐二)
  6. 鮭、鱒などを数えるのに用いる語。鮭は四〇尾、鱒は六〇尾を一石とする。

せき【石】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 尺貫法で容積の単位。斗の一〇倍。約〇・一八キロリットル。こく。〔伊呂波字類抄(鎌倉)〕
      1. [初出の実例]「ふせにこめ十せき出すと、だんながいふてざしきをたってかへる時」(出典:虎明本狂言・泣尼(室町末‐近世初))
    2. 弓の十人張りをいう称。
      1. [初出の実例]「五石(セキ)の弓の長さ七尺五寸ありて、つく打ちたるに、三十六指たる黒羽の矢を負ひ」(出典:読本・椿説弓張月(1807‐11)前)
      2. [その他の文献]〔新唐書‐張弘靖伝〕
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙
    1. 腕時計などの軸受けにする、ルビー、サファイアなどの宝石をかぞえる語。
    2. 電気製品で、トランジスタ、ダイオードなどをかぞえる語。

し【石】

  1. 〘 造語要素 〙 いし。他の語の下に付いて熟語をつくるときに用いる。
    1. [初出の実例]「神風の 伊勢の海の 意斐志(おひシ)に 這ひ廻(もとほ)ろふ」(出典:古事記(712)中・歌謡)

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普及版 字通 「石」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 5画

[字音] セキ・シャク
[字訓] いし

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 会意
厂(かん)+口。厂は崖岸の象。口は卜文・金文の字形によると(さい)に作り、祝を収める器の形。〔説文〕九下に「山石なり。厂の下に在り。口は象形なり」と口を石塊の形とするが、嚴(厳)・巖(巌)の従うところもの形であり、嚴は敢(鬯酌(ちようしやく)の形)に従っており、儀礼を示す字である。宕(とう)は(せき)は祭卓の示の形に従い、宗の主、いわゆる郊宗石室の神主である。啓母石の神話をはじめ、石に対する古代の信仰を伝える資料が多い。

[訓義]
1. いし、いわ、儀礼の対象とされる石。
2. 石で作ったもの、石主、石碑、石磬、石鏃、石鍼、砥石。
3. 石の質、堅い、無言、無声。
4. 重さ、禄高、こく。

[古辞書の訓]
〔和名抄〕石 以之(いし)/石鍾 以之乃知(いしのち) 〔名義抄〕石 イシ・ツチ・アツシ

[部首]
〔説文〕には〔新附〕の字を加えて五十八字、重文三字、〔玉〕には重文を含めて二百七十二字を属する。字数の増加が著しいが、用例をみない字が多い。

[語系]
石・zjyakは同声、は神主(位)を石函に蔵する意の字で、石は亦声とみるべきである。zjyakも同声。百二十斤の糧。良二千石というときの石の初文である。

[熟語]
石堊・石衣・石印・石音・石陰・石・石液・石苑・石垣・石塩・石屋・石花・石華・石罅・石火・石階・石塊・石崖・石磑・石郭・石椁・石函・石・石巌・石・石匱・石圻・石碕・石器・石磯・石臼・石級・石牛・石渠・石魚・石峡・石・石菌・石渓・石経・石兄・石径・石逕・石閨・石磬・石鯨・石隙・石碣・石闕・石検・石限・石鼓・石虎・石交・石杠・石矼・石窖・石・石刻・石桟・石子・石誌・石耳・石室・石漆・石主・石甃・石絨・石皴・石笋・石筍・石女・石匠・石床・石礁・石牀・石城・石丈・石燭・石心・石神・石薪・石人・石・石髄・石井・石泉・石・石礎・石・石造・石鏃・石・石・石黛・石・石壇・石竹・石柱・石腸・石梯・石堤・石・石灯・石凍・石磴・石頭・石・石竇・石・石洞・石南・石楠・石乳・石脳・石馬・石髪・石盤・石碑・石婦・石文・石・石癖・石・石縫・石峯・石房・石墨・石盆・石磨・石蜜・石門・石郵・石友・石尤・石・石瀬・石闌・石欄・石巒・石榴・石梁・石稜・石林・石礫・石路・石楼・石槨・石棺・石橋・石
[下接語]
一石・員石・隕石・殞石・燕石・温石・化石・火石・嘉石・瓦石・怪石・懐石・崖石・刊石・冠石・岩石・巌石・危石・奇石・輝石・巨石・玉石・金石・鈞石・珪石・磬石・撃石・結石・巻石・懸石・玄石・原石・孤石・黄石・鉱石・衡石・礦石・刻石・沙石・砂石・砕石・採石・山石・巉石・矢石・砥石・磁石・甃石・笋石・消石・石・鍼石・水石・燧石・瑞石・泉石・鐫石・礎石・漱石・石・堆石・戴石・胆石・竹石・柱石・長石・枕石・珍石・貞石・鉄石・転石・土石・石・投石・拝石・肺石・白石・発石・盤石・匪石・布石・文石・片石・舗石・方石・宝石・抱石・木石・盆石・薬石・幽石・落石・乱石・累石・霊石・錬石・

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「石」の意味・わかりやすい解説

石(いし)
いし

山の石を岩(いわ)と称し、海の石を石(いし)とよんだ。中国隋(ずい)の『玉篇(ぎょくへん)』に「磯(いし)、水中磧(せき)」とあり、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』に「石、凝土也」とし、「以之(いし)」と読む。

 本項では、種々の点から、石と人間生活のかかわりについて、総称としての石に触れる。地質学上の解説は「岩石」「鉱物」の項、土木・建築については「石材」、考古学的知見については該当する石製品の項を参照されたい。本項は、いわゆる民俗学的な視点から石を敷衍(ふえん)したものである。

[石上 堅]

石と生活

石の古代建築

石による建造物は数多い。いまその若干を取り上げてみよう。ギリシアのアテネにあるアクロポリスパルテノン神殿は、壮大な白大理石の円柱列で名高い。また、ベスビオの噴火にうずもれたポンペイの廃墟(はいきょ)は、舗道の敷石に馬車の轍(わだち)の跡が残り、その道のわきに、石彫りの水神をのせた水道槽もある。ローマ時代の石造建造物も、エジプトのスフィンクス、ピラミッド、オベリスク同様、当時の生活をしのばせる。中国の『神仙通鑑(つがん)』には、羿(げい)は玉亀山で山霊を使役し、瑪瑙(めのう)の敷石・階(きざはし)をしつらえた宮殿を16もつくり、西王母(せいおうぼ)がそこに好み住んだと記す。

 日本では、ストーン・サークル(環状列石)などの巨石記念物が知られている。ケルン(積石塚)は石塊で築いた古墳である。秋田県立石・大湯のメンヒル(立石)は招魂・昇魂を期した建造物であろう。中国渡来の石人・石馬は九州地方に多い凝灰岩製の出土品である。

[石上 堅]

彩りの呪

石の彩りにかかわる伝承も多い。ざくろ石、赤めのうは、その色から、皮膚病の護符として古代ギリシア時代から身に着けられ、たんぱく石(オパール)は不幸をもたらすと伝える。紫水晶(アメシスト)は、酒に酔わぬための呪物(じゅぶつ)ともいうが、悪魔を祓(はら)い、英才を賦与するともいう。こはくの珠(たま)は弱視をよみがえらすとされる。北欧平原では、オパール、碧玉(へきぎょく)など緑色の宝石は、傷害を招く不吉な石とされ、所持者の皮膚までが緑色になるとして嫌う。北アフリカ諸国などでは、山羊(やぎ)の心臓を腑分(ふわ)けすると、青い炎が燃え盛るが、トルコ石の青と同じく生命の徴証であるという。また、赤石には等しく、呪いを防ぎ、魔を追い払う力があるとされた。

[石上 堅]

石の供献具

日本の例をあげよう。天神地祇(ちぎ)や祖霊を祀(まつ)る祭儀は、大陸から渡来したとされる。山・川・島を神体にみなす土地に真向かう地域から、器具・什器(じゅうき)類の供献具の出土がみられる。石斧(せきふ)・石鑿(いしのみ)・石鍋(いしなべ)・石鉢などの工具、供食具、機織(はたおり)具である。さらに祭儀を侵す邪霊を祓う武器、石剣・石盾・石槍(いしやり)も出土する。石製の服装品も数多い。勾玉(まがたま)、彩礫(さいれき)、管玉(くだだま)、切子(きりこ)玉、棗(なつめ)玉、丸玉をそれぞれ一重・二重に連綴(れんてい)したり、さまざまに組み合わせ、頸(くび)・腕頸に巻き付けた。これらを身にまとうと、「マナ」(超自然力)が人々の願いをかなえ、霊威を発揮する。

[石上 堅]

実用具・呪具としての石器

いわゆる石枕(いしまくら)と称されるものがある。死者の頭をのせる中央のへこみの周囲に孔(あな)をあけ、蝶(ちょう)形の石製飾りを6本ほど挿す。千葉県に多い出土品である。近畿・中部地方では碧玉製品が出土する。『浅草寺観音縁起(せんそうじかんのんえんぎ)』にも石の枕に関する次の説話がある。風のすさぶ一夜、浅茅ヶ原(あさじがはら)の一つ家に宿を請う者があった。老婆は宿を供するが、富裕そうな旅人のようすをみるにつけ、邪心を募らせる。ついに老婆はその金品を奪おうと石の枕で旅人を打ち殺す。ところが、老婆に打たれていたのは観音であったという。老婆の石の枕は、へこみのあるつまらぬ丸石だった。

 石鏃(せきぞく)は、江戸時代には「星の糞(くそ)」、俗に矢の根石ともよばれ、その神秘性が語られた。鍬(くわ)形・紡錘(つむ)形など種類も多い。長野県一帯では黒曜石製の腸抉(わたぐり)式のものがある。狩りの獲物の鳥の腸を肛門(こうもん)から抜き取るために用いた。

 出土品の石刀、石斧、石鏃、石棒、石弾子(せきだんし)などは武器でもあり、呪具でもあった。記紀の俗に剣となす大量(おおはかり)も、邪霊・汚穢(おえ)を祓うのにあずかったものであろう。

 北欧の『エッダ』に、トールと巨人ルングニイルが争い、ルングニイルが赤髯(あかひげ)のトールに石棒を投げつける伝説がある。石棒を投げつけられたトールも槌(つち)を投げるのであるが、この二つは空中で激突し、石棒は砕け、その破片がトールの頭に突き刺さる。巨人ルングニイルは敗死したという。石棒はおおむね青石・安山岩・砂岩製である。石理(きめ)をわきまえた彫刻を施し、金精(こんせい)神や族神になぞらえ、広く路傍や小祠(しょうし)の神体として祀る。道祖神と同じく豊産・子授けを祈るのである。フランス、ブルターニュ地方には、裸祭りの日に花崗(かこう)岩製の石棒に肌を触れれば妊娠するという故事がある。

[石上 堅]

石と漁労・農耕

漁労の歴史は古い。当初は河川・沿岸でのそれが主であった。東北地方に出土する丸形・四角形の、孔や括(くく)りに糸をつける軽石の石錘(うき)は、釣魚に用いられた。牡蠣(かき)・鮑(あわび)を岩からはがしたり、貝の口をこじ開けるのに、珪石(けいせき)・硬砂岩製の、楕円(だえん)、横・縦形の石匙(いしさじ)を使用した。

 漁労に石を利用した例は、時代が下ってもある。台湾のアミ族の人々は田植が終わると、コムリッシ祭用の魚とりをする。コムリッシ祭は日本のさなぶりにあたる。河床の石河原に小屋(タロアン)を設け、石を積み、その上に芋の葉をかぶせ、砂利をのせ、流れをせき止めるのである。魚は網ですくい上げる。オーストラリアにも興味深い伝承がある。北西部、ラグランジュ湾の、雀(すずめ)の一種のズイの漁法である。ズイは海岸の浅瀬を小石で半円形に囲み、潮が引くと中に魚が残るように仕向けた。魚は鰡(ぼら)であるが、ズイはその鰡をつつき殺したという。鰡は石になり、この湾岸は鰡の豊富な漁場になった。

 農耕にかかわる石の伝承も少なくはない。沖縄県那覇市の地名起源である。大昔、呉氏宅に野菰(やこ)(俗称は奈波(なば)。茸(きのこ)形の石で、生産をつかさどる神の象徴)があったので、那覇となったというもの。奈波(キノコの方言)は土地神であり、農耕の増殖・生産を地中からの呪力で守り、豊饒(ほうじょう)をもたらす。沖縄の古代生活を多くの事例で語る『遺老説伝』中の一話である。

 オーストラリア、ニューギニアの諸民族の伝えもある。ここでは希望の大きさの石を土中にうずめておくと、願いどおりにそれなりのヤムイモタロイモが増殖するという。感染呪術を示唆するものとみてよい。また雨乞(あまご)いの際には、男たちは水に由縁する動物の踊りを舞いながら、女たちを囲んで石の粉をまきかける。石の粉は、水晶を槌石(つちいし)で粉末にしたもの。水晶は雨の石とよばれる。

 石臼(いしうす)にまつわる韓国、台湾その他の説話もある。たとえば、太古から天と地が石臼のように回転していて、善人のみがその孔(あな)の間に残って栄えた。あるいは、大洪水で世界の人類がすべて滅亡したが、ただ2人の兄妹が二つの峰に残り、石臼の重なるのをみて、それを神の啓示として結婚し、人類の祖となった、などである。

 農耕用の石製の出土品に石包丁がある。櫛(くし)形、長方形を呈するが、石板の上方に孔を二つあけ、紐(ひも)を通して、刃の部分で稲穂を摘んでいた。福岡県遠賀(おんが)郡水巻町の出土である。弥生(やよい)時代の石包丁には打製と磨製があって、形や刃のつけ方は一様ではない。打製の、サヌカイトを材料にしたものは、中部瀬戸内地域に多い。

[石上 堅]

石の民俗と伝承

山の神の石

人間の霊魂は動物の腑分(ふわ)けなどの印象から、形は丸形であるとか、三角形であると信じられてきた。丸形・三角形はそれぞれ心臓・肺臓の形である。こうした形の石に霊魂が宿り込むと、その石は成長し、増殖するとされた。小石一つであっても、山へ持って行けば、山の神は喜び、山はそれだけ高くなるという。「山の背競(せくら)べ譚(たん)」には以上のような背景がある。

 剣摺鉢(つるぎすりばち)で知られる有明(ありあけ)山(信濃(しなの)富士)は、岩木山(津軽富士)同様、日に日に大きくなると伝えられていた。ある日、それを見ていた女が立ち小便をしながら、「毎日、毎日、そんなにせり上がって、どういうつもりなのか」と冷笑したので、山はそれ以来高くなるのをやめてしまった。ここには、山の神、石を祀る者が女性であり、その女性が不浄を行い、禁忌を犯せば、神の天降(あまくだ)りや祭祀(さいし)の中絶されうる事実が示されている。

 山の神は石・木の小祠に祀られる場合が多く、炭焼き、杣(そま)、鍛冶(かじ)、木地師、修験(しゅげん)など、霊山の麓(ふもと)から出て定住せずに旅を続けた人々の、山の神にまつわる口沙汰(ざた)も知られている。高さを誇る山の石を借りてきて、疣(いぼ)をなでさすり取り除く疣とり石・疣石は、鋳物師(いもじ)の足跡を示し、「芋掘り長者譚」を分布させた。

[石上 堅]

試練の石

石を抱き上げて、その重さ軽さで病気、失(う)せ物、商売繁盛などを占う伺(うかが)い石がある。力石は、鬼・弁慶・天狗(てんぐ)などが力試しをした石である。佐用姫(さよひめ)・聖徳太子が腰をかけた石の由縁で、力持ちになり、英才を発揮した、また疲れが回復し、病気も治癒した、などという休み石は、人々の尊び敬う祭壇石である。『古事記』中巻に以下の説話がある。麗しい伊豆志袁登売(いずしおとめ)の愛をかちえた春山之霞壮夫(はるやまのかすみおとこ)をねたむ兄秋山之下氷(したび)壮夫を懲らしめるべく、兄弟の母は伊豆志河の石を拾う。石を塩でもみ、竹皮に包み、かまどの上に置き、「この石の沈むが如(ごと)、沈み臥(ふ)せ」と呪うのである。母の祈念に、兄は八年(やとせ)を病みつき、臥した。いわばこの石は、成年戒の試練の石である。これに類する説話は、地境の石による呪術などのほか、地蔵、平将門(まさかど)の武勇、災害を防ぎ止める防圧語りにもみられる。

 立場石(たてばいし)の伝承もある。徳島県海部(かいふ)郡志和岐(しわき)浦に玉依姫(たまよりひめ)という娘がいた。娘は嫁に行く際に、生家を離れがたく思い、庭の石を拾って袂(たもと)に隠し、途中山の頂にかかるあたりで、小石をことりと捨てた。やがて3年が過ぎ、慈しみ深い父の死にあう。懐かしさのあまりその場所を眺めると、石はだれの目にもそれとわかるほど大きくなっていた。この石は、その上に石を供えると、良縁を得るといまだに信じられている。玉依姫は、この伝承からすれば、霊魂を招き寄せ、移し込める役割の巫女(みこ)であるらしい。玉依姫を名のる旅渡りの巫女は幾人もいて、祈祷(きとう)、まじない、供養(くよう)も行えば、男女の仲をとりもつための物語、あるいは処女懐胎、神の子の神秘な生誕の語りを、世過ぎの術にしている。

[石上 堅]

赤石・赤色の霊威

ブリタニア系の人々は、へこみのある石にバターや蜜(みつ)を入れ、酒や油を塗り清浄に保ち、女陰の形を彫り、赤く彩色して、豊饒(ほうじょう)・妊娠を念じるという。これは、日本における孕石(はらみいし)、局部を赤く塗られて路傍に立つ庚申(こうしん)石像と同じく、式部、虎(とら)、小町、五郎などの語りと共通の要素がある。二又(ふたまた)の木に石を供えてもよいのである。

 ローマの古語り(人狼伝説)がある。ある夜来客があった。所用を思い出し、客に頼む。客はやむなく引き受け、着衣を脱ぎ、狼(おおかみ)となり、森深く入り込んだ。そのとき着衣は石になり、くぼみに血をたたえていたという。

 静岡県掛川市の孕石天神は、社殿が赤石の上にある。赤石から、子石が毎日一つずつ生まれ落ち、その石を拾い、寝室に隠しておけば、かならず妊娠すると伝える。記紀にも、赤色にまつわる説話がある。たとえば、男神と人間の女が結婚する際には、男神は丹(に)塗りの矢となる。また、古く大隅(おおすみ)・薩摩(さつま)に住んでいた隼人(はやと)は、神に仕える際に、体中を赤く塗りつぶしたとされる。「天道さん金(かね)の綱譚」にも赤色が出現する。子供たちを襲い、とって食う人食婆(ひとくいばば)が、逃げる子供たちのよじ登る天からの綱に追いすがる。しかし、綱は重さで切れて落ち、婆は石にぶつかり死ぬ。植えてあった近くの畑の唐黍(とうきび)の根は、婆から流れ出る血に染まり、赤くなった。ここでは、石が赤くなったとは説かれないが、天降(あも)るものが赤で表される。

 奈良県高市(たかいち)郡真菅(ますが)村小槻(おおづく)(現、橿原(かしはら)市)の宮に赤くへこんだ大岩がある。雷の落ちた跡だという。雷は大日様に捕らえられ、褌(ふんどし)を外され、二度とこの村に落ちぬと誓い、天に戻った。大岩のくぼみには褌の縫い目まで残るらしい。これは、赤色に関していえば、人間以外の神・精霊が人間に近づく過程を表し、褌の縫い目は霊威あるものの呪力を示すと思われる。

 船玉(船霊)(ふなだま)(船の守り神)として祀られる石もある。沖縄県宮古島の伝えである。遠く、長い航海に出た父を慕う子供がいた。子供は父恋しさのあまり、仲間嶽(なかまだけ)の奇石を守護神として舟に乗せ、海の果てに父を追う。波まかせの子供はおぼれ死ぬ。航海から戻った父は子供の死を悲しむが、舟の石を子の魂と思い定め、嶺(みね)に捧(ささ)げる。その後人々はこの山の石をいただき、赤糸を巻き結んで箱に収め、舟に供えた。

[石上 堅]

異形の呪

たとえば、石を縄で縛り、神仏に行うように願掛けをする行為がある。かなえば縄を解く。縛り石・縛り地蔵などとも称するが、呪を効果あらしめるための縛りである。サン、シメ、シメボシ、ツツダテ、ウケなどともいい、小枝、草、小石ものせる。異形をことさらに誇示し、神・呪物とするのである。『大和(やまと)物語』の、大宰大弐(だざいのだいに)小野好古(よしふる)と歌を唱和した檜垣(ひがき)の御(ご)は、石を祀り、その来由を語り、信仰を説く巫女(ふじょ)であった。福岡県太宰府市の観世音寺裏門前には、檜垣の御の上屋をしつらえた石墓があるが、眼病に効ありと木札を下げたその右わきの石にたまる濁り水は、いまは石はおろか信仰さえ影も形もない。

 蛇枕石の伝えは愛知県岡崎市(旧福岡町)にある。夫の浮気を恨み、妬心(としん)を募らせ、妻は岬の海に入水(じゅすい)して大蛇となる。大蛇は遊行の途次の蓮如(れんにょ)上人に会い、その説教をひたすらに聞き、彼岸の大石を枕に天女と化し、昇天する。この伝えは、石に憑(よ)る霊魂を招き、眠りを契機に異形・変身を成就する信仰の継承を明示している。

[石上 堅]

夫恋いの石

「つまごいのいし」と読む。峠の山道の日なたや、田んぼのあぜ道で抱擁しあい、屈託なげにくつろぐ爺婆(じじばば)石・夫婦(めおと)石はあちこちにある。田の神は爺婆の姿で、山上から田畑を眺め渡し、実りを予祝するが、これは山見・作見の名で知られる。郷土芸能などに存するカマケワザも、豊饒を祈る性交呪術である。『万葉集』にある大伴旅人(おおとものたびと)の歌「とほつ人松浦佐用媛(まつらさよひめ)夫(つま)恋ひに領巾(ひれ)振りしよりおへる山の名」は、以下の伝承を踏まえている。宣化(せんか)天皇の時代、新羅(しらぎ)征討に船出した大伴佐提比古(さてひこ/さでひこ)を、佐用媛が鏡山から見送り、領巾を振り、別離を嘆きながら、そのまま石に化したという。『古今著聞集』にもみえる望夫石(ぼうふいし)である。この望夫石は、佐賀県唐津(からつ)市呼子(よぶこ)町沖合い2キロメートルの加部島(かべしま)佐用姫神社の社殿下にある。また、他の望夫石は、福井県敦賀(つるが)市曙(あけぼの)町の気比(けひ)神宮にも、社殿下に白々とある。

[石上 堅]

神の石、石の白

松浦・松王・松童(まつわらわ)などのマツは、神に侍する意の「まつらう」、すなわち仕えることで、日待(ひまち)・酉待(とりのまち)のマチと同じく祭事を意味している。松童などは、サヨ・サヤと似寄りの、石語りを説き歩く信仰者である。

 祭りを執り行う祭壇の石は甑(こしき)石・俎板(まないた)石とよばれる。調理した供え物を捧げる。鮭(さけ)・鯖(さば)などが石の上に跳ね上がったとも言い伝えられる。鯖は「産飯(さば)」に通じ、食物の少量を取り分けて鬼神などに供するもの。関西地方で、盆の生御魂(うぶみたま)のおりに、両親の魂栄(たまはや)しに刺鯖(さしさば)を持参し供える例と同じで、古くは魚類以外をもさした。

 神への供物は、祭儀のあとの直会(なおらい)に際し、人々に供される。祭りに加わらぬ人々は、祭壇には登れず、供献の品々に触れることも許されなかった。神の石、祭壇は、清く保たれねばならず、汚穢は忌まれた。

 白い石は、子供の夜泣きや女の乳房にかかわる病を癒(いや)すと伝えられている。しかし、白色は、清浄のみを意味するものではなく、恐怖すべき呪力・威力をも象徴した。たとえば、夜更けに、炉端に座り込んだ山姥(やまうば)に、白丸餅(しろまるもち)のかわりに白丸石を焼き与え、追い払う話は、炉辺に生き続ける数多い口承とともに、村々の子供たちを喜ばせてもいる。

[石上 堅]

『石上堅著『新・古代研究』全3巻(1978・雪華社)』『石上堅著『日本民俗語大辞典』(1984・桜楓社)』



石(こく)
こく

尺貫法の体積の単位。10斗(と)(100升)をいう。約180.39リットルにあたる。古代中国の相当する単位は斛(こく)で、石(せき)は質量の単位であったが、日本では固有の単位さか(斛)に近いこの石の音を借りてこの文字が用いられるようになった。石はまた船の積量にも用いられ、この場合の1石は10立方尺である。また木材の材積の場合は、縦横各1尺、長さ10尺をいう。

[小泉袈裟勝]

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改訂新版 世界大百科事典 「石」の意味・わかりやすい解説

石 (いし)

人類と石との関係はきわめて長くまた密接である。さまざまな形で石を利用することは,人類の歴史の最初の段階から現代まで,絶えることなく続いているが,ここでは,石に対して人類が抱いてきた観念を中心に記述する。なお,地質学的な解説は〈岩石〉〈鉱物〉の項を,石の利用については〈石器〉〈石材〉〈石造建築〉の項を,さらにその他〈石仏〉〈石工(いしく)〉〈巨石記念物〉〈宝石〉の項も参照されたい。

木と紙と草でできた家に住み,石や煉瓦で道路をおおうことのなかった日本人にとって,石とのかかわりは建築素材としてよりも宗教的な感性に触れる部分のほうが大きい。火山性の日本列島には花コウ岩や玄武岩をはじめとするきわめて多様な岩石が存在し,あるときは美しくあるときは畏怖させるような姿を地上にあらわしている。日本人の美的・宗教的な感性はこれらの石から深い影響をうけ,移ろいやすい感動や霊感や幻想を,また時の流れにあらがおうとする歴史意識を定着させ刻みつけるためのかっこうの民衆的メディアとして石を好んできた。石の信仰伝承は多様である。樹木の根元に置かれた自然石が神の依代(よりしろ)としてまつられたり,道祖神・屋敷神・エビス神の神体として石がまつられるほか,つねに湿り気を帯びていたり,生長し子どもを生むといわれる霊石は生石(いきいし)や子産(こうみ)石,孕(はらみ)石として信仰や説話の対象になっている。また磐座(いわくら)には神が降臨してくると考えられた。石には,神座石,御座石,影向(ようごう)石,休石,腰掛石,天降り石などがあり,その出現にはさまざまな奇瑞譚や伝説が伴っている。これらの多様な石伝承は想像力の人類学的構造として二つに分けることができる。一つは石が何かの動物などの姿に見たてられ,それに形状石伝説などが伴う場合である。これには牛石,蛙石などの伝承がある。この場合にはふつう不動のもの,生命なきものとされている石が生きものの姿などを連想させることで生物と非生物の境が侵され,そこから説話形成の運動がはじまるのである。石に残された模様や刻痕が何かを連想させる場合にもこれとよく似た想像力の機構が動いている。もう一つは,石の存在そのものが言い知れぬ神秘感,霊感,畏怖感などをあたえる場合である。石は大地という異界から生まれる。民俗的想像力にとって生命はこの異界からわきあがってくるが,そこはまた生命の朽ち落ちていく冥界でもある。石は地上の世界に異界を露頭させる存在なのである。一方,石にはまた不動のものという静的なイメージも備わっているため,異界の過剰な力がこの世に奔流してきてしまうのを石がくいとめているという側面もあり,このため石は不動のなかに不思議なうごめきを感じさせるのである。そういう石の二重性を凝縮してしめしている異例な石が選ばれ,霊的な生命力を宿す〈神の石〉としてまつられる。日本人にとって石は人の世界と異界をつなぐ媒介であった。
執筆者: 石の信仰をその機能から見ると,(1)村境に自然石,丸石,陰陽石などを立てて外からの悪霊や災難の侵入を防ぐ防災機能(石敢当(いしがんとう),道祖神や地蔵を含む石仏など),(2)石の軽重などで吉凶を占う卜占機能(力石,重軽(おもかる)石,伺石,唸(うなり)石,囀(さえずり)石,声石,鳴石,投げ占石など),(3)結界や道しるべとなる標示機能(女人禁制の結界石,比丘尼石,縁切石,小町石,ゴゼ石,虎子石,化粧石,念仏石,座頭石,聖石,矢立石,杖石などで伝説を伴ったものが多い),(4)安産,懐妊,縁結び,治病,手向けなど祈願のための石(陰陽石,夫婦石,雌石雄石,道祖神,撫(なで)石,疣(いぼ)石,疣洗い石,子育石,雨乞石,夜泣石,鏡石,沓石,手向け石,穴あき石の奉納,賽(さい)の河原の石積みなど)があり,そのほかにもものや動物の形をした形状石(牛石,猿石,鶏石,亀石,蛙石,蛇石,獅子石,冠石,烏帽子石,碁盤石,俎(まないた)石,手形石,足跡石など)や怪異をなす石(殺生石,人取石,毒石,化け石,戻石,揺ぎ石,血や涙を流す石など),伝説にちなむ石(焼餅石,馬洗石,手玉石,背競べ石など)等がみられる。これらは相互に入り組んでおり明確には分類できないが,石の信仰は石のもつ境界性や二重性に基づいているものが多い。
雲根志
執筆者:

日本神話には,日向に天降った皇室の祖先瓊瓊杵(ににぎ)尊が,土地の神大山祇(おおやまつみ)神から2人の娘を奉られたのに,妹の美女木花之開耶(このはなのさくや)姫だけを妻にめとり,醜い姉磐長(いわなが)姫は父のもとに返してしまったために,歴代の天皇の命が,岩のように堅固で永遠ではなくなり,花のように短くなってしまったという話が見いだされるが,石をこのように不死あるいは永生の象徴とみなす観念は,全人類に共通している。インドネシアのセラム島の神話によれば,太古に人間の形と運命につき,石とバナナとが,激しい論争をした。そして人間が,自分のように固く不死であるべきだと主張した石に対して,バナナの方が勝ったために,人間は現在の姿と死の運命を持つことになったのだという。ブラジルのカインガング族は,葬式の最後に,自分たちの身体に小石をなすりつけながら,石が不死であるように高齢でありたいという願いを唱える。イスラム教の聖地メッカのモスクの中心カーバには,大天使ガブリエルからアブラハムに与えられたと伝えられる黒石が,〈神の地上における真の右手〉としてまつられているが,このような〈神石〉の崇拝の歴史は人類とともに古い。古代の小アジアでも,フリュギアの大女神キュベレは,黒石を神体としていたが,その石が第2次ポエニ戦争の最中の前204年に,はるばるローマまでもたらされ,ハンニバルの猛攻から国を救った女神として,古代ローマ人の崇拝を受けることになった。古代ギリシアのデルフォイのアポロン神殿の奥殿には,そこが世界の中心であることを示すため,大地ガイアのへそオンファロスOmphalosをかたどった聖石が安置されていたが,このオンファロスに似た世界の中心を表す石の崇拝は,ケルト人のあいだでも盛んだったことが,フランスの諸処に残る習俗などから,確かめられている。聖石の崇拝は,日本においても縄文時代にすでに,明らかに男根をかたどった〈石棒〉の祭祀などの形で,行われていたことが確実と思われる。
執筆者:


石 (こく)

尺貫法の容量または体積の単位。(1)容量の単位。升の倍量単位で,10斗,すなわち100升に等しい。中国の漢の時代に10斗に等しい容量の単位を斛(こく)と定め,石(せき)は120斤=4鈞(きん)に等しい質量の単位であったが,宋の末に至り5斗を斛とし,10斗を石(せき)とした。ただし5斗を斛とする習慣は古く,宋代以前にさかのぼる。日本においても大宝令(701)以降10斗は斛であったが,遅くも平安時代末期までにはこれを石と書き,“こく”と訓じていたものと思われる。日本の斛ないし石も升とともにその大きさを変じたが,1891年の〈度量衡法〉により,10斗は石(こく)となり,その大きさも約180.39リットル(dm3)と定められた。しかし,この単位も尺貫法の廃止に伴い,1959年以降法定単位ではない。なお,中国では1929年以降,石(せき)は100リットルである。(2)体積の単位。材木の体積を表すのに用い,1尺平方×10尺,すなわち10立方尺に等しく,約0.278m3である。1平方尺×2間の尺〆(しやくじめ)に代わり,大正以降尺貫法廃止まで使われた。分量単位は才(さい)(=1/10000石)である。(3)積量の単位。和船の大きさを表すための単位で,1884年制定の《船舶積量測度規則》では10立方尺(約0.278m3)と定めていた。
執筆者:

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日本歴史地名大系 「石」の解説


うまやいし

[現在地名]三厩村 本町

集落北西の海岸際にある。伝説によれば、文治五年(一一八九)平泉ひらいずみ(現岩手県西磐井郡平泉町)から脱出した源義経が蝦夷地へ渡ろうとして、三匹の神馬を授かったところという。正保二年(一六四五)の津軽郡之絵図に「みまや岩高拾間北南へ弐拾壱間東西へ五間」とある。「津軽一統志」の古跡に次のようにあり、古くからの義経伝説の地である。

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岩石学辞典 「石」の解説

石という語は様々な意味に使用される.日本では,(1) 岩よりも小さく,砂よりも大きい鉱物質の塊.(2) 岩石,鉱石の俗称,石材の意味.(3) 宝石または特定の鉱物加工品.(4) その他に,胆石,結石,じゃんけんの握り拳,固いもの,無情なもの,融通の利かないものなどの比喩的表現,など多くの意味で用いられている[新村編 : 1993].外国語の中で英語の例をあげると,stoneは(1) 岩石(rock)を構成する物質としての石,石材.(2) 石,小石,石ころで,boulder, cobblestone, pebble, gravelの順に小さくなる.(3) 宝石.(4) ストーンは,様々な値の重量単位でstと書き,14ポンド(6.35kg)に相当する英国の単位で,特に体重について用いる.(5) その他に,大きさ,形,硬さが石に似ているもので,雹(ひょう)や霰(あられ)(heilstone)など.ナツメヤシの果実など石のように堅くて小さな種.核.サクランボや桃などの核果の堅い内果皮.(8) 結石.(9) 墓石,墓碑,記念碑,里程標,境界標石,などをいう[ランダムハウス : 1994].また英国でstoneという語は鉱山業および石材業では,特に述べない限り砂岩に用いる[Arkell & Tomkeieff : 1953].日本語の意味と,英語の意味とは大体似ているが,かなり異なる意味に用いられていることもある.

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「石」の解説


こく

(1)古くは「さか」とも。斛とも。容積の単位。斗の10倍,升の100倍。約180.39リットルに相当。米をはじめとする穀物の計量によく用いられ,江戸時代には俸禄や領地からの玄米収穫高(石高)に表示されるなど,重要な意味をもつ単位。(2)和船の積載量の単位。古くから,船荷は米を主としたので,船に積みこむことのできる米俵を目安として設定され,米1石の重量にもとづく単位として千石船などとよんだ。やがて船の航(かわら)(船底)の長さ・幅・深さを尺で計り,3者の積を10で割って求めるようになったが,1884年(明治17)以降は1石が10立方尺と決められた。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

百科事典マイペディア 「石」の意味・わかりやすい解説

石【こく】

(1)尺貫法の体積の単位。1石=10斗=100升≒180.4l≒0.1804m3。(2)木材・石材の体積の単位。1石=10立方尺≒0.2783m3。(3)和船の積載量の単位。船舶積量測度規則(1884年―1914年)によれば,1石=10立方尺。

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単位名がわかる辞典 「石」の解説

こく【石】

➀体積の単位。1斗の10倍。1石は約180ℓ。中国では古代から、日本では8世紀初めから用いられた。
➁尺貫法の船や材木の大きさの単位。形にはかかわりなく、1石は10立方尺。約0.278m3

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「石」の解説

いし

丹波局(たんばのつぼね)(3)

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「石」の解説

CPUやICを指して「石」と呼ぶことがある。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【石】より

…升の倍量単位で,10斗,すなわち100升に等しい。中国の漢の時代に10斗に等しい容量の単位を斛(こく)と定め,石(せき)は120斤=4鈞(きん)に等しい質量の単位であったが,宋の末に至り5斗を斛とし,10斗を石(せき)とした。ただし5斗を斛とする習慣は古く,宋代以前にさかのぼる。…

【度量衡】より


【史上の度量衡】
 中国の《書経》の後につけられた注疏(ちゆうそ)を見ると,〈度はこれ丈尺,量はこれ斛斗,衡はこれ斤両〉とあり,国の法制度としてこれらを等しくしておくのだといった説明がなされている。ここにいう丈,尺,斛(石とも書く)などは,ものごとを数量的に表現するための〈単位〉の呼名である。つまり,上掲の文は,度,量,衡それぞれの代表的な単位の名称を二つずつあげているものと解される。…

【道祖神】より

…サエノカミ(塞の神),ドウロクジン(道陸神),フナドガミ(岐神)などとも呼ばれ,村の境域に置かれて外部から侵入する邪霊,悪鬼,疫神などをさえぎったり,はねかえそうとする民俗神である。陰陽石や丸石などの自然石をまつったものから,男女二神の結び合う姿を彫り込んだもの(双体道祖神)まで,この神の表徴は多様である。道祖神は境界的,両義的な特性においてきわだっている。…

【材積】より

…なお,一定面積当りの森林の幹材積の合計は林分材積または蓄積とよばれている。 材積の単位は現在の日本ではm3が用いられているが,古くは石(こく)(10立方尺=0.278m3)が広く用いられ,ほかに1尺角,長さ12尺(2間)の角材を尺締(しやくじめ)(または尺〆(しやくじめ)),1寸角,長さ6尺の角材を才(さい)とよぶなどの単位があった。ただし尺締,才の長さは地方によって一定していない。…

※「石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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