古墳時代の遺物のうち,滑石あるいは緑色凝灰岩などの,加工しやすい石材を用いて器物の形を模造し,祭祀の供物などにあてたものの総称。同時に土製品や鉄製品も使用しているので,それぞれ土製模造品,鉄製模造品とよんで区別する。石製模造品として作った器物の種類には,武器武具--刀子(とうす)・剣・鏃・弓・短甲・盾,服飾具--鏡・勾玉・小玉・櫛・下駄,農工具--斧・たがね・のみ・鉇(やりがんな)・鎌・鍬・鋤,酒造具--坩(つぼ)・甑(こしき)・盤(さら)・槽(ふね)・案・臼・杵,機織具--紡錘車・梭(ひ)・筬(おさ)・滕(ちきり)・腰掛けなどがある。なお,ほかに沖ノ島祭祀遺跡から滑石製の人形(ひとがた)・馬・舟などが多量に出土しているが,奈良時代のものであるから,石製形代(かたしろ)とよんで区別する(沖島(おきのしま))。
石製模造品には,器物の全形を作ったものと,特定の部分にかぎったものとがある。たとえば,刀子は把(つか)をつけ鞘(さや)にいれた全形を模造するが,斧や鎌は鉄製の頭部のみで,柄の形までは作らない。全形を作った鉇は,太さに対して全長を短く縮め,薄いはずの櫛は実物とちがって厚く作ってある。もとの器物の大きさに似ているものもあれば,短甲や盾のように,はるかに縮小して象徴的に表現したものもある。さらに石製模造品には,もとの器物とは無関係な小さい孔をあけて,紐でつりさげるように作ったものが多い。棺内に副葬してあるのを見ても,方向をそろえず散乱した状態を示し,榊の枝などに飾りつけておいたことを推察させる。一方,酒造具や機織具などをかたどった,比較的大きな石製模造品の各種1点ずつを一組として副葬したものは,垂下するための孔もなく,並置したもののようである。
石製模造品は,はじめは緑色凝灰岩を材料として,比較的忠実に形をうつしていたが,しだいに滑石を用いて小型に簡略化する傾向をみせ,それと同時に,同じ種類のものを多量に使用するように変化したのである。石製模造品の出現を4世紀の後葉におくと,同種多量化の傾向は5世紀に顕著にあらわれた。石製模造品は,古墳の副葬品として埋葬にともなっている場合と,埋葬とは関係のない祭祀遺跡から出土する場合とがある。石製模造品を出土する祭祀遺跡には,6世紀に下るものが多い。祭祀遺跡から出土するということは,各種の模造品の多くが,祭祀にあたってただ一度の使用を目的としたものであることを教える。しかし,古墳出土品のなかには,被葬者が生前に使用した,儀式用の祭器をふくんでいる可能性はのこる。
なお中国でも戦国末ないし前漢初に,滑石で葬送用の模造品を作ることがあった。壺(こ)・鈁(ほう)・鼎(てい)・釜(ふ)・甑(そう)・洗・椀・耳杯などの容器のほか,鏡・璧(へき)・帯鉤(たいこう)などをかたどったものが,長沙・蕪湖・広州などの古墓から出土している。しかし,その後の時代にはまだ類品が見つかっていない。日本の石製模造品との関係も現状では認めることができない。
執筆者:小林 行雄
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とくに古墳時代を中心とした、軟質の岩石でつくられた、まつり用の模造品をいう。多くは青緑色で、滑石質の岩石による形代(かたしろ)である。
ていねいに模造されたものも初期にはあるが、多量、粗製化したものが、古墳内部主体内、祭祀(さいし)遺跡などから発見される。おもなものには、有鈕(ゆうちゅう)鏡、有孔円板、玉類(勾玉(まがたま)、管(くだ)玉、棗(なつめ)玉、臼玉など)、釧(くしろ)、櫛(くし)、剣形(けんがた)、刀子(とうす)、鏃(やじり)、甲(よろい)、盾(たて)、斧(おの)、鎌(かま)、鑿(のみ)、鉇(やりがんな)、鍬(くわ)、鋤(すき)、機織具、紡錘車、案、まないた、槽、容器(坏(つき)、坩(つぼ)、甑(こしき)など)、人形、馬形、舟形、鐸(たく)形、子持(こもち)勾玉などがある。古墳時代前期の碧玉(へきぎょく)質岩を使用した石製品の影響を受け、和泉(いずみ)黄金(こがね)塚、伊賀石山古墳、室宮山(むろみややま)古墳など前期から中期の古墳に多い。祭祀遺跡では5世紀代の遺物にていねいな作りのものがあるが、遺跡数のもっとも多いのは6世紀初頭ごろと思われ、青森県から熊本県まで分布する。その後半にはほとんど使用されなくなるが、宗像(むなかた)沖ノ島や、関東地方の一部では、形状のかなり異なるものが7~8世紀代にも少量みられる。人形、馬形、舟形などはこの時期に特徴的な遺物といえる。
また古墳の粗造多量化したものでは、玉類のほか、刀子、斧、鎌などの工具のセットが多く、祭祀遺跡では、鏡の極端な省略形とみられる有孔円板、剣形品が玉類とともにみられ、意識の差が表れる一方、東国には剣形品が、西には有孔円板が多い。とくに九州では単孔の円板が多いなどの地域差もみられる。
なお玉造りの系統を引く集団による製作工房址(し)も発見されている。
[椙山林継]
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