温泉の湧出する砂浜などで全身を砂中に埋めて蒸し温める方法で,鹿児島県指宿(いぶすき)では〈天然砂蒸し温泉〉,大分県別府では〈砂湯〉(古くは沙湯)と称する。特に指宿では摺ヶ浜(すりがはま)を中心に汀線近くに泉源があり,南北約1kmにわたる砂浜で砂浴が可能である。温度は最高85℃で,浴衣に着替えて利用するが,砂浴の温度は砂の掘り下げぐあいによって調節でき,1回の砂浴は10~15分が適当とされる。泉質はアルカリ性食塩泉で胃腸病,神経痛,婦人病,冷え症,リウマチ等に効用があるという。かつては干潮時しか砂浴ができなかったが,1975年人工砂蒸し場がつくられ,満潮時も砂浴が可能である。この砂蒸し温泉には年間10万人の観光客(1982年度)が訪れ,外国からの観光客には和風サウナとして人気がある。この砂蒸し温泉がいつごろから利用されているか定かではないが,《三国名勝図会》巻二十一(1843)には〈拾弐町村にあり,温泉海渚に出つ。此地沙蒸を用ゆ。病客沙を穿て横に臥し,暖沙を覆ふて其身を温む。是を沙蒸といふ。潮退し時は,沙蒸場更に広し。又沙蒸場より数歩陸地の方に浴地を設けたる温泉ありて,病客沙蒸より出る時は,其浴池に入て,身を洗ひ浄む。……〉とある。一方,別府の砂湯について1694年この地を訪れた貝原益軒が,《豊国記行》に〈潮干ぬれば,潟の内に所々温泉流れいづ。潮湯也。病をよく治すとて入浴するもの多し〉と記している。この潮湯とは今でいう砂湯である。この砂湯は《和漢三才図会》(1712)などにも記されている。別府の屋外砂湯は護岸工事のために1970年ころから使用不能となり,今日では屋内に砂浴槽をつくり,パイプにより温泉を引き入れ,30人ほどが利用できる小規模な人工の砂湯となって残存している。
中国やエジプトには今日でも砂浴による病気治療の方法がある。天山山脈東麓のトゥルファン(吐魯番)には,砂漠の中で午後涼しくなってから傘などで日陰をつくり,腰をおろし50℃前後の砂でリウマチや神経痛の治療をする〈砂浴び〉という方法があり,このため300~1000人ほど収容できるサナトリウムがある。同じような病気治療の方法はエジプトの砂漠などでもみられる。
執筆者:白坂 蕃
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