なんらかの願望がかなえられるよう神仏に対して行う一種の呪術作法。本来密教では加持は如来の大悲と衆生の信心を指し,祈禱は攘災治病等の現世求福を意味するものとして区別されるが,一般には両者は同義に使用される。加持では真言行者が手に印を結び口に真言を誦し心に仏菩薩を観じ,いわゆる三密加持を行う。日本の宮中で平安中期より毎年正月に行われる後七日御修法(ごしちにちのみしゆほう)では東寺長者が加持香水をもって天皇にそそぎかけ安穏を祈念する。祈禱と同様な意味から虫加持,病人加持,井戸加持,帯加持,土砂加持等と称する作法がある。つぎに祈禱については仏教・陰陽道の伝来によりさまざまの公的行事が成立した。とくに御斎会(みさいえ)・仁王(にんのう)会・維摩会の南都三大会,興福寺法華会・法勝寺大乗会・円宗寺最勝会の北京三大会などは勅修による恒例祈禱行事の代表的なものであるが,もっぱら天皇個人の安穏のため祈禱に当たる護持僧は平安朝に始まり,延暦寺,園城寺,東寺の高僧から選ばれ,恒例・臨時に作法を修した。はじめ1人であったが,鎌倉期には6~7人となり,交代して長日不断の祈禱を勤め,延暦寺は如意輪,園城寺は不動ないし如意輪,東寺は普賢を本尊とした。臨時の祈禱としては洪水,干ばつ,天変地異,疾病,御産,兵革等によるものが多く,それに応じて請雨法,孔雀王法,仏眼法,尊星法,七仏薬師法,愛染王法,北斗法以下おびただしい顕密呪法が用意された。鎌倉新仏教の中にも祈禱をとりいれたものがある。日蓮は祈禱を重んじて末法行者のため《祈禱抄》を著しただけあって,後世宗派では種々の護符を出し,呪法を行った。曹洞宗では南北朝ころより宗風の民衆化をはかって加持祈禱の傾向を強め,医療や土木事業等にこれを修した。また平安朝以来陰陽道でも現世利益的なさまざまの祭法の中で盛んに祈禱を行い,これが修験者にとりいれられ,行脚(あんぎや)修行の際,在家を訪れて医療その他の災厄除祓に活躍した。
執筆者:村山 修一
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おもに世俗的な願望の成就を目的に神仏に対して行われる密教の呪術的行為をいう。本来,加持と祈祷とは別義で,加持は加護の意で仏菩薩が人々を守り加護することを意味したが,とくに密教修法上の作法をいい,行者が手に諸仏諸尊の印契(いんげい)を結び(身密(しんみつ)),口に真言を唱え(口密(くみつ)),心も仏の心境に住する(意密)ことで,仏の三密と行者の三業(さんごう)が一体になると説いたことから,転じて密教で行う修法を意味するようになった。密教の隆盛した平安時代以降,もっぱら経文などの読誦(どくじゅ)により神仏に祈って利益(りやく)を期待する祈祷と同一視され併称されるようになった。日蓮宗も盛んに行い,修験者も積極的にとりいれたため,民間に深く浸透した。
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