改訂新版 世界大百科事典 「神経因性膀胱機能障害」の意味・わかりやすい解説
神経因性膀胱機能障害 (しんけいいんせいぼうこうきのうしょうがい)
neurogenic bladder
膀胱の運動や知覚を支配している神経が障害され,排尿などの正常な膀胱の機能がそこなわれている状態をいう。単に神経因性膀胱ともいう。排尿をつかさどる中枢は脳と仙髄(脊髄の下部)の2ヵ所にあり,この中枢とそれぞれを結ぶ神経のどこかに障害が起こると本症が発生する。脳の中枢は膀胱の無意識な収縮を抑制する作用があるため,脳出血や脳動脈硬化症などでこの中枢が障害をうけると,膀胱はわずかの刺激で収縮し尿をもらしてしまう(尿失禁)。このため排尿回数は増加(頻尿)し,1回の排尿量は減少する。これを無抑制性神経因性膀胱と呼ぶ。一方,仙髄の中枢は膀胱の収縮に関与しているため,交通事故による脊髄外傷や骨盤内の手術あるいは神経炎などによって仙髄中枢やここから膀胱へ達する末梢神経が障害されると,膀胱に尿が大量にたまっても自発的に排尿することができなくなる。これを無緊張性神経因性膀胱と呼ぶ。このようにして,尿が膀胱にたまると,膀胱炎や尿路感染症,水腎症を併発しやすい。治療には膀胱の訓練や薬物療法あるいは外科的療法が行われるが,一般に完全に治癒することは困難である。
執筆者:上野 精
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報