人の高次の精神活動を脳の構造との関連において研究する学問分野。失語,失行,失認を脳障害との関連で研究する大脳病理学Gehirnpathologieはドイツ語圏で発達したが,1960年以降,アメリカを中心に,失語,失行,失認に正常人の言語・行為・認知機構についての実験や動物実験を研究対象に加え,大脳病理学にかえて神経心理学という用語が用いられるようになった。言語,行為,認知は人が精神活動を営むための道具なので,失語,失行,失認は道具障害といわれ,聾啞(ろうあ),運動麻痺,感覚麻痺などの末梢神経障害ではなく,中枢神経障害による高次の象徴機能の障害とされる。
大脳病理学の歴史は,リヒトハイムL.Lichtheim,クライストK.Kleistらに代表され,脳機能の解剖学的局在を重視し,失語,失行,失認を脳の巣症状(局在症状)とする局在論と,ジャクソンJ.H.Jackson,H.ベルグソン,マリーP.MarieからヘッドH.Head,ゴルトシュタインK.Goldsteinに至る心理学的障害や知性障害を重視する全体論との抗争の歴史である。19世紀から20世紀初頭は局在論全盛の時代であったが,20世紀に入ってからは局在論に対して全体論からの厳しい批判が行われた。しかし,1962年に至り,ゲシュウィントN.Geschwindらによる離断症候群の発見があって以来,スペリーR.W.Sperry,ガッツァニーガM.S.Gazzanigaらによって局在論が見直され,再び全盛時代を迎えている。しかし,脳の局在障害による症状は直ちに脳のその場所の局在症状のみを表すものではなく,関連する脳の他の部位の機能障害とこれらの障害に対する代償作用を含むものである。
執筆者:石黒 健夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…いずれにしても生理学的心理学はだいたいにおいて心理学的現象を生理学的過程によって説明しようとする立場にたっている。なお,近年確立してきた神経心理学neuropsychologyは言語,認識,行為などの高次の心理機能に対応する脳の生理学的機構を明らかにしようとするものであり,生理学的心理学に属するとされる。【児玉 憲典】。…
※「神経心理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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