聾啞(読み)ろうあ(その他表記)deaf mutism

改訂新版 世界大百科事典 「聾啞」の意味・わかりやすい解説

聾啞 (ろうあ)
deaf mutism

聾啞は今日あまり用いられない言葉ではあるが,いわゆる高度難聴を聾といい,生まれつき,または生後3歳以内に高度の難聴になったために,言語学習ができなくて発語のできない状態を聾啞という。歴史的には〈みみしい〉,俗語としては〈つんぼ〉という言葉が使われた。なお,聴覚障害はないが,言語の発達が遅れてほとんど話すことができない状態を聴啞という。また,聾啞または聴啞で話すことができない状態を歴史的には〈おおし〉または〈おし〉といった。今日では文部省では3歳児からの難聴児の早期教育を行い,さらに低年齢(0~3歳)の子どもの早期補聴器装用,発語訓練を行っているので,発語もうまくなり,かつての概念の聾や聾啞はほとんどいなくなりつつある。

 聾の定義は法律によって異なり,身体障害者福祉法(身障法)などでは平均聴力損失90dB以上(平均聴力レベル100dB以上),労働者災害補償保険法(労災法)では平均聴力損失80dB以上(平均聴力レベル90dB以上)の者とされる。さらにこの2法で平均聴力損失,平均聴力レベルの算定方法も異なり,身障法では500Hz+2×1000Hz+2000Hzの聴力レベルを4で割ったもの,労災法では500Hz+2×(1000Hz+2000Hz)+4000Hzの聴力レベルを6で割ったものを平均聴力レベル(損失)という。また福祉手当支給基準では,500Hz,1000Hz,2000Hzの音をいずれもオーディオメーターの100dBの聴力レベルでも反応しない者を聾として扱っている。

 聾啞になるいわゆる言語習得期以前の高度難聴の原因には,遺伝性のもの,胎児期の母体の状態によるもの(風疹感染,サリドマイド服用),出産周辺期の障害(仮死分娩,新生児黄疸),生後性のもの(measles(はしか),mumps(流行性耳下腺炎),meningitis(髄膜炎)が主で,3Mと呼ばれる)などがあるが,そのほかにアミノ酸糖体系の抗生物質,とくにストレプトマイシンゲンタマイシンなどの使用がある。96年度末現在,聾啞の発生は1万人当りおよそ6人内外とされる。実際,全国の聾学校幼稚部1309人に対し幼稚園児は179万人で,1万人に対して7.27人となっている。しかし小学校では1万人当り聾学校の生徒は2.82人と少なくなり,中学生は3.03人と多くなっていた。これらを総合して考えると,聾学校幼稚部の教育がうまくいくので,小学校は普通小学校に進む者が多くなるが,小学校高学年になると難聴・発語などで学業についていくのが難しくなり,中学では聾学校にもどると考えてよい。

 一般に一度言語を覚えた6歳以降に高度の両側感音難聴になった者は,言語,発語を覚えているので,つねに発語させるようにすればあまり発語にひずみを生じてこない。しかし普通に話すと相手が普通に聞こえると思って話しかけてきて,本人がそれを理解できないので,一般に無口になり,その結果,発語方法を忘れてひずみが生じてくる。4歳以下で高度難聴になると,かなり早く発語法を忘れてしまい,発語障害を起こしやすい。

 現在,各地方自治体に身体障害者更生相談所があり,難聴児の早期発見・早期療育に熱心に専念している。したがって生まれて間もなく音に対する反応が起きにくいようであれば,各地区の児童相談所,更生相談所,または聾学校に相談に行くとよい。聴力については,乳幼児を扱っている耳鼻科医はあまり多くはないので,耳鼻科医に紹介してもらって専門の医師の診断を受けることを勧める。生後6ヵ月~1歳以内に難聴の程度がわかれば,児童福祉法による補聴器の交付を受けて,聾学校幼稚部,児童相談所・療育センターなどで聴能訓練を受ける。聴能訓練は単に学校にいる間だけの問題ではなく,家庭においてもたいせつなものであり,とくに母親はあるカリキュラムに従って聴能訓練の一番の訓練士になる必要がある。また難聴児親の会なども各地にでき横の連絡もうまくとれているので,こうした所で相談することによって,できるだけ障害を少なくすることができる。なお近年,人工内耳手術も進められている。
聴力検査 →難聴
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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