神経性頻尿(読み)しんけいせいひんにょう(その他表記)Pollakisuria Nervosa

EBM 正しい治療がわかる本 「神経性頻尿」の解説

神経性頻尿(膀胱神経症)

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 試験や発表会の直前など精神的に緊張する場面が訪れると、突然尿意をもよおすことがあります。神経性頻尿(しんけいせいひんにょう)(膀胱神経症(ぼうこうしんけいしょう))は、このような状態が日常的に続くものです。
 2時間以下の間隔排尿があり、昼間に8回以上トイレに行くようなら頻尿といえるでしょう。精神的な原因でおこるため夜間の頻尿はみられず、昼間でもなにかに熱中していると尿意を感じないのが特徴です。排尿痛発熱もなく、尿検査をしてもとくに異常は見つかりません。
 
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 排尿の回数は、一般に1日の尿量と膀胱の大きさで決まります。
 膀胱の正常な容量は、200~300ミリリットル程度です。ふつう、膀胱に150ミリリットルほど尿がたまると軽い尿意を覚え、250ミリリットルたまると強い尿意を覚えるとされています。
 健康な人の排尿回数は1日に7回ほどで、1日の尿量は1500ミリリットル程度です。たびたび尿意を覚えても、1回の排尿量が少なく、夜間は頻尿がないという場合は、体の異常よりも精神的なものが原因となる、神経性頻尿と考えられます。
 学校や職場、家庭でのストレス、いじめ、暴行、事故や災害などが発病のきっかけになることが多いようです。外出や仕事時に頻尿がおこることを非常に恐れるようになり、日常生活に支障をきたすようになります。また、すぐにトイレに行きたくなるのではという不安が、かえって尿意を招く悪循環をおこす場合もあります。
 真面目(まじめ)で几帳面(きちょうめん)、責任感が強いといった性格の人によくみられ、抑うつ症状を引きおこすこともあります。
 なお、似た名前の神経因性膀胱は、尿意をつかさどる神経に障害のある、まったく別の病気です。
 
●病気の特徴
 神経質な人、とくに女性に多いとされています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]排尿時刻や排尿量を記録する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 少なくとも48時間にわたり、排尿があるたびにその時間と量を記録します。また、排尿前の行動(コーヒー飲用や運動の有無など)や睡眠時間なども書いておきます。これらの情報は、診断の際だけでなく、その後の認知行動療法などの治療においてもたいへん重要です。(1)
[治療とケア]抗コリン薬を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] ときには抗コリン薬を用いることがあります。専門家の意見や経験から支持されています。
[治療とケア]認知行動療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 頻尿がおこる行動パターン(場面)の認知を段階的に進め、不安を取り除く精神療法は、薬物療法との併用では有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(2)


よく使われている薬をEBMでチェック

頻尿治療薬
[薬名]ポラキス(オキシブチニン塩酸塩)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 心理療法の一つである認知行動療法と組み合わせることで、80パーセント以上の患者さんに排尿回数が減ったり、不安感が軽くなったりするなどの効果があったと報告されています。その効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されていますが、失禁の減少にはつながっていないようです。
[薬名]バップフォー(プロピベリン塩酸塩)(3)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 治療効果はあるとの報告があるようですが、効果の程度についての信頼性の高い臨床研究は見あたりません。
[薬名]ブラダロン(フラボキサート塩酸塩)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 専門家の経験や意見から支持されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
行動療法と薬物療法が柱
 病歴と血液・尿検査で腎(じん)・尿路に器質的な病気がないことを確かめて、神経性頻尿であることがほぼ確実になったなら、カウンセリングを含む行動療法と薬物療法のいずれか、あるいは双方を用いて治療することになります。

排尿記録で頻尿への不安を軽減
 排尿時刻や排尿量を記録することで、まず、どのような状況下に置かれると尿意をもよおし、排尿が多くなるのかがわかります。そのことを意識できるだけで、つまり、こんなときには頻繁に尿意をもよおすことになるのだなと自覚し、頻尿になることをあらかじめ予期できるだけで、おこったとしてもそれに伴う不安感は軽減されます。
 そして、不安感が少なくなることで頻尿の程度がやわらぐ可能性があります。
 また、あらかじめ避けることができるもの(たとえば利尿作用のあるコーヒーなど)については、できるだけそれを避けることで無用な頻尿を予防できることになります。
 
薬物はポラキスが第一選択
 薬物では、ポラキス(オキシブチニン塩酸塩)、バップフォー(プロピベリン塩酸塩)、ブラダロン(フラボキサート塩酸塩)などが使用可能ですが、有効性を示した根拠の強さからいって、まず神経性頻尿治療薬のポラキスを用いるのが実際的でしょう。
 服薬中は、副作用の有無に注意を払う必要があります。

(1)Wyman JF, ChoiSC, Harkins SW, et al. The urinary diary in evaluation of incontinent women: a test-retest analysis. Obstet Gynecol. 1988;71:812-817.
(2)Szonyi G, Collas DM, Ding YY, et al. Oxybutynin with bladder retraining for detrusor instability in elderly people: a randomized controlled trial. Age Ageing. 1995;24:287-291.
(3)Watanabe H, Uchida M, Kojima M. Clinical effect of propiverine hydrochloride on urinary incontinence. Hinyokika Kiyo. 1998;44:199-206.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

家庭医学館 「神経性頻尿」の解説

しんけいせいひんにょう【神経性頻尿 Pollakisuria Nervosa】

[どんな病気か]
 頻尿とは、日中の起床中の排尿(はいにょう)回数が、おおよそ10回以上の場合をいいます。
 頻尿は、さまざまな器官の病気(もっとも多いのは膀胱炎(ぼうこうえん)や前立腺炎(ぜんりつせんえん)に代表される下部尿路(かぶにょうろ)の炎症)によっておこりますが、このような原因がはっきりとしない場合、神経性頻尿と診断されるのがふつうです。
 厳密には、神経性頻尿はさらに心因性(しんいんせい)頻尿と本態性(ほんたいせい)頻尿に分けられます。
 心因性頻尿とは、心の不調がからだの不調として現われる心身症(しんしんしょう)(「心身症」)の一種です。膀胱は、精神的・感情的作用を受けやすい臓器の1つで、心臓や脳などとともに心身症が現われやすく、膀胱に現われるときは、残尿感(ざんにょうかん)、まったく尿が出なくなる尿閉(にょうへい)とともに頻尿がよく現われます。
 本態性頻尿とは心因性でもなく、ほんとうに原因不明の頻尿をいいます。
 この両者は区別すべきですが、ここでは一括して説明することにします。
[症状]
 症状は頻尿だけで、失禁(しっきん)はみられません。頻尿も睡眠中はないのが特徴です。
 誘因である情緒不安定が慢性化すると、勤務中や授業中、電車やバスの乗車中などに、強い尿意に悩まされます。これが日常生活に支障が出るほどになると、治療の対象となります。
[原因]
 からだにはっきりした異常はないので、原因ではなく誘因として説明します。
 誘因はさまざまで、家族の不和、会社での失敗、対人関係などによる情緒不安定、過去に下部尿路の病気にかかったことなどがあげられ、おもに青壮年期の女性に多くみられる病気です。
[検査と診断]
 診断には、まず頻尿の原因がほかの病気である可能性を取り除きます。
 頻尿だけで、痛み、排尿困難、血尿(けつにょう)、失禁などの症状をともなわず、尿検査でも異常がありません。
 1日の尿量は正常範囲内であり、膀胱は大きくなったり小さくなったりもしていません。残尿もありません。
 脳血管障害やパーキンソン病(「パーキンソン病(特発性パーキンソニズム)」)などでは、排尿筋が意志と無関係に収縮し、頻尿がおこりますが、この場合は、原因が容易に判断できます。
 ときに、潜在的にあった神経因性膀胱障害(「神経因性膀胱」)や、婦人科に特有の病気が原因である可能性もありますので、見落とさないよう注意が必要です。これらの可能性がまったくないとなれば、神経性頻尿と診断されます。
[治療]
 その原因(誘因)から考えて、精神的アプローチによる治療が中心となります。まず初めに、からだには病気がまったくないという医師の説明を、理解し、納得する必要があります。そして、その原因を明らかにし、治療するには、患者さん自身がそのことを自覚して解決するほかにない病気であることを認識しましょう。
 複雑な精神的背景があると思われる場合、心療内科や精神科の医師の指導や治療を受ける必要もあります。
 薬物療法は、補助的なものにすぎませんが、ときに暗示的な効果もあってか、よく効く場合もあります。この場合、精神安定剤、精神神経調整薬などが主体となります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android