科学革命と大学(読み)かがくかくめいとだいがく

大学事典 「科学革命と大学」の解説

科学革命と大学
かがくかくめいとだいがく

16世紀から18世紀にかけて起こったとされる科学革命には,おもに四つの学問分野とその変革が関係している。第1に,コペルニクスティコ・ブラーエケプラー,そしてニュートンに連なる天文学の革新とそれによる宇宙像の転換である。第2に,第1と関係するが,ガリレオ・ガリレイらによる機械学と静力学系譜である。第3に,大学教授として初めて解剖を行った解剖学者ヴェサリウス,血液循環の発見者であるハーヴェイ腎臓マルピーギ小体や昆虫マルピーギ管を発見したマルピーギらによる16~17世紀の医学・生命科学の新展開,そして第4に,これは上の医学にも関係するが,パラケルススヘルモントによる中世以来の錬金術から発展した実験を中心とする化学哲学である。さらに化学の革新という意味では,18世紀末のフランス革命期でのラヴォアジェ,A.deの定量的化学実験の開拓も科学革命の範疇に入る。また,17世紀のイギリスでは実験哲学が盛んとなり,それを先導したボイル,R.は錬金術,化学,今日の物理学など多分野にわたって実験を行い,化学を中心として,現在の自然科学の基礎をつくって科学革命に貢献した。

 のちに「科学的」と呼ぶ上記のことがらが革命的であった理由は,①それによって,それまで西洋世界で維持されてきたアリストテレス的自然観,たとえば地球は宇宙の中心であり,宇宙は月下界天上界に分かれていて,そこでは別の法則が支配すること,また地上では,物体は等速運動をするだけで,その落下速度は物体の重さに比例するなどの考えを放棄して新しい自然観を持つようになったこと,そして,②それが天体や物体の運動,生物の機能や構造を観察だけではなく,実験を用いて明らかにしようとしたこと,さらに,とくにニュートンやガリレオの仕事においてそうであるが,③数学を用いて観測される現象を定式化しようとしたことである。①は結果として世界像の転換として重要であるが,②③は自然現象に立ち向かうときの,それまでにはなかった手法の革新として捉えることができる。

 この実験と数学の利用が,科学革命において大学の果たした役割と深い関係を持っている。今日の天文学や物理学につながる,コペルニクスの太陽中心説(地動説),ケプラーによる惑星の楕円軌道の発見,ニュートンによる万有引力の発見と数学による定式化,ガリレオ・ガリレイによる落体の法則の発見においては,大学の果たした役割は必ずしも大きくはなかった。確かにニュートン,I.はケンブリッジ大学教授となり,ガリレオもパドヴァ大学教授を務めたが,コペルニクス,N.は司祭として働く中で「天球の回転について」を発表し,ティコ・ブラーエは貴族であり大学外で観測を行い,ケプラー,J.はおもに宮廷付学者として観測と研究を続けた。ガリレオは大学を辞して宮廷付きの学者となった。彼らにはみな,数学への深い傾倒がある。当時の大学は,中世後期以来のスコラ学の教育がその機能の中心であったから,実験を行い,その結果を数学により説明するという,今日の経験主義的な研究につながっていく考え方は,科学革命期とそれ以前の多くの大学教師にとってなじみの少ないものであった。

 14~16世紀のルネサンスの影響も大きい。12世紀ごろから,鉱山の開発や戦争によって鉱山技術と軍事技術は発達してきていたが,15世紀の大航海時代と重なるルネサンス期には技術の発展飛躍的発展があった。数学を用いて技術を定量化したレオナルド・ダ・ヴィンチによりそれは象徴される。また,アルキメデスの著作がこの時期(16世紀)に翻訳され,技術およびそこでの数学の重要性や実験を尊ぶ風潮が加速された。ガリレオはアルキメデスの影響を大きく受けた機械学者でもある。このように,科学革命に密接に関係した技術と数学の発展はおもに大学の外で起こった。そして,これには技術が古代ギリシア以来,機械技芸として卑しめられ,大学の中に取り入れられなかったことも関係していよう。

 一方,医学・生命科学分野での科学革命には,ほぼ在野の学者として過ごしたパラケルススによる貢献を除いて,大学が重要な役割を果たしている。上記のヴェサリウス,A.はライデン大学に学びパドヴァ大学で教授となり,ハーヴェイ,W.も血液循環説の発見のもとになった医学を留学先のパドヴァ大学で学んでおり,マルピーギ,M.は長く大学教授を務めた。また医学部には16世紀以降,解剖学教室以外にも,実験を行うのに必要な化学実験室や植物園などが設けられている。

 科学革命は科学を通じて人が交流し,また実験による研究成果を発表する協会やアカデミーを生む契機の一つとなったことにおいても重要である。フランスでは,専門家集団としての王立科学アカデミー(フランス)が,ルイ14世によってパリに1666年に設立され,ラヴォアジェもそのメンバーであった。またボイル,R.は科学の愛好者が集まった自立的組織であるロンドンの王立協会(1660年創立)の主要メンバーで,多くの実験を行い公開した。王立協会発行の『フィロソフィカル・トランザクションズ』(Philosophical Transactions)は1665年に創刊され,現在も発行されている世界で最も古い科学雑誌である。これらの学協会は,その後各国各地に設立され,大学等での科学の発展と科学者の交流に重要な役割を果たしている。
著者: 赤羽良一

参考文献: ジョン・ヘンリー著,東慎一郎訳『一七世紀科学革命』岩波書店,2005.

参考文献: ピーター・ディア著,高橋憲一訳『知識と経験の革命』みすず書房,2012.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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