日本音楽および舞踊の曲格用語。特別の家系の者、または免許を受けた者だけに伝授し、一般には伝えない秘密伝授の楽曲をいう。こうした秘伝は、秘密伝法・灌頂(かんじょう)などの仏教の修法伝授方式の影響や、「古今伝授」のような歌学における伝承との関連も認められる。芸能や音楽においては、その伝承組織の体系化に伴って生じ、本来の上演形式によらない特殊な演奏法・演出法などによるものが多い。時代・種目・流儀によって、その呼称や内容にさまざまな変遷がある。本来は「一子相伝」「唯授一人の曲」などのことばからうかがわれるように、雅楽や能などの世襲的血脈相伝を行ってきた芸能種目において、家芸の独自性・正統性の顕示とともに、その正統な継承者を明確にする、もっとも有効な手段として、秘技の秘伝という相伝形式が行われた。しかし、その伝承組織の拡大化・分流に伴って、相伝の内容にさまざまな種類と段階が設定されるようになり、秘曲は、単に教習課程における頂点としての位置を占めることになる。そして、血脈的相伝という本来の意義から離れ、むしろ他流に対する組織の保護という性格が強くみられるようにもなる。その結果、廃絶に至った曲も多い。また、同じ曲でも流儀によって扱いに相違が生じることともなった。とくに、素人(しろうと)の被教習者が多い種目ほどその傾向が色濃い。こうしたことから、今日では、「秘曲」という語はむしろ一般語として、伝承教習上での最終段階に置かれる楽曲をさす場合が多く、さらにその上位の楽曲をいうこともある。したがって、めったに上演されない稀曲(ききょく)を意味することにもなり、さらに上演に際して特別なしきたりのある曲をさすこともある。たとえば、雅楽の琵琶(びわ)の伝承においては、『流泉(りゅうせん)』『啄木(たくぼく)』『楊真操(ようしんそう)』の三曲が、灌頂後の最高位の曲として教習されたが、早くからその伝承が絶えてしまっており、幻(まぼろし)の三秘曲として有名である。
[谷垣内和子]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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