伝法(読み)デンポウ

デジタル大辞泉 「伝法」の意味・読み・例文・類語

でん‐ぽう〔‐ポフ〕【伝法】

《「でんぼう」とも》
[名・形動]3原義
粗暴で無法な振る舞いをすること。また、その人や、そのさま。「伝法な男」
勇み肌であること。また、その人や、そのさま。多く、女性にいう。「意気がって伝法な口をきく」
無料見物・無銭飲食をすること。また、その者。江戸時代、浅草寺伝法院の寺男が、寺の威光をかさにきて、境内の見世物小屋や飲食店で無法な振る舞いをしたところからいう。
「留場へ出る―がとこまで探しあるいたが」〈滑・浮世風呂・三〉
[名]師が弟子に仏法を授け伝えること。

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精選版 日本国語大辞典 「伝法」の意味・読み・例文・類語

でん‐ぼう‥ボフ【伝法】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 仏語。師が弟子に仏法を授け伝えること。また、弟子が師より法を伝え受けることにもいう。
    1. [初出の実例]「伝法聖者、非秘而伝一レ顕」(出典:性霊集‐九(1079)奉勧諸有縁衆応奉写秘密蔵法文)
    2. 「入宋伝法するまでも、内外の書籍をひらき」(出典:正法眼蔵随聞記(1235‐38)三)
  3. ( 江戸時代、江戸浅草の伝法院の寺男たちが、寺の威光をかさに着て、境内の飲食店・興行物などを無銭で飲食・見物してまわったところから。「でんぽう」とも ) むりやりにはいりこみ、無料見物・無銭飲食をすること。また、その者。油虫。でんぼ。
    1. [初出の実例]「コウ静にせう。〈略〉チョッ気のきかねへでんぼうだ」(出典:滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)下)
  4. ( 形動 ) 悪ずれて粗暴な言動をすること。無法な振舞いをすること。また、その者やそのさま。あばずれ。ならずもの。
    1. [初出の実例]「裸はでんぼうの当り前、〈略〉寒の中でも真っ裸」(出典:歌舞伎・心謎解色糸(1810)序幕)
  5. ( 形動 ) いなせなこと。勇み肌であること。また、その者やそのさま。多く女性について用いる。
    1. [初出の実例]「前土間に居るでんぼうははなくたの女」(出典:滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)下)

でんぽうデンポフ【伝法】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 京都市伏見区深草の伏見稲荷大社付近で製した土器の一種。大中小三枚重ねの素焼きの土器で、稲荷大社の初午に参詣人が買い求め、子どものままごとに用いたり、田畑の土に入れて豊作のまじないとしたりした。また、焙烙(ほうろく)タバコの皿として用いられたという。その名は、稲荷山の伝法ケ池の底の土で造ったことによるといい、あるいは当初、摂津国伝法村(大阪市此花区伝法)で製したから(日次紀事)ともいう。でんぼ。伝法焼。→伏見人形
    1. [初出の実例]「大小土器の茶碗の勢したるものを、田炮と名づけ〈略〉声々に売けるを手に手に買とり」(出典:案内者(1662)二)
  3. でんぼう(伝法)

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改訂新版 世界大百科事典 「伝法」の意味・わかりやすい解説

伝法 (でんぼう)

法を授け伝えること。仏教ではそれぞれの宗派に秘伝,口伝とする法義,儀式があるので,これを伝える儀礼が厳重である。伝法にはまずその秘伝を授けるに足る器量,能力があるかどうかをみる行があって,これを多くは加行(けぎよう)と呼んでいる。一種の通過儀礼であるが,近代ではこれが形式化している。密教では加行と授戒を経て,伝法灌頂(でんぼうかんぢよう)を受けることができる。これによって阿闍梨(あじやり)となり,次の受者に伝法することができるようになる。これを伝法職位(しきい)という。こうした密教僧への伝法だけでなく,一般信者にも結縁(けちえん)のために灌頂を許すことがあり,これを結縁灌頂という。各宗ともに伝法儀式において,僧侶の伝法に俗人を結縁させることがあるのは,日本仏教の特色である。浄土教系の宗派では融通念仏宗に伝法があり,これに準じた浄土宗の伝法を五重相伝といっている。浄土宗ではこれに加行を課する。天台宗では最澄の《内証仏法相承血脈(そうじようけちみやく)譜》があって,相承(そうじよう)と呼んでいるが,いずれも伝法には血脈(けちみやく)がつくのが仏教伝法の特色である。これは現在の伝法が教主釈尊,または各宗祖師から,血統のごとくに相続されてきたものを伝えるのだという意識を表明するからである。したがって血脈には釈迦如来阿弥陀如来または大日如来から,現在の導師,戒師,阿闍梨,善知識までの伝法血脈譜を書き,その下に現在の受者の戒名,法名,金剛号が書き加えられる。密教では伝授された仏の真言と印とを書いた印信(いんじん)が授けられる。修験道においても同様である。

 また日本独特と思われる伝法のしるしに,手印(しゆいん)がある。血脈,印信の上に導師,善知識の両手の手形を朱肉でべったりと押すが,これは阿弥陀如来や釈迦如来の身代りとなって押すものだという。あくまでも導師,善知識,阿闍梨の肉体を介して,教主,開祖と受者を直結するものである。この手印でとくに有名なのは浄土宗名越(なごえ)派の〈名越の伝法〉で,念仏の秘密伝法が行われる。同じ六字名号でも,単なる南無阿弥陀仏と,阿弥陀如来から直接秘密伝法で血脈相承された南無阿弥陀仏には,往生の力に相違があるという思想である。日本での伝法の特色はこの秘密伝法にあり,一種の通過儀礼でもあるので,これが村落生活に入ると〈隠し念仏〉となって,村人もしくは結社以外の者を排除する念仏伝法になった。しかし浄土宗の五重相伝も,融通念仏宗の伝法も,秘密伝法という点では〈隠し念仏〉とまったく同じである。
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日本歴史地名大系 「伝法」の解説

伝法
でんぼう

[現在地名]和歌山市東蔵前ひがしくらまえ丁・西蔵前にしくらまえ

西流するほり川が紀ノ川河口に合流する辺りの北側の地で、「でんぽう」とも読む。堀川もこの付近は伝法川とよばれる。南側のみなと地区とともに港湾施設が集中する。伝法橋より北に続く通りの東側には御船手屋敷・御蔵手代屋敷・田辺城主安藤家下屋敷・新宮城主水野家中屋敷が並び、西側には御蔵や安藤家米蔵があった(寛政城下町絵図)。ただし諸施設が整うのは一八世紀以降らしく、元禄一三年(一七〇〇)の和歌山城下町絵図では東側に「内蔵頭様御屋しき」など藩主の庶子の屋敷があるにすぎない。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「伝法」の意味・わかりやすい解説

伝法(無料見物・無銭飲食)
でんぼう

「でんぽう」ともいう。江戸時代、芝居小屋などにむりやり入って、無料で見物や飲食すること、あるいは、そうした傍若無人な行動をとる者をいった。本来は仏語で師が弟子に法を授け伝えることをいうが、江戸浅草の伝法院の寺男たちが寺の威光をかさに着て、浅草奥山の興行や浅草寺境内の飲食店を無料で遊び歩いたことに由来する。転じて粗暴な言動をする無鉄砲(むてっぽう)者や、男女の別なく勇み肌の者をいうようになる。また一説には、正業をもたず年中懐手(ふところで)で暮らす役にたたない者や、やくざの徒をいうとする説もある。

[棚橋正博]


伝法(大阪市の地名)
でんぽう

大阪市西部、此花区(このはなく)の一地区。旧伝法町。新淀(よど)川と正蓮寺(しょうれんじ)川の間の東寄りの地域。645年(大化1)法道仙人が仏法を伝える草庵(そうあん)を建てたのが地名の由来といわれる。近世初期から、イワシ網漁と酒荷などを積む伝法船の廻船(かいせん)問屋が栄えた。明治になり新淀川が掘られ、紡績工場が立地。最近はその跡地にマンモス団地がある。阪神電鉄阪神なんば線、国道43号が通じる。8月26日正蓮寺で川施餓鬼(かわせがき)が行われる。

[安井 司]

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普及版 字通 「伝法」の読み・字形・画数・意味

【伝法】でんぽう

伝教。

字通「伝」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の伝法の言及

【ほうろく(焙烙)】より

…ほうろく焼きは江戸時代から行われていた料理で,《料理談合集》(1822)には〈ほうろくへしほをもり,魚は何にてもしほの上へならへ,又,ほうろくをふたにして,上下に火を置てやく〉と見えるが,現在ではふつうオーブンで焼き,ポンスしょうゆで食べている。小型のほうろくは伝法(でんぼ∥でんぼう)と呼び,これを用いて焼く場合は〈でんぼ焼き〉といった。なお,茶の湯では炭手前の際,灰を入れて持って出るのはほうろくを使い,これを〈灰焙烙(はいほうらく)〉〈灰器〉などと呼んでいる。…

【ほうろく(焙烙)】より

…ほうろく焼きは江戸時代から行われていた料理で,《料理談合集》(1822)には〈ほうろくへしほをもり,魚は何にてもしほの上へならへ,又,ほうろくをふたにして,上下に火を置てやく〉と見えるが,現在ではふつうオーブンで焼き,ポンスしょうゆで食べている。小型のほうろくは伝法(でんぼ∥でんぼう)と呼び,これを用いて焼く場合は〈でんぼ焼き〉といった。なお,茶の湯では炭手前の際,灰を入れて持って出るのはほうろくを使い,これを〈灰焙烙(はいほうらく)〉〈灰器〉などと呼んでいる。…

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