法を授け伝えること。仏教ではそれぞれの宗派に秘伝,口伝とする法義,儀式があるので,これを伝える儀礼が厳重である。伝法にはまずその秘伝を授けるに足る器量,能力があるかどうかをみる行があって,これを多くは加行(けぎよう)と呼んでいる。一種の通過儀礼であるが,近代ではこれが形式化している。密教では加行と授戒を経て,伝法灌頂(でんぼうかんぢよう)を受けることができる。これによって阿闍梨(あじやり)となり,次の受者に伝法することができるようになる。これを伝法職位(しきい)という。こうした密教僧への伝法だけでなく,一般信者にも結縁(けちえん)のために灌頂を許すことがあり,これを結縁灌頂という。各宗ともに伝法儀式において,僧侶の伝法に俗人を結縁させることがあるのは,日本仏教の特色である。浄土教系の宗派では融通念仏宗に伝法があり,これに準じた浄土宗の伝法を五重相伝といっている。浄土宗ではこれに加行を課する。天台宗では最澄の《内証仏法相承血脈(そうじようけちみやく)譜》があって,相承(そうじよう)と呼んでいるが,いずれも伝法には血脈(けちみやく)がつくのが仏教伝法の特色である。これは現在の伝法が教主釈尊,または各宗祖師から,血統のごとくに相続されてきたものを伝えるのだという意識を表明するからである。したがって血脈には釈迦如来か阿弥陀如来または大日如来から,現在の導師,戒師,阿闍梨,善知識までの伝法血脈譜を書き,その下に現在の受者の戒名,法名,金剛号が書き加えられる。密教では伝授された仏の真言と印とを書いた印信(いんじん)が授けられる。修験道においても同様である。
また日本独特と思われる伝法のしるしに,手印(しゆいん)がある。血脈,印信の上に導師,善知識の両手の手形を朱肉でべったりと押すが,これは阿弥陀如来や釈迦如来の身代りとなって押すものだという。あくまでも導師,善知識,阿闍梨の肉体を介して,教主,開祖と受者を直結するものである。この手印でとくに有名なのは浄土宗名越(なごえ)派の〈名越の伝法〉で,念仏の秘密伝法が行われる。同じ六字名号でも,単なる南無阿弥陀仏と,阿弥陀如来から直接秘密伝法で血脈相承された南無阿弥陀仏には,往生の力に相違があるという思想である。日本での伝法の特色はこの秘密伝法にあり,一種の通過儀礼でもあるので,これが村落生活に入ると〈隠し念仏〉となって,村人もしくは結社以外の者を排除する念仏伝法になった。しかし浄土宗の五重相伝も,融通念仏宗の伝法も,秘密伝法という点では〈隠し念仏〉とまったく同じである。
執筆者:五来 重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
「でんぽう」ともいう。江戸時代、芝居小屋などにむりやり入って、無料で見物や飲食すること、あるいは、そうした傍若無人な行動をとる者をいった。本来は仏語で師が弟子に法を授け伝えることをいうが、江戸浅草の伝法院の寺男たちが寺の威光をかさに着て、浅草奥山の興行や浅草寺境内の飲食店を無料で遊び歩いたことに由来する。転じて粗暴な言動をする無鉄砲(むてっぽう)者や、男女の別なく勇み肌の者をいうようになる。また一説には、正業をもたず年中懐手(ふところで)で暮らす役にたたない者や、やくざの徒をいうとする説もある。
[棚橋正博]
大阪市西部、此花区(このはなく)の一地区。旧伝法町。新淀(よど)川と正蓮寺(しょうれんじ)川の間の東寄りの地域。645年(大化1)法道仙人が仏法を伝える草庵(そうあん)を建てたのが地名の由来といわれる。近世初期から、イワシ網漁と酒荷などを積む伝法船の廻船(かいせん)問屋が栄えた。明治になり新淀川が掘られ、紡績工場が立地。最近はその跡地にマンモス団地がある。阪神電鉄阪神なんば線、国道43号が通じる。8月26日正蓮寺で川施餓鬼(かわせがき)が行われる。
[安井 司]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…ほうろく焼きは江戸時代から行われていた料理で,《料理談合集》(1822)には〈ほうろくへしほをもり,魚は何にてもしほの上へならへ,又,ほうろくをふたにして,上下に火を置てやく〉と見えるが,現在ではふつうオーブンで焼き,ポンスしょうゆで食べている。小型のほうろくは伝法(でんぼ∥でんぼう)と呼び,これを用いて焼く場合は〈でんぼ焼き〉といった。なお,茶の湯では炭手前の際,灰を入れて持って出るのはほうろくを使い,これを〈灰焙烙(はいほうらく)〉〈灰器〉などと呼んでいる。…
…ほうろく焼きは江戸時代から行われていた料理で,《料理談合集》(1822)には〈ほうろくへしほをもり,魚は何にてもしほの上へならへ,又,ほうろくをふたにして,上下に火を置てやく〉と見えるが,現在ではふつうオーブンで焼き,ポンスしょうゆで食べている。小型のほうろくは伝法(でんぼ∥でんぼう)と呼び,これを用いて焼く場合は〈でんぼ焼き〉といった。なお,茶の湯では炭手前の際,灰を入れて持って出るのはほうろくを使い,これを〈灰焙烙(はいほうらく)〉〈灰器〉などと呼んでいる。…
※「伝法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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