移動度(読み)イドウド

化学辞典 第2版 「移動度」の解説

移動度
イドウド
mobility

易動度ともいう.粒子の定常移動速度v(cm s-1)と駆動力F(N)との間の比例定数が(絶対)移動度Bである.

vBF

すなわち,単位力(1 N)のもとでの定常移動速度をいう.イオン電子コロイド粒子などの電荷をもつ粒子の単位電場(1 V cm-1)のもとでの定常移動速度を,その粒子の(電気的)移動度(μ)といい,

μ = eB

の関係がある.また,その単位は通常 cm2 s-1 V-1 で表される.溶液中でのイオンやコロイド粒子の移動度は 10-5(cm2 s-1 V-1)程度であり,気体中におけるイオンの移動度は一定温度下では圧力に反比例する.常温,1 atm の空気中では4(cm2 s-1 V-1)程度である.移動度μと比導電率κとの関係は,単位体積中の粒子の数をn,粒子の電荷をeとすれば,

κ = enμ

となる.また,粒子の拡散定数Dとの間には,アインシュタイン-ストークスの関係式が成り立つ.

ここで,kボルツマン定数Tは絶対温度.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「移動度」の意味・わかりやすい解説

移動度
いどうど
mobility

ランダムな衝突があるとき,電子などの粒子に電界などによる外力が与えられたときの移動しやすさの割合を示す。易動度とも書く。気体,液体または固体中を電荷をもった粒子が運動するとき,もし電界が0ならばガス分子ブラウン運動のような無秩序な運動を繰り返し,平均として方向性をもった変位はない。これに電界が加わると媒質中の分子や格子と衝突しながらある平均の速度で電界の方向に移動する (正電荷の場合) 。この速度の電界方向の成分を v ,電界の大きさを E とすると,E があまり大きくないとき v=μE と書ける。μは定数でこれを移動度と呼ぶ。言い換えると,移動度は単位電界あたりの荷電粒子の平均ドリフト速度と定義できる。いま,衝突から衝突までの平均自由時間を τ ,粒子の質量m ,電荷を q とすると,単位時間に電界から受け取る運動量 qE と衝突によって失われる運動量 mv/τ とがつり合ったところで定常的な流れとなり,vqEτ/m≡μE,μ=eτ/m と表せる。電荷が同じなら質量の依存性からイオンより電子のほうが μ は大きい。また,平均自由時間が長いため,固体中より気体中のほうが μ が大きくなる。単位体積中の電子の数を n ,電荷を e とすると,電気伝導度 σ は σ=nμe で与えられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「移動度」の意味・わかりやすい解説

移動度 (いどうど)
mobility

易動度とも書く。ニュートンの運動方程式によれば質点は一定の力の下で等加速度運動を行う。しかし速度に比例する抵抗力も同時に働く場合には,力に比例した一定速度の運動に収束する。空気中を落下する雨滴とか水中を沈下する砂粒の運動などはこれに近い。いろいろな媒質中にあるミクロ的粒子の場合も,抵抗力に相当するものの性質は違うが,一般にあまり強くない外力の下ではそれに比例した一定の平均速度で移動する。ここで,(移動速度)/(粒子に働く外力)という比を移動度と呼ぶ。導体オーム法則が成り立つのも電子(または正孔)の移動速度が電場の強さに比例するためで,この場合はむしろ(移動速度)/(電場)を移動度と呼ぶ。単位はcm2/V・s(=(cm/s)/(V/cm)),またはm2/V・s。たとえば銅の伝導電子の移動度は室温で50cm2/V・s,すなわち1V/cmの電場中で秒速50cmとなる。半導体の伝導電子の移動度は一般にずっと大きく,ゲルマニウムで3800cm2/V・s,アンチモン化インジウムでは78000cm2/V・sにも達する。
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栄養・生化学辞典 「移動度」の解説

移動度

 薄層クロマトグラフィーなどで,溶媒の移動距離と分析標本の移動距離の比.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の移動度の言及

【交通】より

…しかし移動したいと望んだとき,移動のために必要な条件が整っていなければ,すぐ移動できるとはかぎらない。したがって〈移動できる能力(モビリティmobility)〉の有無が,人の生活に大きな影響をもたらす条件であることは,昔も今も同じである。 最初の人類にとってモビリティとは歩くことであり,荷物は腕で抱えるか,頭や肩に乗せて運ぶ以外に方法がなかった。…

【交通政策】より

…19世紀半ばに鉄道が出現してからの先進国の交通政策の変遷は,交通市場の変化を反映している。
[交通政策の目的と枠組み]
 交通政策の基本的な目標は〈人と物の円滑な移動可能性mobilityを確保して経済の発展と国民生活の向上に資することである〉と運輸政策審議会の1981年の答申〈長期展望に基づく総合的な交通政策の基本方向〉は述べている。イギリスの1977年の交通白書でも,工業,商業,農業に効率的な交通サービスを供給することを通じて経済成長と国の繁栄に貢献すること,社会を構成する個人に対して適切な水準の移動可能性を保証すること,そして交通に随伴する事故や環境の悪化等の有害な影響をできるだけ少なくすることを交通政策の目的としている。…

【アインシュタインの関係式】より

…その速さは拡散係数Dで表され,時間tの間の移動距離の2乗平均は6Dtとなる。粒子に力が働くとその方向への流れ運動が起きるが,流れの速度は力の強さに比例し,比例係数f移動度と呼ぶ。このときDfkTと表され,この式をアインシュタインの関係式という。…

【拡散】より

…この抵抗のため,vは外力Fに比例した一定値に落ち着く(vbF)。この比例係数b移動度という。アインシュタインはこの移動度bと拡散係数Dの間にはDkTbという関係が存在することを見いだした。…

※「移動度」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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