移転価格税制(読み)イテンカカクゼイセイ(英語表記)transfer pricing taxation

デジタル大辞泉 「移転価格税制」の意味・読み・例文・類語

いてんかかく‐ぜいせい【移転価格税制】

多国籍企業などの移転価格が、通常の取引価格(独立企業間価格)と異なる場合に、通常の取引価格に基づいて所得金額を算出し、課税すること。移転価格が見直されると、取引を行った双方の利益額が変化して、一方の税額が増加し、他方は減少する。そのため、両国の税務当局が協議を行って調整し、二重課税を避ける必要がある。TP(transfer pricing taxation)。

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共同通信ニュース用語解説 「移転価格税制」の解説

移転価格税制

海外の関連会社との間で行った取引価格が、資本関係のない他社との取引に比べて不当に安い場合などに、利益を海外に移転して国内で納める税を減らしたと判断し、適正価格での取引額との差額を課税する制度。企業の経済活動グローバル化が進む中、税率の低い国への利益移転は国際的な問題になっており、経済協力開発機構(OECD)の主要課題にもなっている。国税庁によると、昨年6月までの1年間で、移転価格税制による申告漏れの指摘総額は392億円だった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「移転価格税制」の意味・わかりやすい解説

移転価格税制
いてんかかくぜいせい
transfer pricing taxation

税率の低い国や租税回避地タックス・ヘイブン)へ恣意(しい)的に利益(所得)や資産を移すことによる課税逃れを防ぐための税制。もともとアメリカ合衆国が州間取引に適用していたが、企業の多国籍化が進んだ1960年代後半以降、国境を越える取引価格(移転価格)を操作する節税行為が広がったため、国際取引に適用されるようになった。1980年代には、カナダイギリス西ドイツなどの先進国に広がり、日本も1986年(昭和61)の税制改正で採用した。税務当局は移転価格と通常価格を比べ、恣意的に所得が抑えられた場合、追徴課税する。移転価格税制の適用で、2か国から課税される二重課税が発生する場合があり、租税条約に基づいて2か国の税務当局が課税額を調整する。21世紀に入り、インターネットの普及で、世界中の国・地域から巨額の利益をあげながら、税負担の著しく軽い多国籍企業が増えた。経済協力開発機構(OECD)は、こうした世界規模での課税逃れをBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)問題と位置づけ、2015年、BEPS防止のための新国際課税ルールである15の行動計画を策定。2018年には世界130か国・地域以上が参加を目ざすBEPS防止措置実施条約発効(日本では2019年に発効)し、各国は行動計画と条約を踏まえた税制や租税条約の改正に取り組んでいる。

 節税行為としては、高税率の国にあるA社が低税率国や租税回避地にある同一グループの企業のB社に対し、(1)商品価格を通常よりも低く(高く)設定して輸出(輸入)する、(2)市場金利より大幅に低い(高い)金利で融資(借入)する、(3)特許権、著作権、商標権、顧客リストなどの無形資産を移す、などの操作をする。これにより低税率国にあるB社へ所得を移転・集中させ、企業グループ全体の納税額を抑える手法がとられる。とくに2010年以降、無形資産を低税率国へ移し、過度な節税策(タックス・プランニング)をとるIT・製薬などの巨大多国籍企業が増えた。OECDは行動計画で、工場、事務所、鉱区などの恒久的施設(PE:Permanent Establishment)の存在を課税根拠とした従来の概念を改め、無形資産が生む実質的所得にも課税できるように改正。巨大な多国籍企業がデジタルサービスを提供する国・地域に対して、PEがなくても課税権を与える「利益A」制度や、多国籍企業グループの海外販売会社の所得を利益率に応じて機械的に定める「利益B」制度を導入。世界共通の最低法人税率(グローバル・ミニマム課税)も導入し、外国子会社との合算税制を強化した。このため年1回、移転価格とその算定根拠や国・地域別納税状況などを各国の税務当局へ開示するよう多国籍企業に義務づけ、税務当局間で情報共有して課税逃れの防止に役だてている。

[矢野 武 2024年5月17日]

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百科事典マイペディア 「移転価格税制」の意味・わかりやすい解説

移転価格税制【いてんかかくぜいせい】

企業間取引の中で親会社と海外子会社などの関連企業間の国際取引について,取引価格に不正のある場合,税務当局が適正と判断した価格に基づいて所得を計算,法人税の課税額を決める制度。関連企業間の財貨やサービス価格を操作して,高税率国から低税率国へ所得を移転し,租税負担を軽減することを防ぐのが目的。 米国では多国籍企業を早くから生み出した国という事情もあり,世界に先駆けて1928年に移転価格税を内国歳入法で規定している。またフランス,英国,ドイツも移転価格税制の定めがある。しかし,それらは世界共通のルールとはなっていなかった。そこでOECD(経済協力開発機構)は,1979年にこの問題に関してのガイドラインを示し,さらに1995年に全面改訂するなど国際ルール化を進めている。日本では1986年に〈租税特別措置法〉の中に国外関連者との取引に係わる課税の特例を設け,移転価格税を導入している。→企業内貿易

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「移転価格税制」の意味・わかりやすい解説

移転価格税制
いてんかかくぜいせい
transfer price tax system

内国法人の海外系列会社などとの取引価格の操作に対し,第三者との取引価格と照合して所得を計算し,これに基づいて課税する税制。国によって法人税率に格差がある場合,税率が低い国にある子会社への販売価格を低くすれば,親会社の所得が低くなり税額も少なくなるので,企業グループ全体では税負担を軽減させることができる。移転価格税制はこうした取引価格が不当と判断された場合に,関連企業ではない第三者との取引価格を移転させて税額を算出するものである。欧米諸国で実施されており,日本でも企業の国際化に伴って金融やサービス取引をも対象とした税制が 1986年に導入された。租税条約の相手国が移転価格課税を行なった場合には,租税条約に基づく権限のある当局 (日本では国税庁) 間の合意により,日本に所在する関連企業の所得を減額することができる。

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知恵蔵 「移転価格税制」の解説

移転価格税制

企業が、実質的な支配下にある海外の関連企業との取引に際して、恣意的な価格決定を行い、国内の課税所得が減少した場合には、第三者との間で成立するであろう、通常の価格(独立企業間価格)で取引が行われたものとみなして課税する仕組み。各国とも、企業の多国籍化に伴う内外関連企業間での国際取引の増加や、取引形態の複雑化等を背景に、恣意的な価格操作による非正常な所得移動を防止するため、国際的な課税ルールに基づいた移転価格税制が必要となり、米、英、独、仏、中国などでこの税制が実施されている。日本でも、1986年度から導入された。最近では、本社・海外子会社の両国税務当局間で、移転価格の算定方法などについて事前に確認を得るAPA(advance pricing agreement :事前確認制度)を採用する企業も出ている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

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