文芸雑誌。種蒔き社発行。フランスの小説家アンリ・バルビュスの反戦運動に参加し帰国した小牧近江(おうみ)が友人金子洋文(ようぶん)、今野賢三(いまのけんぞう)(1893―1969)らと1921年(大正10)2月創刊、3号で休刊(第一次・土崎版)。ついで佐々木孝丸(たかまる)(1898―1986)、村松正俊(1895―1981)らを同人に迎え「革命の真理を擁護する」と宣言して、10月第二次・東京版を創刊。
国際主義と反軍国主義を基調にさまざまな特集号を組み、また文学芸術運動を解放運動の一翼と理論づける評論を掲載した。本誌の出現によりプロレタリア文学は運動として成立したという画期的意味をもつ。関東大震災により23年10月廃刊(第二次、通巻21冊)したが、終刊号と別冊『種蒔き記』により、震災時の朝鮮人、社会主義者への虐殺に強く抗議し、終わりを全うした。復刻版が、1961年(昭和36)と86年に刊行されている。
[祖父江昭二]
『日本近代文学研究所編『種蒔く人』複製版(1961・日本近代文学研究所、1986・ほるぷ出版)』▽『今野賢三著、佐々木久春編『花塵録 「種蒔く人」今野賢三青春日記』(1982・無明舎出版)』▽『金子洋文著『種蒔く人伝』(1984・労働大学)』▽『祖父江昭二著『20世紀文学の黎明期――「種蒔く人」前後』(1993・新日本出版社)』▽『「種蒔く人」七十年記念誌編集委員会編『「種蒔く人」七十年記念誌』(1993・「種蒔く人」七十年記念事業実行委員会)』▽『北条常久著『「種蒔く人」 小牧近江の青春』(1995・筑摩書房)』▽『『「種蒔く人」の潮流――世界主義・平和の文学』(1999・文治堂書店)』▽『安斎育郎・李修京編『クラルテ運動と「種蒔く人」――反戦文学運動「クラルテ」の日本と朝鮮での展開』(2000・御茶の水書房)』
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大正期の文学・思想雑誌。第1次の土崎版は1921年(大正10)2~4月号までの3冊,第2次の東京版は同年10月号から23年10月号までの21冊。他に別冊で亀戸事件の記録《種蒔き雑記》等がある。アンリ・バルビュスのクラルテ運動とコミンテルン成立との影響を受けて帰国した青年小牧近江(こまきおうみ)(1894-1978)を中心に,最初は彼の郷里秋田・土崎で小規模に,のちには東京で反軍国主義とロシア革命の擁護とをかかげ多くの進歩派に呼びかけて思想文学の共同戦線的な雑誌として再出発した。小牧のほかに金子洋文,今野賢三,村松正俊,柳瀬正夢,佐々木孝丸らが中心となり,のち平林初之輔,青野季吉が加わってからは階級運動の一翼としての文学を主張,最初のプロレタリア文学運動の雑誌として注目された。
執筆者:小田切 秀雄
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1921年(大正10)2月,アンリ・バルビュスの反戦運動やコミンテルンの影響をうけた小牧近江(おうみ)が秋田県土崎(現,秋田市)で創刊したプロレタリア文学雑誌。同年10月から東京で再刊。「行動と批判」を標榜し,インターナショナリズムにもとづくプロレタリア共同戦線を志向。小牧のほか金子洋文(ようぶん)・今野(いまの)賢三・柳瀬正夢(まさむ)らを同人とし,有島武郎・江口渙(かん)・秋田雨雀(うじゃく)・藤森成吉(せいきち)らが執筆。関東大震災によって23年8月号で終刊。
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…1910年16歳で渡仏し苦学してパリ法科大学卒業。当時フランスではH.バルビュスを中心として,平和主義を唱えた社会主義文化運動であるクラルテ運動が広がっていたが小牧はこれに参加し,帰国後の21年に《種蒔く人》を創刊,反戦思想を唱えコミンテルンの紹介をした。アナ・ボル論争の最中にも小牧は両陣営との接触を保って運動の統一を守ろうとし,社会運動と芸術運動の新しい結びつきをつくった同誌からは,プロレタリア文学の新しい作家群が輩出した。…
※「種蒔く人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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