国際主義と訳す。ナショナリズム(国家主義,民族主義)と対立する概念で,近代国家nation stateの成立を前提として,国家の枠を超えて共通の利害や関心にもとづく行動をとる精神をさす。英語のinternationalという語は18世紀後半から用例が見られるが,internationalismの語は1850年代になって登場してくる。それは西欧の近代国際社会の成立と展開を踏まえて,19世紀中葉以降,労働者階級の連帯,統一行動(プロレタリア国際主義)として展開する。また,インターナショナリズムは広義に,国家の主権を制限して国家間の連帯と協調をめざす理念の意味にも用いられる。後者の意味における国際主義の系譜は,さらに時代をさかのぼることができるが,また今日みられるような地域的統合運動(ヨーロッパ連合など)の形をとることもある。なお,インターナショナリズムは,コスモポリタニズム(世界市民主義)とは異なる。コスモポリタニズムは各国家の現実の社会的条件を捨象して世界市民たらんとする意識をさしていう。
イギリスのチャーチスト運動(1840年代から)を発端として,労働者階級解放の思想はヨーロッパに広まっていった。プロレタリア解放運動に理論面から決定的な影響を与えたのはマルクスであり,彼の尽力のもとに第一インターナショナル(1864-67)が結成される。その精神的基礎は,国家の枠を超える労働者階級の国際主義であり,やがてそれはその階級を代表する労働者政党間の国際主義に発展していった。プロレタリア国際主義は,各民族の平等を尊重し,それらが自主的かつ自由に独立し同盟する権利をもつことを主張するが,第一インターナショナルの消滅後に結成された第二インターナショナル(1889-1914)では,第1次世界大戦に際して,ロシアを除くほとんどすべての党が自国政府の帝国主義戦争を支持する立場をとったため,組織は解体に瀕(ひん)した。
国際主義の立場をまもって〈帝国主義戦争の内戦への転化〉を説いたレーニン指導下のボリシェビキ(ソ連共産党)は,十月革命を成功させた後,各国の共産党を結集して第三インターナショナル(通称コミンテルン。1919-43)を組織し,民主集中制の原則に立ってソ連邦擁護と世界革命をめざす。だが,レーニン死後しだいにコミンテルンの方針がソ連の対外政策に従属するようになり,ファシズムの台頭と第2次世界大戦に直面して,プロレタリア国際主義の組織は再び解体した。この系統の組織として,戦後はコミンフォルム(1947-56)や社会主義インターナショナル(1951-)などがある。
東欧やその他の地域で数多くの共産主義国家が成立した第2次世界大戦以降は,階級の国際主義の理念は,国家間の関係に拡大され,質的にも大きく変化した。ユーゴスラビアの離反,中ソ対立の中で,とくにソ連と東欧諸国間(ワルシャワ条約機構加盟国)の協力関係は,共通のイデオロギー,道義,外交の三つを柱とし,統一的な強固な運命共同体を形成する。原則的には完全な同権,主権の尊重,相互不干渉がうたわれたものの,ソ連(ソ連共産党)の指導的地位とソ連の国家利益の尊重が共通の認識となった。だが1980年代の中ごろから始まったゴルバチョフ・ソ連共産党書記長のペレストロイカは,東欧共産圏の解体,さらにはソ連邦自体の解体(1991)を招き,プロレタリア国際主義そのものの終焉をもたらした。
中世のキリスト教的・包括的・普遍的帝国における連帯精神は,近代的意味での国際主義とは区別される。近代的次元でのそれは,ヨーロッパの民族主権国家の成立による新国際秩序の中での国家間の連帯協力,統一行動となって表れた。絶対主義が定着した17~18世紀は,民族国家への基礎づくりの時代であり,この時期には王家の国際連帯がみられた。革命と民族主義の波に洗われた19世紀の初頭,フランス革命のヨーロッパ全域への拡大を阻止するという共通利益の上に立った王家の連帯,統一行動や,ナポレオン後のヨーロッパの新秩序を目ざした神聖同盟などもそうである。これに対して19世紀の後半まで,資本主義的な世界経済の中心,そして,大帝国の中心としてのイギリスが,その実力を背景に西欧諸国家間の勢力均衡関係を維持,調整する役割を果たし,自由主義に基づく国際主義を支えた。レッセフェールは西欧の強国間の平和を必要としたのである。この時代を前提として,国家間の協力を目ざした国際組織が登場し,今日,多国家間,ブロック間の利益を超えて,世界組織の形成にまで発展している。その際,国際協力,国際紛争の解決の基礎となるものは国際法であり,ハーグ平和会議(1899,1907)は,今日の国際秩序確立のための礎石となった。第1次世界大戦後の国際連盟(1920)は,アメリカの不参加,日本,ドイツ,イタリアの脱退,ソ連の除名などで有名無実となったが,第2次世界大戦後に結成された国際連合(1945)は,国際連盟と比較して,はるかに有効な活動を続けている。とくに数のうえで圧倒的多数を占める第三世界諸国にとって,大国に集団圧力をかけうる場として,国連の価値はいっそう増大している。
一定地域内に限定された諸国家の共同体としては,戦後のヨーロッパ共同体やコメコンがあった。それは加盟国の共通の経済利益を守ることを目的とし,一定の主権の制限がみられる。冷戦の終焉とともに解体したコメコンに対し,ヨーロッパ共同体の目標は〈超〉国家的共同体の形成であり,共通の外交政策を採用する努力を続けてきたが,それは〈地域〉国際主義の一つの表れと考えられる。冷戦終結後,ヨーロッパ共同体(EC)は,マーストリヒト条約の締結をもってヨーロッパ連合(EU)に発展し,加盟国も12から15ヵ国に増大する中で,深化(通貨同盟など)と拡大(東欧諸国の加盟化)の方向を目指している。一定地域内の同種族,同民族,同じ宗教を基礎とした連帯と統合運動としては,アラブ民族主義が典型的である。ラテン・アメリカやブラック・アフリカにおける地域連帯も,共通の人種,地域的利益,反帝・反植民地主義などが背景になっている。
→国際統合
執筆者:仲井 斌
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…そのあらわれの最大のものがカントの思想で,彼の世界市民的見地における普遍史の理念に関する論文のうちでは,各国家をもって諸国民の連合に,さらに全ヨーロッパの意思決定に従わせる構想が説かれ,《永久平和論》の中で,この主張の実際的細目が述べられた。 現代のコスモポリタニズムは,インターナショナリズム(国際主義)の出現により新しい役割を果たすこととなる。すなわちインターナショナリズムが,近代国家の成立,ナショナリズムの形成とともに諸民族,諸国家の平和的共存と相互の友好関係を促進することによって,世界平和の実現をはかろうとするのに対し,コスモポリタニズムは各国家の現実の社会的条件を捨象し,民族的伝統を否定し去って世界市民として,直接に単一世界国家につながろうとする意識の表現となり,その結果先進国家の文化価値を無批判的に崇拝する思潮につながっている。…
※「インターナショナリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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