無機質固体原料を高温で熱処理することによって改質させ有用な材料(これを窯業製品あるいはセラミック製品と呼ぶ)として供給する工業をいう。ここで無機質固体原料とは,物質的にみるとケイ酸塩を主体とする天然原料である鉱物の場合と,高度に精選された人工原料の場合とがある。鉱物質天然原料を用いる窯業製品の代表が陶磁器,ガラス,セメントであり,高純度人工原料から作られるものは電磁気材料,精密機械材料などに使われるファインセラミックスである。〈窯〉の語源は羊を穴に入れて火であぶることであるという。すなわち形のあるものを熱処理して改質するための装置である。穴に入れることで熱効率を高めている。人類の文明は窯業とともに始まったといってもよいほどである。すなわち窯業のルーツは土器にある。そして今や新素材の代表としてファインセラミックスがあり,高度技術社会の担い手として期待されている。古くて新しい工業,それが窯業あるいはセラミック工業といえる。窯業の生産統計にはファインセラミックスが入っていない。以下,各分野での窯業ないしセラミックスの概説を述べる。
日本は伝統的に生活に密着した暖かみのある陶磁器とともに,精緻な技術を駆使した美しい陶磁器を生産してきた。全国各地に独特な焼物が作られているし,輸出の一つの旗頭でもあった。しかし大工業としては資源的にもエネルギー的にもやや困難な状況に遭遇しつつあり,また発展途上国に追いあげられている。このため伝統的な陶磁器を生産してきた窯も,先端技術に結びつくファインセラミックスを手がけるようになってきた。
→陶磁器
建築・土木工事に欠かせない材料であるが,厳しい財政事情を反映して公共工事が減少したこと,重さ当りの単価も安いこと,エネルギーコストが高いこと,長期間の貯蔵ができないこと,ほぼ同等な力の会社が多いことによる激烈な競争のため,慢性的な不況に苦しんでいる。このため企業間の販売提携,ファインセラミックスなど新製品の開発に努力している。セメント原料については石灰資源の節約のため鉄鋼スラグを有効に利用することが定着してきた。また省エネルギー技術も徹底的に追究されている。
板ガラスの製造にはきわめて大型の装置が必要であり,投下資本の回収が遅い。このため大資本会社による寡占体制となる。しかし板ガラスの生産も伸び悩んでいるため,高機能化を目ざしている。このなかには冷暖房の効率を上げる熱線反射ガラス,感光ガラス,透過光量調節可能なガラスなどがある。ガラス会社もファインセラミックス製品への展開を積極的に試みている。
製鉄,その他高温を必要とする工業には多くの耐火物が使われている。しかし最大の需要先である鉄の生産が伸び悩んでいること,耐火物の寿命が延びていることで耐火物工業も苦況にあえいでいる。やはりファインセラミックスへの展開を図っている。
ファインセラミックスは,土器→陶器→磁器と発展してきた手法をケイ酸塩以外にも適用しさらに発展させ,必要とあれば新しい手法を導入して製造された非金属無機質固体製品である。日本の今後の高度技術社会の担い手として期待が大きいため,在来の窯業関連企業が展開を図るだけでなく,同じように苦況にあえぐ石油化学工業,鉄鋼業もファインセラミックスへ転進を試みている。また先端技術の鍵となるファインセラミックスをユーザーの立場からも開発しようとして,電子・情報工業,精密機械工業,輸送機器工業なども積極的に取り組んでいる。ファインセラミックスは技術開発競争のホットゾーンである。
→窯(かま)
執筆者:柳田 博明
窯業全体の出荷額は1995年に10兆0860億円で,製造業全体の3.4%を占める(ただしファインセラミックスは含まない)。この比率は1965年の3.6%と比べほとんど変化していない。また,セメント・同製品製造業がその約半分を占め,ガラス・同製品製造業がこれに続く。その他は陶磁器,耐火物,炭素製品,研磨材がおもなものであるが,いずれも出荷額はそれほど多くはない(《工業統計表》による)。
窯業は,各製品分野ごとにその産業構造がかなり異なっている。寡占度がきわめて高く,大企業中心の板ガラス工業から,中小企業の占める割合の高い陶磁器業まで種々の産業がある。ただし,(1)製造工程中に加熱処理工程があること,(2)原料の自給率が比較的高いこと,(3)製品が重量の割に付加価値が低いため,輸出比率が低いこと,などに共通の特色を有している。
日本の窯業の歴史をみてみると,陶磁器業は安土・桃山時代に朝鮮の陶工の渡来により発達をとげ,江戸時代初期には有力な輸出産業にまで発達したが,その他の分野の発達は明治以降のことである。さらにセメント工業は1875年政府の手によって生産が開始され,その後順調に生産を拡大していったのに対し,ガラス工業が本格的に軌道にのったのは1907年に板ガラスの生産が開始されてからのことである。第2次大戦後,日本の窯業は,活発な設備投資,住宅建設,自動車産業などの需要先の成長により生産を伸ばし,世界有数の生産を誇るまでとなった。70年代に入り,日本経済の成長率の低下とともに窯業全体の生産量も頭打ちとなり,これに石油危機によるエネルギー価格の暴騰が追打ちをかけた。また1960年代後半から70年代にかけて,セメント工業におけるSP・NSPキルンの導入,ガラス工業におけるフロート法設備の導入など新技術の導入が進められた。一方,ガラス繊維は建設部門,炭素製品は電炉業,アルミ製錬業に需要先を依存しているため,この分野でも需要は低迷している。ガラス製品の中心を占めるガラス瓶も,アルミ缶,PETボトルなどとの激しい競合が目だっている。80年代に入ると,ファインセラミックス(ニューセラミックスともいう)と呼ばれる新しい窯業分野が急速に成長している。ファインセラミックスは,用途によってエレクトロセラミックス(コンデンサー,ICパッケージ),磁性材料,光学材料(光ファイバー),バイオセラミックス(人工歯根),超硬材料(ベアリング,バイト)などに分けられ,エレクトロセラミックスが全体の7割を占めている。今後発展が期待される分野としてエンジニアリングセラミックス(耐熱構造材料)があるが,現状ではコスト面で金属材料には及ばない。また従来分野でも,ガラス繊維強化セメントの開発など付加価値を高める方向が模索されている。
執筆者:北井 義久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
窯炉(キルンkiln)を用いて1000℃以上の高温で粘土その他の非金属原料を焼成処理してセラミックスceramics製品を製造する化学工業。製造時に窯を使用するために窯業とよばれる。
セラミックスは、古代ギリシア語のケラモスkeramos(焼き物)に由来することばで、製造工程で高温処理をしてつくられた非金属無機材料の総称であり、耐熱性、耐食性、電気絶縁性に優れている。鉱物質天然原料の陶石、長石、粘土などを用いてつくられる陶磁器、ガラス、セメント等の伝統的セラミックスと、高純度に精製した天然原料や人工原料から精密に制御した成形・焼結加工法によってつくられるファイン・セラミックスfine ceramics(ニューセラミックスともいう)とに大別できる。
日本におけるセラミックスの歴史は、土器として縄文時代から始まるが、古墳時代後期に大陸から1000℃以上の高温で長時間焼くことのできる穴窯とろくろの技術が伝わり、形のよい硬い陶器(須恵器(すえき))がつくられるようになった。平安時代には高火度のうわぐすりをかけた焼き物がみられるようになり、備前(びぜん)(岡山県)、美濃(みの)(岐阜県)、瀬戸(せと)(愛知県)、常滑(とこなめ)(愛知県)、信楽(しがらき)(滋賀県)等の焼き物の生産地ができてきた。鎌倉・室町時代には、宋(そう)からの技術の移植とともに産地独自の技術の発展もみられるようになった。粘土に長石を混ぜて焼く緻密(ちみつ)な焼き物である磁器の技術は約400年前の安土桃山(あづちももやま)時代に朝鮮半島から伝わった。磁器は1300℃ほどの高温で焼くために薄手でも陶器より硬く耐久性がある。有田(ありた)(佐賀県)で磁器の生産が始まり、その技法は九谷(くたに)(石川県)、清水(きよみず)(京都府)、多治見(たじみ)(岐阜県)、瀬戸などにも伝わっていった。19世紀になると陶磁器は日常の食器として生活必需品化し、明治初期にドイツ人のG・ワグネルによって石炭窯の焼成、酸化コバルトによる着彩技術など欧州の窯業技術が導入された。1904年(明治37)には日本で初めて純白洋磁器が日本陶器(現、ノリタケカンパニーリミテド)によって製造されている。
伝統的セラミックス製品は、陶磁器、ガラス食器などの飲食器・台所用品、花瓶、ブローチ、ボタンなどの装飾・趣味用品、洗面器、便器、浴槽などの衛生用品などに使われている。また、陶磁器で培われた造形技術と電気絶縁性、耐食性などの特性とによって、送電線や家庭電気製品の絶縁材料としても広く使われるようになった。耐熱性や機械的強度の特性により煉瓦(れんが)、セメント、タイル、ガラス繊維、窯業系サイディング材などの建築土木材料としても広く利用されている。防耐火性に優れた窯業系サイディング材はリフォーム需要などもあり戸建て住宅の外壁のシェアの7割を占めている。
ファイン・セラミックスとは、精選した原料粉末を用い化学組成、微細組織、形状を精密に調整して、厳密に管理・制御した工程で製造された高機能セラミックスをさしている。一般的な製造工程では、(1)原料を調合・混合・粉砕し粉体をつくり、(2)加圧・押出し・射出・鋳込み等の方法で成形し、(3)融点以下の高温で焼成して、(4)研削・接合して製品とする。ファイン・セラミックスには、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)などの種類がある。用途や目的にあわせ原料の種類や粒子の調整と焼結方法を制御することによって、さまざまな電磁気的、光学的、機械的、化学的、生体的機能特性をもたせた素材を製造することができる。
電磁気的機能をもつ素材としては、集積回路(IC)基板や配線基板などの絶縁材料、水晶振動子や圧電火花素子などの圧電体材料、サーミスターや太陽電池などの半導体材料、フェライト磁石などがあり、絶縁性、圧電性、半導体性、磁性等の特性を生かして広範囲の用途に利用されている。光学的機能としては、透光性、集光性、導光性等の特性をもたせた素材が、高圧ナトリウムランプ、レーザー用材料、光メモリー素子、光シャッター、発光ダイオード(LED)、太陽電池素材などで利用されている。ファイン・セラミックスの3分の2はこれら電磁気・光学用のものが占めている。機械的機能素材としては硬度や強度、耐熱性等を生かしたセラミック工具や焼結ダイヤモンドなどの切削材料、エンジン部品やセラミック・ガスタービンなどの耐熱・耐摩耗材料などがある。金属に比較して軽量のために航空機、人工衛星、宇宙ロケットなどの機体材料としても利用されている。化学的機能素材としては、ガスセンサー、温度センサー、自動車排気ガス浄化用触媒担体、固定化酵素の担体などに利用されている。生体的機能素材として人工骨、人工関節、人工歯などの生体適合性を満たした素材が開発されている。
ファイン・セラミックス製造企業には、ファイン・セラミックス製造を目的に設立された京セラ(1959年設立時の社名は京都セラミツク)や新規のベンチャー企業等のほか、江戸時代から有田焼の磁器製造を行っている香蘭社(こうらんしゃ)、洋食器の製造を目的に設立されたノリタケカンパニーリミテド、日本陶器(ノリタケカンパニーリミテドの旧社名)の碍子(がいし)製造部門を分離して設立された日本ガイシ(1919年設立時の社名は日本碍子)などの伝統的セラミック製造企業もみられる。
[山本恭裕]
『日本セラミックス協会編『トコトンやさしいセラミックスの本』(2009・日刊工業新聞社)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…窯と炉を総称して窯炉と呼んだり,窯と炉を区別することもあるが,この区別はあまり厳密ではない。窯を使う産業を窯業と称し,陶磁器,ガラス,セメント,耐火物などが窯業製品である。窯を作業面から分類すると,連続窯とバッチ窯とになる。…
※「窯業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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