日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブローチ」の意味・わかりやすい解説
ブローチ
ぶろーち
brooch
衣服に飾る留め針式の装身具。本来は布や衣服の端を固定する実用的な留め具であったが、装飾がつけられて、おもに上半身に用いる装身具となった。待ち針型、安全ピン型、ばねで挟むタック型などがある。古代エジプトでは魔除(まよ)けの意味をもつスカラベ、ホルス、ウラエウスなどのブローチがあり、古代ギリシアのペローネ、古代ローマのフィブラは一種大型の安全ピンである。ブローチの最盛期はビザンティン時代といわれ、精巧な細工と宝石、七宝(しっぽう)で飾った華美なものが男子服にも流行した。生花や造花のコサージュもブローチの一種で、17~19世紀に流行し、水を入れた小瓶に挿した生花の胸飾り(ブトニエール)も考案された。近世以降、マントの着用が廃れ、衣服が体にそってくると、ブローチは留め具としての実用性を失い、一時はもっぱら帽子の装飾として用いられた。19世紀、男女両用だったブローチは、近代男子服の完成につれて男性には不要となり、婦人専用の装身具として再登場する。ビクトリア朝初期には準宝石や色石、ナポレオン3世期には金のエナメル細工品が流行した。日本に輸入されたのは明治末期で、一部上流婦人の和服の肩掛け留めとして用いられ、昭和の初めに一般化した。現在おもに婦人服の襟や胸元を飾り、打合せを留めたりするが、スカーフや帽子、ベルトなどにも用いる。シャープな印象のピン・ブローチ、プラスチック製などの軽いものなどが若い人に好まれている。
[平野裕子]